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忘却の勇者  作者: くろむ
後生一生編
142/175

第百三十八話 悪成敗!

(状況を整理しよう)


突如として現れた武装集団。

展示会建物内はたちまち制圧され、ミナト等はある手錠を嵌められていた。


(魔力を使えなくさせる効果ってとこか。

素の力だけでこれを引きちぎるのは無理そうだし、かといってこれを着けたままあいつらを倒すのも当然無理)


男達は人質を盾に建物内を占拠した後直ぐにこの魔力封じの手錠を嵌め。

入場者全員を抵抗不可な人質とし、外からの突入等に圧を掛ける作戦だったようで。

それが今上手いようにやられてしまった。ということだ。


(丁度別行動になってたアイク達も心配だ、建物が広くて人質も多いから無茶も出来ないしな……)


アイクがここに居れば。愛刀を持って来れていれば。建物がもう少し狭いか、人質がもう少し少なければ。

思い当たる言い訳はこの辺りだろう。


無い物も、こうなってしまった事も変えることは出来ない。


(考えるべきは今の状況でとれる最善手。条件は一つ、人質全員を無傷で救い出す事。

外からの助けを誘導するでも、俺らが倒すでもどっちでもいい)


出来ない事はどうやっても出来ない、ただ今出来る事に没頭する。


今まで弟子たちにそう説いて来たミナトだ。

当然思考を止める事はしない。


「駄目です、腕の形に完全に沿っているので隙間すらありません」


小さな声でベルが語り掛ける。


「ほんの少しでいい、糸が通せる程の間もないか?」


後ろで手錠が組まれているので自身では中々見ることは出来ない。

そこで隣で座らされている彼に頼み、手錠の事を観察してもらっていたのだ。


「…確かに力を入れたり抜いたりすると、一瞬空気が通る感覚はしますが……これだけでは間に何かを引っかける事も出来ないかと」


「!本当だな?」


「おい」


相手に悟られぬよう出来るだけこそこそ話していたが。

ここで会話が見つかる。


「さっきから何喋ってやがる」


「え、えぇっと……お手洗いに行きたいなー、、なんて…」


「はっ、行かせる訳ねぇだろ。黙って座ってろ」


制服から子供だと思われ甘く見られているのか、幸い特に細かく詰められる事もなく。


(アイク達の確認に行けたらとでも思ったがそりゃ無理だよな。

だが手錠(こっち)はどうにかする目途が経ったし、後はどうやって無傷でここを制圧するか…)


破壊不能、当然抜け出す事も出来ないこの手錠をやり過ごす方法は見つけたらしい。

が、直問題はここからだ。


入場者全員が人質扱いではあるが、一番問題なのは直接掴まれている人達の存在。

そこから助け出すのは決して簡単な事ではなく。

流石のミナトでも単独でそれを成し遂げるのは厳しい。


しかし幸いにも今彼は一人ではない。確かな実力を持った者が一人、すぐ隣に居る。


(細かい連携とかは出来なくても、役割さえハッキリさせれある程度は連動出来るはず。

手順を考えておかないと……失敗は許されないぞ)


ベルの頭脳が優れている事は聖魔祭での活躍で既に分かっている。

代々受け継がれてきたアフィスがあるなら、その速度はかなりのもの。

知能も身体能力も備わっている彼こそ今の相方としては相応しい。


「俺とお前の手錠、両方外れた瞬間が合図だ」


そんな彼にさっきよりも声を抑えて作戦を告げ始める。


「外す手段が?」


「ああ。頼みたいのはその後、あいつらとの戦闘は俺に任せてくれ。そっちは人質の救助と守備をお願いしたい」


こくりと頷き、続きを聞く。


「奥のあの人を最初に開放する、その後は流れだ。対応してくれるな?」


「任せてください」


先程考えていたように、細かい連携が取れる程の親密度もなければ。じっくり作戦を練る余裕もなく。

相手が人間である以上戦闘中の指示は相手へ筒抜けとなるのであまり使えない。


だからこそ瞬時の判断と咄嗟の反応が求められる難しい場面。

そんな中でも冷静でいられるベルも、流石の心の強さを持っている。





(フラジオだったら楽々なんだろうが、俺は少し時間が掛かるし治しておく必要もある。

怪しまれないよう慎重に……)


最初に取り掛かるのは手錠をどうするかについて。


クラスメイトの事を頭に思い浮かべながら彼は、なに何か指を動かしたと思えば。

手首を確実に締め付けていたはずの手錠を外す事に成功していた。


「!?」


その様子を見て隣のベルも驚いてたが、周囲に悟られてはいけないと平静を取り繕いながらも。

視線は彼の手に釘付けに。


(後は戻してからこっちの手も……)


彼が行った事は、関節外し。

手首から先の骨と言う骨を弄ったかと思えば、そのままするすると手錠から抜け出している。

端から見ればかなり痛そうな光景だが本人はそうでもないらしく、軽々と抜いた骨を戻す様子は少しホラーだ。


(この手錠はそこまで上等な物じゃない。

恐らく一度着けた対象の形を覚えておくものだろう、ならその形を変えれば簡単に抜けられる)


簡単に抜けられる?こんな事が出来る人物がそうそう居てたまるか!とツッコみたい気持ちも山々だ。

実際彼もこの技術を会得するのに長い年月を掛けてきているし、簡単では事は分かっている。


彼が言いたいのは、この手錠から抜ける方法はあり。

それは別に選ばれた人のみしか出来ないという訳ではない。という事。

つまりは相手の準備の甘さ、延いては計画の細かい部分が詰められていない事が分かったのだ。





(許してくれよ緊急事態だからさ……)


自らの両手をフリーにした後は、隠し持っていた武器を使ってベルの手錠も破壊……する直前だった。


ふと相手の様子を伺う為に辺りを見てみると、集団の中の一人がある展示品を注視している。

囲われているガラスに手を触れ、念願だったとでも言うような瞳で。


「ここから……こいつで俺は、世界を……!」


だが秘められている思いが決して良いものではない事は直ぐに分かった。


そして恐らく今回の襲撃の目的だったのであろう目の前にあるそれは、勇者アレウスの剣。

男はそれを奪うつもりなのだろう。部下に持ってこさせたハンマーを振りかざしガラスを破ろうとしていた。


「すまないベル」


手錠の破壊と同時にそう呟き、走り出す。

謝罪の意味は分からなかったが合図なので遅れないよう急ぐベルが目にしたのは。

言われていた計画とは違う行動。


向かって正面奥に居る人質を最初に助けてから、その後この部屋を制圧。の流れだったはずが。

ミナトが向かったのは少し方向外れて行き。


(これは俺のエゴだ。分かってる…それでも!)


向かった先に居るのはアレウスの剣を狙っているだろう男の元。

奇襲を仕掛け相手の体勢が整わない内に、ミナトは鞘に納めたままの脇差を首筋に直撃させ。

一瞬で気絶させる。


その後はワンテンポ遅れてしまったが奥の人質救出に。


制服の裾に仕込んであった手裏剣を即座に取り出し投擲。

それを手に持っていた剣で防御させた後、懐に飛び込んでいくベル。

アフィスを使い圧倒的な速さで接近、打撃を加えて怯んだタイミングで人質を奪還。

次の瞬間ミナトが男の方に追撃を入れ倒しきる。


二人が一瞬並んでいたが直ぐさま互いに動き出す。

直接掴まれてはいないとは言え今後人質となる人物は多数いる。

そうなる前に奴らを制圧しなければならないのだ。


______________________________________


「ふぅ、一先ずここはクリアだな」


このエリアの敵は全員倒す事に成功し、軽く一息つく。


「ビックリしましたよさっきは。

聞いてた話と全然違いましたからね」


「う……悪かったよ、ただあいつに触れさせたくなくて」


「何をですか?」


「!」


自分で言っておきながらビクっとしている。

かつての友の愛剣をあんな野郎に触って欲しくなかった。なんて言えるはずもなく。


一瞬言葉に迷っている最中、建物奥から何か爆発音が聞こえてきた。


「今の音は…もしかして無差別に攻撃を始めたんじゃ……!」


そう焦るベルを静止するようにミナトはある事を告げる。


「いや、安心しろ……これは敵じゃねぇ味方の魔法だ」


何故居るのかは分からないが、とても見覚えのある魔力反応。

言われてみてよく気を遣うとベルもそれに気が付く。


「ルチアが暴れてやがる」


思わぬ味方を確認し、一気に好転の兆しが見え始める……!

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