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忘却の勇者  作者: くろむ
後生一生編
140/175

第百三十六話 案外抜けてたり、ね

今回留学生として選ばれたのは学年から計十人。

多いと思うかもしれないが、何しろ第一魔法学園は人数が多い。つまりはクラス数も多い。

五クラスあるのでそれぞれに二人ずつ。と考えた結果で。


一組二組それぞれ五名と、男女比率も合わせて半々になるようしたらしい。


なので各クラスに男子一名女子一名がそれぞれ入る事になるのだが……。


{これは……これは奇跡なのでは!?}


その振り分けは教師陣の采配となるので、生徒側が決めることは出来ない。

だからこそ理想の人物と同じ振り分け先となるのは運次第だ。


{きっかけとしてこれはあまりにも大きなチャンス!モノにしない手はない!}


つまり、今彼女が密かに心の中で舞い上がっているのも仕方がない事……?なのだ。


(視線を感じる……合宿の時の人だよな?もしかしてあの時怒りでも買ってしまったか?

つーかあれ、よく考えたらあの時ルチアの班にいたけどこの人二組だろ?そもそもなんであの場に居たんだ?)


ふと不自然な点に気が付き始める。


合宿の実戦演習。祟り神から救ったあの時の生徒だという事は覚えていたが、よくよく考えてみると彼女は二組の生徒。

同じクラス同士で班が組まれるルール上本来彼女馬あの場に居た事はおかしい。


(そういや校内でもあんま見かけないし、、、もしかして精神操作系の魔法で潜入を……!ってな訳ないんだけど。

機会があったらあそこに居た理由聞いてみるか)


一瞬まさか過ぎる思考にも行きかけたが、流石にないと冷静になり。

また今度話しかけてみようかという所で結論を付けた。


(まぁ正直今俺が気にしなきゃいけない事は、学園長に二人きりの状況である必要がある事と。後は……)


朝、授業が始まる前に第四の生徒全員で挨拶に向かったが。

当然他の生徒も多く居たので頼まれていた用事は済ませられず。

どころかまともに話す事すらままならなかった。


(あの人もいまいちだったな。聖魔祭の時は俺が意識し過ぎてただけか?いやでも……)


そして今一番気掛かりな事は早朝に出くわしたベルの事。


以前とは少し違う雰囲気を纏う彼を見て、何でそう思ったのか。

もし実際にこの短期間で変わってしまったのだとしたら何が原因なのか。

色々と考えてはみたが答えは分からなかった。


父親である学園長ニューサ・エレディータを見たらまた感じるものがあるかも。と思ったが。

結局彼もアレウスの面影の様な物は見えてこず、何も分からずじまいで終わり。


現状、持っている情報が少なすぎてこれ以上は幾ら考察しようと意味がない状態に。


(仕方ない。これも何かの縁で、あいつへの恩返しって事で。

一応他校同士で見聞を広め合うのが目的の留学なんだし、趣旨には逸れてないどころか寧ろ合ってるはず)


そうして始まるのは……。


幸いにも留学生という事で人は彼に関心があり、比較的優しく接してくれる。

これを使わない手はない。


「ベルの事?」


「うん、、実は今朝少しだけ会ったんだけど、あんまり話せなかったんだ。

せっかくここに来たんだし、色んな人と話してみたいなって思って」


先ずは別クラスにはなるが同学年の彼らへのインタビューを決行。


「まー良い奴だし、すげー奴だな。学年の人数こんなに居るのに、他クラスの奴の名前まで覚えてるよ」


「おぉ……それは凄いな」


(これはあいつと一緒なんだよな)


「俺なんて一回しか会った事ないのにだぜ?ちょっとビビったよな」



一人目に聞いたところでかっても分かり、次々と声を掛けていく。


「ボンボンの家の割には良い奴」


「あれで頭も良いんですよ彼。初学期の筆記テスト学年四位だったらしいです」


「この前付きっきりで剣術教えてもらって、お陰で苦手克服する事が出来たんだ」


「カリスマって言葉の意味がよく分かったよ」


などなど数名の話を聞き。


(まぁ……なんか評判すっげぇ良いな。本当にアレウスと同じような事言われてやがる)


他のクラスの生徒なんかにも聞いてみたが、どれも良い評判ばかり。

正に完璧超人。のような言われようで非の付け所がない。


(でもここまでは想定の範囲内、こっからはもっと近い人物により詳しく聞く必要があるな)


あくまで同じ学年。精々同じクラス程度では、彼の表面上の部分しか知る事は出来ない。


そうと決まればとある人物達との約束を果たすのと同時に情報を探りに行く。


______________________________________


「ベル君と仲が良い人ですか?」


昼休みの食堂。


久し振りに三人で食べようとなり、アイクとアンテレの二人に誘われていたのだ。

そこで周囲の生徒に比べればまだ聞きやすいこの人物に質問する。


「そうですね、、、仲が良いとはまた少し違うかもしれませんが。ゼノさんは比較的一緒に居る時間が多いんじゃないですか?」


「確かに今朝見た時も二人で居たな……。

いきなり変な事聞いてすまない、でも正直助かる」


「いえいえ全然。ですがどうかしたんですか?」


「んー……折角だから話しでもしてみたいな、って思ってさ」


それは良いですね。と素直に好感的な受け取り方をしたアンテレとは別に、直ぐ横で会話を聞いていたアイクは何か意味ありげな視線を送るばかりで。

この会話に入る事は無かった。


「……」


______________________________________


昼食を取り終わると、自然と解散の流れとなったが。


「……どうした」


先程まで黙っていたアイクが帰ろうとするミナトを引き止める。

しかも言葉ではなく制服の裾を指掴んで、だ。


中々に珍しい仕草。


「ミナト、ベル君に何かあったの?」


「!?」


ベル君と何かあったの?ではなくベル君に、な時点でかなり察しが付けられているし。

さっきまでの短い会話だけでその考えにまで至って時点で彼への理解度が非常に高い事が分かる。


「……」


(言い逃れは出来ないか)


~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~


学園祭終了後。

きちんとした場を設けて話は行われていた。


「フレアさんから聞いたよ、色々あったって」


「そう…だな。確かにあった」


「じゃあ僕からとやかく言う事はしないけど、一つだけ言わせて」


こちらもこちらで、ずっとミナトへ言いたかった事を言う機会が出来た。


「困った時は僕の事も頼ってくれていいからね。

まだ頼りないかもしれないけど……ずっと味方でいる、って事だけは覚えておいてほしい」


{ようやく、、言えたな。

ほんとフレアさんには感謝しないと、僕一人じゃどれだけこの一言が言えなかった事か……}


心の中で彼女に感謝を述べながらしっかりと言葉にして告げる。


「……ああ、、、もしどうしようもなくなったら、頼るかもしれない」


~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~


{あの後ミナトは、弟子にそう簡単に頼るような師匠ではないけどな。とか言って雰囲気を誤魔化してたけど。

今度は誤魔化させない}


少しでも彼に違和感を覚えると反応していたセンサーが、これからは察知するだけでなく警報まで鳴らしてくるようになった。

そう解釈するのが一番分かりやすいだろうか。


これまでは後一歩踏み込めなかったところに今は踏み込んでいく事が出来る。

聞いていいんだろうか、と思うところに踏み入って。

更には察知する能力も上がっている。


今のアイクにこれまでのような曖昧な回答をしたところで無駄だ。


誤魔化しが無駄だと悟れば、もう素直に白状するしか他なく。


「…今朝、登校する前にベルに会ったんだよ」


「!」


そうされなかったらされなかったらで悲しいが、実際にちゃんと話をして貰えるようになると感じるものがあるのか。

一瞬とても喜んだような表情を見せる。


だが今回は真面目な話。気を取り直し再び顔も真剣なものに戻す。


「その時に、、、なんていうか、変だと思ってさ」


「変?」


「この前見た聖魔祭の時と雰囲気が違った気がして。それも良い変化じゃなさそうで、どうにもな……」


「放っておけない訳ね」


話しは聞いても事態は全く分からない。


だが彼の言っている事を疑う事なんてしないし、それにベルは正真正銘命の恩人だ。

アイクにはこの件を無視することは出来なかった。


「分かった、ベル君ね。僕の方でも色々調べてみるよ。

と言っても…クラス違うからミナトと大して変わらない立場なんだけど」


快く手伝ってくれる姿を見て、彼の方も思うところはある様で……。


(今回は流れで結果的にそうなっただけかもしれないけど……頼るのも、そこまで避ける事じゃなかったかもな)


仕事のような関係である諜報員の彼らや、既に大人であり立場で言えば教師であるミケーレを除き。

なにか人に頼み事。というのは久しぶりで。


小さい事や、学校の授業などの業務上仕方なく的な事はまだしも。こういった答えのない問題。

いわゆる私事となれば本当に久しい事だ。




「ん?ところで、ベルのいるクラスにも誰か行ってるんだろ?誰だっけ」


各クラスに二名ずつうちの生徒が行っていて、しかもその二名の内片方は同じクラスの生徒である確率が非常に高い。

今回留学に選ばれたメンバーであれば全員話せるメンバーなので、その人物に頼ろうとする。


「えぇっと確か一組に居たはずだから……」


一応取っておいたメモの存在を思い出し、ポケットから取り出して確認してみると……。


「あった!同じクラスに居るのは……あぁ」


「ん?どっちも二組の人だったか、って……なるほど。確かにその反応か」


突然芳しくなさそうな顔をするアイクを見て、自身もメモを覗き込めば。

そこに書いてあった名前はどちらも馴染みがある。ありはするのだ、確かに。


「クロム君とルチアさん……どうする?」


(なんつー微妙なラインなんだ、一応面識もあるし話せるんだけどさ……)


最近授業外などでも話せるようになってきたクロムと、少しは棘も治まって来たように思えるがまだまだ友好的とは言えないルチア。


「……先ずは俺らで頑張ってみるか」


「だね、行き詰ったりしたら切り札として頼らせてもらおう」


結論は一致。


取り敢えずは自分達で出来るところまでやってみる方針に決定。

鍛錬など以外で、初めて二人が人の為に行動を共にする。果たしてこのコンビは上手くいくのだろうか……。

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