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忘却の勇者  作者: くろむ
後生一生編
139/175

第百三十五話 初めて行ってみる場所……良いよな

第一魔法学園。

四百年前勇者アレウスによって創設され。

その後五大国に出来ていった国立魔法学園シリーズの初代となる。


最初期こそ資金の問題などもあり校舎も小さかったが、そこから徐々に大きくなってゆき。

今では全五校の中で最大の生徒数を迎えられる、国内有数の敷地面積を持つ。





「いやー街並みも違うとは思ってたけどこれは……」


初学期にはあちらから来たが、今度はこちらが出向く番。


第四魔法学園からの留学生として選ばれた面々が最初に向かった場所こそ。

今正に目の前にあるこの第一魔法学園の生徒寮、通称「ベーリッヒ寮」


「デッカぁ……」


感想の一言目がそうなったアイクだが、そうなっても仕方のない光景が広がっているのも事実。


どう考えても普段彼らが使っているリベルタ寮の三倍以上はあるデカさ。

生徒数からしてその位の差はあって不思議ではない。だが実際に見てみると驚かざるを得ない。


「これは凄いな……うちの校舎よりは流石に小さい…よな?」


「だと思うぞ。中に入ってる施設数が違う、仮にも寮なら必要最低限の物しか入ってない筈だし」


アイクほどではないにしても面食らっているトロールを諭す。




そうこうしていると出迎えの教師や上級生が見えてきて、案内や施設の説明等を受ける。


(うちもこういうのやったらしいけど、俺その時は寮居なかったから知らないんだよな。

だから比較対象が無くて分からないが良い対応なんじゃないか?これは)


反対意見もあった中での今回だったので、多少はそれが見え隠れするような事もあるかと思って来てみたが。

最初の印象は悪くないどころか良さそうに見えた。


「じゃあ後は各部屋に案内させて頂きますが、学年毎に階層が分かれているのでここからはまた別の者にご案内させますね」


じゃあ後はお願いね、と言われミナト等一年生のグループの前にやって来たのは見覚えのある顔。


「あー!」


(お)


その人物の顔を見て馴染みのある二人は明らかな反応を見せる。


「改めて自己紹介を。第一魔法学園魔法科、一年三組のアンテレといいます。

短い間にはなりますが、同じ学び舎に通い同じ屋根の下で暮らす者として、よろしくお願いします」


寮部屋までの案内役として現れたのは、かつて留学生として一組に来た彼だった。


「久しぶりー!元気だった?」


「はい、皆さんもお元気そうで何よりです!その……あれからも色々大変だったと伺いましたから」


まぁ確かに色々とあったりはしたが。


ともかく今五体満足で再開出来た事は事実で、喜ばしい事だ。


「それでは早速ご案内しますね、お部屋は奥の方ですので少々遠いのが申し訳ありませんが…」


(そりゃそうだな。幾らここまでデカい建物でも、入る人数をキチンと想定したうえで造られてる。

予備の部屋があって、尚且つ個人部屋ってだけラッキーか)





部屋を案内された後は、長旅で疲れただろうという事で自由時間となった。


長距離移動のみの為に育てられた脚馬を使ってもなお移動には二日も要し、ここに到着したのも夕方頃。

殆ど二日間馬車で揺られ続ければ誰だって疲労が溜まる。


その事を見越して初日は特にイベントは無くそのまま休み、食事や入浴といった時に軽い説明を受けた程度。

明日からは授業参加となるので、一応最初に学園長への挨拶の時間があるとの事。


(先生に言われた事も案外すんなりいけそうかもな……。

でもそっか、、、ちゃんと会うのは初めてか)


彼女からの頼みとして、ニューサ・エレディータに接触を図りたかったミナトにとっては好都合なイベント。


だがその前にふと思う。

話しを聞いた時から、馬車に揺られている最中でもずっと頭に残り続けている事。


呪いの件があって以降仲間達の姿を見る事を避けていた彼は、その子孫達との接触も同時に避けていた。

ベルとは以前聖魔祭で少し見たり話したりもしたが、あくまで少しだけ。

しかし今回は面と向かって話さなければならない用事もあるし。それ以外でも話す機会が出来るかもしれない。


彼が接触を避けてきた理由は簡単だ。かつての仲間たちの事を思い出してしまうから。


いざ目の前にすれば複雑な思いになるのは、考えるまでもなく分かっていた。


_______________________________________


翌日。


(……どうするか)


いつもと違う場所でも変わらぬ睡眠を取れるのは長年の旅で身に付いた特技だろう。


それはいいのだが、習慣として身に付いている早起きもセットで着いてくるのは少々困る時もある。


(流石によく知りもしない場所で振り回すのもな……先ずは場所探しがてら散歩でも行くか)


日課である素振りもしたいところではあるが、流石に場所は選ばなければならない。


なので今日は使えそうな場所の散策をしつつ周辺の立地の把握。

という名目の散歩を行う事に。




(朝もちょっと冷えて来たな……)


外に出る為のルートとして、万が一にも人の迷惑にならないようにと中庭に出てみたが。

我慢出来るほどではあるが気温は思っていたよりも低く、季節の移り変わりをはっきりと感じる事が出来た。


(にしても本当にデカいな、、四棟もあるとか尋常じゃねぇ。

他にも建物あるみたいだけどその説明はまだ受けてなかったし、また後にでも聞いてみるか……って)


新しい場所に来て色々と考えたりしていると、とある人物が視界に入り込んで来た。


これも運命のいたずらというやつなのだろうか。

偶然というには出来過ぎた人選とタイミング。


丁度昨夜思い浮かべていた彼と、それとは全く別の理由で話がしたいと思っていた人物。


「おはようございます。朝早いんですね、お二人とも」


「はい、おはようございます。

そちらこそ、こんな早い時間に何か御用ですか?」


直ぐに挨拶を返してきたのは、今回の留学へ行くきっかけの一つであるベル。


「…」


無言で会釈だけするもう一人の男は、ここに来るなら絶対に会おうと決めていた人物であるゼノ。


(まさかこんな所で会うとは……)


ビックリはしつつも、さっきの問いに答えなければならないと思い。

特に嘘が必要な場面でもないのでありのままを話す。


「実は普段から早起きで、、、少し体でも動かそうかなと」


「そうでしたか。

でしたらあちらに自主練に使える施設があるのでまた宜しければ。魔力の登録だけ済ませれば早朝でも、ある程度の時間までなら夜も自由に使えますので」


(やっぱそういう施設もあったか。つーかそんな場所うちの寮にも出来るって結構前に言ってなかったっけ?あれどうなったんだ結局)


「そうなんですか、じゃあまた今度使わせてもらう事になりそうですね。一緒に来たあいつらでも誘って」


言い終わると。こっちは質問に答えたのだから次はそっちの番。

と言わんばかりに今度はミナトの方が質問を投げ掛ける。


「お二人はこんな早い時間に制服を着て…もしかしてもう学校に?」


「いえ、さっきそこで自主練を済ませてたんです。

確かに今日は早めに登校しますが、流石にここまで早くはありませんよ」


「朝から熱心なんですね……良い事だと思います」


なんて事のないような会話を続けている中で。

彼は気付いた事があった。


(模範生みたいな喋り方、聖魔祭で会った時はそこまで感じなかったんだがな)


ほぼ初対面の相手に礼儀正しく接するのは確かに正解だ。

でも普段の彼を知っている人物ならさっきまでの喋り方は少しむず痒く感じただろう。

それはこの前とは少し違う雰囲気を漂わせているベルに合わせてのもの。


「でもさっきの言い方から、そちらも普段から早朝トレーニングをしているのでしょう?流石ですね、ミナト君」


違和感、と形容していいのだろうか。


「……お互い頑張りましょうね」


「はい。それではまた後ほど、学校でお会いしましょう」


そう言ってからゼノを連れて二人で去って行ったが。

ミナトは何かを考えながらその後ろ姿を見て、その場からは中々動き出さなかった。


(前は感じたんだけどな、でも今は……)


どうして先程からなにか妙なものを感じて止まないのか。


理由は直ぐに分かった気がした。

元から感覚で感じていたものなので確証なんてなくてもいい、ただ勘がそう言っている。


(似てねぇな……アレウスに)


聖魔祭で見た時は確かに既視感を覚えていたはずが、今はその面影を感じず。


ただの優等生、ベルにしか見えなかった。


そう感じただけ。で片付けることも出来たがミナトの勘は他と少し違う。

これまで幾度となく窮地を潜り抜けるきっかけを与えてくれた勘。運命を少しずつ手繰り寄せて行ってくれた勘。


どうにも彼にはあの少年の事を無視しておく事が出来なかった。

脚馬とは、長距離移動の為に訓練されてきた馬の種類で。

その速度は通常の馬車と脚馬を使った馬車で倍近い差が出る程です。

元は足が速いだけの種類でしたが、長い歴史の中で徐々に今のタイプに変わっていったそう。

その変化は、一説によれば自然の変化ではなく魔法を使って遺伝子を操作したのではないか。という都市伝説も噂されている様ですが……。

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