第百三十三話 バトン
諜報員達からの報告を聞いた翌日。
放課後いつものように向かい合って座るミナトとミケーレ。
「先生、授業のルール変更をお願いします」
「……ほう?」
時は遡る事数日前。
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「は?ミナトと組みたい?」
「う、うん」
それはオーズの所から始まった話だった。
あるクラスメイトが密かに思いを打ち明ける。
「剣術の時に、って事?」
「そう……」
「なんでそれ俺に言うんだよ……先生指定の時以外に組みたいんだったら普通に話しかけに行けばいいじゃねぇか。
あいつ結構受けるよ?そういうの」
「違うんだって。その、、、分かるでしょ?アイクだよ」
「あー……それは確かにそうだな」
剣術授業の際、自由ペアであれば殆どアイクと組む彼なのだが。
実は彼に声を掛けてみたいと思う生徒はゼロでなく。
案外同じ様に考えた事のある者も結構多いそう。
だがそうなった時彼らが一番気にするのはミナト本人ではない、いつも組んでいるアイクの方なのだ。
{ミナト自体への怖さとか緊張もありはするだろうけど。あの二人の間に割って入っていく、ってのは確かにハードル高いな}
いつもは鬼の様に厳しくアイクを叩きのめしている彼に多少なりとも恐怖を抱くクラスメイトも居はする。
しかし彼が本来優しい性格である事も知っているので、厳しくても良い鍛錬になるだろうとは確信も出来ていた。
ただ、厳しい打ち合いに向き合う覚悟がある彼らに立ち塞がる最後のハードルはその隣に居る。
「なんていうかあの二人って……邪魔しちゃいけないっていうか、入れない空気みたいなのあるじゃん」
{んー分かる、分かってしまうんだよ。
別に二人のどっちが悪いとかじゃなくて、単純に一緒に居る時間が長すぎてな……}
ただただ仲が良いのが原因で生まれてしまった特別な空気間。
「まぁ気持ちは俺も分かる。でもなんでその話俺にしてきたんだよ、別に人の間を取り持つとか得意じゃないの知ってるだろ?」
「でもあの二人と話せる人の中で相談できるのが他にいなくて……どうにか頼まれてくれないかな?」
「何をだよ。まさか、こいつが組みたいって言ってるんだけど、とでも言わせるつもりじゃないだろうな」
いつもの鬼特訓を見た後でもペアを組みたいという度胸は感心しているので、どうにかしてあげたいとは思うが良い策を考えるほどオーズは頭が良くはなかった。
「……そうだよね、先ずは出来る事をしなきゃだよね。
決めたよ、僕明日の授業で声掛けてみる!」
「ん?いや良い心意気なんだけどちょっと待て、ほんとに大丈夫か?」
「大丈夫!そもそも人に頼む前に自分で出来る事をやってからだよね!ごめんオーズ君いきなり言っちゃったりして」
何故か急に燃え始めた目の前の彼を見て、これはマズいと思い。
その日のうちにこちらでも何かしておこうと思い立ったオーズが取った行動は……。
「そっか……僕のせいでそんな事が」
思い切ってアイクにその事を伝えてみる。だった。
「いやお前が悪いって言うかそのだな……仕方ないよ誰が悪いとかそういう話じゃないし」
「でもそういう空気を作ってるのは事実なんでしょ?申し訳ないよ、ミナトを独占してるみたいで」
確かに師弟の関係ではあるが、あくまでここは学校。
クラスメイト達に変な気を遣わせていた事を知り落ち込み始めたのか、しょんぼりした顔になっている。
「まぁでも分かったよ、取り敢えず僕の方からミナトに相談してみるね」
「おう頼んだ……最後にもっかい言っとくけど、誰かが悪い話じゃないからな」
「ありがとうオーズ君、、、更に色々気遣わせちゃてごめん」
{こいつあの地獄の特訓にはへこたれないのにこういうの弱いのな……}
少し以外、というか思わぬ部分を知れたところでバトンは移り。
「なるほどな……」
アイクからミナトにまで伝わって来ていた。
(これは想定していなかった事だが……あいつらの成長意欲が高い事は好都合だ。
確かに良い機会かもしれないし、先生に相談してみるか)
「ごめんねミナト……僕のせいで巻き込まれちゃって」
「気にすんなよ、俺の弟子だろ?安心して待ってな。
この件はどうにか出来そうだから、また決まったら報告するよ」
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「ーで、私まで話が来たと」
かなり長かった伝言リレーは最終的にここに辿り着いたのだった。
「ルールを変えるのは構わんが、どうするつもりだ」
今回の話の原因は言わばミナトとアイクの二人が放つ空気だ。
それを変えようとするには本来長い時間が必要になるが、そんな中彼が思い付いた策とは……。
「ペア決めは全てそちらに委ねる事にするのはどうでしょうか」
ならいっそ、空気よりも重いルールが加わればどうだろう。
「確かにそうすれば遠慮とか以前の問題になるが……いいのか?」
「大丈夫です、あいつも理解してくれると思いますし。どの道必要な事だったんですよ」
このルールにすれば、ミナトと組みたいという願い自体が消え。チャンスはクラスメイト全員に平等となる。
自由は無くなる代わりに全員が平等な立場。
多少反感を買う措置かもしれないがこれも彼らの成長の為だと思えば、ミケーレとしても頭ごなしの否定は出来なかった。
「じゃあペア決めはこちらが指定した順番で回す方針でいいな」
「それでお願いします。
すいません毎度色々頼んでしまって」
「気にするな、丁度また頼み事があるから」
いい笑顔での一言目は、良い先生だな。と思ったのに。
次の言葉でいつもの彼女だ。いやそれより下手に隠さない方がよっぽど良いのかもしれないが。
まぁ兎に角らしい感じが前面に出ている。
「一応聞いておくんですけど……その頼み事って?」
念の為今聞いておく事に。
「この前言ってた第一魔法学園へ向かう件だ、日程もそろそろ発表する頃だからな」
「あー確かにそんな事言ってましたね…」
「で。頼みってのは向こうでもあいつらの監視兼護衛をしてほしい、ってのと」
これはいつも通りなので特別言われる事でもない。
だから本題が二つ目なのは容易に想像が出来た。
「学園長……ニューサ・エレディータについてだ」
「!」
第一魔法学園への短期留学まで、あと二週間。
その間彼は……ライコウ捜索時以来の多忙生活を極めていた。
そろそろキャラクターが増えてきたので、まとめ兼紹介するページを今度作ります。
留学に行ったらまた懐かしい奴も出てきて名前分からなくなりそうなんでね。
ただ名前と登場回書くだけってのも面白くないんで、本編ではあまり触れないキャラの見た目とかも一緒に乗っけておくので。
結構需要のある物になると思っています。しばしお待ちを。