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忘却の勇者  作者: くろむ
後生一生編
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第百三十二話 分からないならどこまでも

「早速だが報告を聞かせてもらう」


「かしこまりました、では先ず以前の報告後からの時系列で……」


ここはミナトの実質的な手下である諜報員達への指示出しや報告を受ける場。

例の秘密基地の様な酒場だ。


結局あれから学園祭は特に問題もなく無事に終えることは出来たが、問題は無くならないどころか増えてしまっている始末。


元々の魔族関連だけでも手一杯だと言うのに、それに加え先日突如感じた謎の気配。

調査、対処すべき案件が増えすぎている。


「……ここまでは良いのですが、問題はやはり先の学園祭にて感じられたと言うあの気配についてです」


これまでの説明はいつも通りだったが今日の本題はここ。


普通ではない明らかな異常事態。せめて原因とは言わずとも、そこからどんな被害が出る可能性があるかどうか位は情報を入れておきたい。


「残念ながらうちの者達は私含め殆どの調査員が気配を感じませんでした。

面目有りません」


「それはいい、でも調査は進めてたんだろ?それに殆どって事はゼロじゃなかった、続きを話してくれ」


「はい……。

報告を入れてきたのは大陸北東にある小国、シンボロに居た者からでした」


(北東だと?可能性としては……いや先ず聞こうか)


どうやら思い当たる節があるミナト、だがそう感じているのは彼だけではなさそうで。

話しをしているマスターも顔つきが明らかに険しさを増していた。


「その者も何かの気配を感じた様で異変を調べたところ……」


何が見つかったのか、緊迫した空気が流れていたが。


「特別異常は無かったと。報告を受けています」


「……は?」


あれだけ溜を作っておいて、成果は無しときた。


「見つかった事は精々、魔族の拠点があった位だそうです。

ですがそれもこれまで発見してきた物と同程度で。

立地的にやや発見が難しかったから遅れただけで、特別な事は何一つ無かったと」


「待て待て、、、幾ら言っても大陸北東だぞ?何かしらあいつらが実験していたとしてここまで気配が届くか?

それに探知に長けた奴が感じた訳でもないあれを?もっと情報はないのか」


「今現在調査員を数名派遣しております。合流し次第拠点潜入、調査、制圧する手筈です」


魔族が集まる拠点を制圧するのは決して簡単な事では無い。

全員が優秀な人員とは言え、元々数の少ないこの組織で被害者が出る事は一番避けたい。

なのでこれまでも戦闘になりそうな場合には先ず数を集めるのが鉄則となっていた。


「そうさせてくれ、確実に頼む。流石にその距離じゃ俺も行けないからな。

ただ確実性が第一だ。相手の取り逃がし、調査失敗、こちらに被害が出るのも絶対避けろ。

多少時間は掛かってもいいから安全策を取るよう言っておけ」


(もしそこで何かあったとしてもこれまでの傾向からして、戦力を過剰に集める事は恐らくしていない。

制圧自体は問題ないだろうが情報をキチンと取ってこれるか真の問題だ)


こちらの戦力の心配はしていないが、警戒すべきは相手の慎重さと徹底ぶり。

尋問されれば答える前に遠隔で殺す事で情報を隠し、時には拠点を爆破したりととことん尻尾を隠し続けてきている。


だが今回は重要度が他の拠点とは異なってくる。


(流石にあの気配の感じ方は普通じゃないなんて言葉で表せられるレベルを超えてる。

無視は当然としても調査延期は論外。なるべく早く、且つ確実に原因を探さないと……)


ミナトが焦るのも無理はない。


小国シンボロは大陸北東に位置し、大陸の中央付近にあるこことの距離はかなり離れている。

それに一番の懸念点となるのは北東という場所。


かつて破壊の魔王、シヴァが現れたのも大陸北東からであったからだ。


シンボロは魔王軍の支配下から解放された土地を、近くの村落に住んでいた十人程度の人達が移住し。

その後徐々に移住して来る者も増え始め今となっては小さいながらも国となった場所。


(あいつは最初国や大規模集落を次々と落として行った事で世界中に喧嘩を売った、だったかな)


考えなければならないのは最悪の事態。


否定はしきれない不安材料が一つ、どうしても無視できないものが一つだけある。


「新たな魔王の誕生……」


魔王はミナトが戦ったシヴァだけでない。過去の資料からも遥か昔には別の魔王が居た事は確認されている。


そしてもし魔王程の存在が生まれたのなら、大陸全土に気配が届くなんて余裕で考える事が出来るのだ


「先代と同じ様に動き出す可能性ですか」


「無いとは思うがな、やつらの性質上。

ただここ最近の動きからしてこれまでの考えは通用し辛い。その可能性もあるが、行動原理はどっちでもいい。

問題はもし本当に新たな魔王が生まれていた時だ」


(絶対にあの時の様にはさせない……だが)


ミナトが今最も危惧しているのは新たな魔王が生まれているかどうか。

そしてそうなった時、彼には対抗する力が無いという事。


力が無かったのは四百年前も同じであったが、当時と違って今の彼には成長という概念が無い。

正確には殆どなく、少なくとも短期間で更に上を目指す事は不可能だ。


筋力の向上が見込めない以上技術を伸ばすしかないがそれも厳しい。

これまで数百年という長期間で練り上げてきた技術がたかだか数ヶ月程度でどうこうなるとはとても考えられない。

要は頭打ち状態なのだ。


(確かに現代の戦闘レベルは昔よりも高い。

先生やあのラビリスって人達が居てくれるなら勝算が全く無い訳でもない。

だが前回と違い向こうの戦力は分からない上、恐らく依然と同じ様には戦わせてくれる事はなく。

各地に散って挑戦者を待つなんて事はせず全力を持って叩き潰してくるだろう。

そうなった時どうしても戦力が足りない可能性が出てくる……)


当然昔と違うのは彼だけでなく相手も同じ。


油断しきった幹部連中と一人一人戦う、なんていう以前と同じ事は出来ないと予測。

どこまでいっても相手の全貌が見えず、戦力が足りていない未来が訪れそうでならない。


最悪を考え続ける彼の思考の行く先は結局以前と同じ場所に辿り着く。


(戦力として、それに自衛出来る能力も欲しい。

やっぱり進めるしかないな……クラスメイト育成計画)


魔族に対抗できる戦力もそうだが、彼が本当に欲しているのは後者の方だ。


いざと言う時やはり自分を守れるのは自分しかいない。

常に守ってあげられる訳じゃなく、どころかいつかは彼らも誰かを守る側に立つ可能性だってある。


自分自身を、そしてこれからの未来や大切な人を守る為の力。

その力を得るための成長をほんの少し彼がサポートするだけだ。


(先ず手始めに……)


計画の第一手は既に決まっている。


ここからミナトによるクラスメイト育成計画が本格始動となるが。

同時に魔族側も裏で活動をひっそりと進めつつあった。

両陣営の対決は既に始まっている、果たしてどこまで彼らが伸びるかどうか……。

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