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忘却の勇者  作者: くろむ
後生一生編
133/175

第百二十九話 一見ほのぼのに見えるけど……

(さて、思い立って即行動は良いが……どうしよう)


先程はルチアの前で、同じ事はもうしないなどと言っていたが。

実際言えない事は依然として言えないし。似たような顔であると予想しているだけで、彼女の悩みがアイクと同じかどうかは分かっていない。


つまり特に何も考えないまま歩き出してしまったのだ。


一応時間的にはこれから見回りは休憩となり。

そこのタイミングは非常に良かったのだがそれ以外が殆ど決まっていない。


(アイクの時は俺にも過去に似た経験があったし、そもそも原因が分かってた。

けど今回は違う。なんでフレアさんが……と言うよりどんな顔してたのかも知らないし。本心を伝えるって言ってもいきなり過ぎて訳分かんないだろうし……)


考えても考えても答えは出なかった。


せめてもう少しルチアに話を聞いておけばよかったと後悔していたが。

こうなってはもう仕方がないと割り切り、逆に彼女を探し始める事に決める。


(うだうだ考えてても分からないものは分からないままだ。

だったらいっそ本人に会って探ってみたらいい。幸い今は学園祭、授業なんてないから時間はいつもよりある)


確か今は出店の手伝いをしている時間であった事を思い出し、当番の店まで取り敢えず向かい始めた。





(で来たのはいいけどさてどうするか。

いきなり、ちょっと話しあるんだけどどうかな。なんて言える訳もないし。

不自然じゃなくてフレアさんも不快にならず、且つ折角の祭りを後も楽しめるように……あ)


彼女と自然と話せる場に持っていく方法を考えながら歩いていると、ついさっきの出来事が脳裏に過ぎる。


予め言っておくが、彼は至って真面目で真剣に考え。最大限真摯に彼女と向き合えるよう、彼女に嫌な思いをさせずこの祭りを良い思い出にしてもらおうと考えた末導き出した答えである事。

決してそれ以外の。邪な考えなど微塵もない事は分かっておいてほしい。


_______________________________________


そして遂にその時はやって来る。


フレアが店主の方々に挨拶をして、屋台から出て辺りを見渡すと。

直ぐに彼と視線が合った。


「あ、ミナト君。

もしかして見回り中?」


「いや今は自由にしていい時間なんだ。そっちは今当番終わったところ?」


「うん!皆すっごい良い人達で、明日もお手伝い出来るの楽しみなんだ」


嬉しそうに話す彼女は、本当にただの学生にしか見えず。

そんな少女に辛い思いをさせてしまっていたと考えると、胸が苦しくなって。改めて自責の念が湧いて出てきていた。


でも今それは置いておいて、すべき事を全うする。


「今日この後どうするかは決めてるの?」


「んー、、ルチアさんはこれからお手伝いの時間だから……一人でぶらぶらしてようかなーって思ってるけど」


「そっか。ならさ、もし良かったら俺と一緒に周らない?」


自然と会話出来ている事に手応えを感じているミナトに対し、理解が追い付かないフレア。


{周ら……ん?えっと、、、ん?}


「えぇ!?」


「うわビックリした……もしかして嫌だった?」


「いや全然全然!嫌とかそういうのじゃなくてなんというかその……」


彼の周囲からのイメージは。

生粋の武人、鬼教官、常に修業の事考えてそう。と言ったもの。

勿論全員がそう思っている訳ではないし、目の前の彼女もそこまでとは思っていない。


だがこういう祭り事に興味を示しす人物だとは思わず。

ましてや自分がその隣に居るなんて考えもしなかっただけだ。


要約すれば誘われて超ビックリしている。


「あ!アイク君とかと一緒に?もしかしてトロール君とかオーズ君とかも居るの?」


「?特に皆は誘ってないけど」


「!?」


更に困惑が止まらない。


(もしかして二人は嫌だったかな、やっぱりいきなりだったし今迄は大体アイクが居たから……)


{なんで?どうして急にそうなったの!?あ、案外こういうお祭り事好きだったりするの?}


唐突過ぎる誘いが良くなかったかと不安になり始めるミナトと、訳が分からな過ぎてフレアは困惑しかしておらず。


{でも考えてみたら、前も大きな市に来てたし本当に好きなんじゃ?}


少しずつ落ち着いてきてはいたが話は全く進んではいない。


「あの、、いきなり言ってごめん。やっぱまた皆と時間があった時にでも……」


別に話をする機会は今だけじゃないし無理に焦らなくてもいいと思い、今回の話は無しにしようとしたところ。


「ま…待って!」


引き止めたのは彼女の方だった。


「ちょっとビックリしただけだから、だからその……折角だし一緒に周ろ?」


「……うん」


何故か最後は逆に誘われる形になってしまったが。

まぁ結果的に本来の目的通りに事は進み、舞台が整ったのならあとする事は一つ。


_______________________________________


「……」


「……」


その後二人で歩き始めたはいいものの。


状況にまだ慣れていない彼女とどうやって切り出そうか悩む彼。という構図で全く会話が弾んでいない。


「と、取り敢えず何か食べよっか。こんなにお店も出てるんだし」


「そうだね!あぁえっと……あそことかどうかな」


「じゃあ行こっか…」


ぎこちない。

お見合いをしていると言われた方が納得のいく程の空気。


(んー、こんなはずじゃなかったんだけどな……)


確かにまだ心を落ち着かせられていないフレアもそうだが、この空気を作っている一番の原因が誰だと言われたら彼だ。


授業と言う名目があったり、他に誰かいたりするとこうはならない。

だが二人になった途端こうなってしまっている。

普段は、話す相手が誰であろうと知らん。のようなスタンスである癖に今はこのザマだ。


(……一旦私情は捨て置け。

何をするかは決めたはずだ、俺が嫌われる分には問題ない。ただ今は……)


この空気が良くなくて、それの原因が自分である事もしっかりと自覚しているのは流石か。


今自分が何をすべきかを考え不必要な感情や思いを削ぎ落していく。

とにかく彼女の事だけを思って。


「……そう言えばさ」


さっき屋台で買ったスイーツを食べながら切り出し始める。


(甘っ)


一瞬そっちに気を取られたが。彼女の方も美味しそうに堪能していたので今のところそこまで真剣な話だとは思っておらず特に問題は無し。

気を取り直して話に意識を戻す。


「気のせいかもしれないんだけど……もしかしてアイクと何かあった?」


「んっ!?」


ビックリして一気に意識が持っている物からミナトの方に移る。


「えぇっと、、特にはなかったけど。なんで急に?」


{流石にあの事は言えない……ごめんねミナト君}


「何となくそう思っただけ、ただ前より仲良くなったりしたかなって思ったから」


もし彼の予想が当たっていて、アイクと同じような悩みを抱えていたならそれを共有しているなど。

その辺りだと踏んでの質問だったがかなり的を得ていた。

ただしその事は言えないので結局躱されてしまったのだが……。


「……」


{本当に今日はどうしたんだろう。もしかして私達がやろうとしてる事に気が付いて……るかもしれないけど。

それはそれで良いのかな、別にバレてても。

でも気になる。それで分かってどう思ったのかと、私から何を聞きたかったのか}


最悪アイクとの共同戦線が向こうに勘付かれたとしても、さして問題は無い。

それだけ気に掛けているという事を知ってもらえれば何かしら心境が変わるかもしれないから。


だが気掛かりなのは今日学園祭を二人で周ろうとしてまでミナトが知りたかったことが何なのか。

もしこちらの思惑に気が付いているならそれを知ってどう思ったのか。

そして何故……今日だったのか。


{ただ単純に質問の意図を聞いても、今日の行動の意味を聞いてもきっと答えてはくれない。

でも……}


「……じゃあもしさ、アイク君と何かあったって言ったら。どうしてたの?」


飛んで来た質問にあまり間を空けず答えは返って来た。


「別に何も。クラスメイト同士が仲良くなるなんて良い事じゃないか。

だからどうこうってつもりで聞いた訳じゃなくて、もっと単純に疑問に思っただけだよ」


返答は彼女の予想通りのもので、最初からあまり期待はしていなかった。

それでも続けざまに質問を投げ掛ける。


「今日私を誘ったのは、、それを聞く為?」


「……」


だが今度の質問も躱されるのは前提で、次に本命をぶつけようと考え。

取り敢えず返答を待ち。

その後に仕掛けようとしていたのだ、が。


「違うよ」


想定外ではあったがまだ問題は無かった。

この続きを聞くまでは。


「俺フレアさんとはさ、あんまり特別仲が良いって訳でもないから。こんな事急に言われて困惑するだけかもしれないけど……。

フレアさん。何に悩んでるの?」


「……へ?」


「違ってたらいいんだけど、、それの原因が俺にあるんじゃないかって」


最初に誘われた時以上の衝撃。


「今日はその話をしたくて誘ったんだ」


初めから驚きっぱなしのフレアに、一番の難問がやってくる。


ずっと本心を探る側……追っている方だと思っていたのに、今回は逆。

探られる側、追われる側に自分が立っていたのだ。

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