第百二十七話 こっそり見てたり
学園祭も始まり早数時間。
「お疲れ様です先輩」
「ミナト君もお疲れー」
「特に問題らしい事はありませんでした」
「まぁ今日は招待制だからねー、トラブルらしいトラブルはあんまり起こんないと思うよ」
「はい。ですが気は抜かずに行きましょう」
「真面目だねーほんと」
風紀委員の見回り中、偶然出会った先輩に挨拶と報告。
(確かに通常のトラブルは少ないだろうが……奇襲や計画的な犯行が起こる可能性はある。
万が一に備えておいて損もない。初日も次も関係ない、俺がこの学園祭を平和に終わらせるんだ)
生徒の親族や学校関係者、研究科の発表を見に招待を受けた人物達など。
今校内に入る事が出来るのは全て学校側が身元をしっかり洗えている者のみである為。
突発的なトラブルが起こる可能性は低く、二日目からが真に意識を向けるべきだろうという考えもある。
だがそれこそが油断であり隙を生む心構え。
一切の悪を許さぬつもりで周囲に気を配るミナトは少しピリついていた。
はずだったのだが……。
「……何してんだ二人共」
「うわっ!ミナトか、、ビックリした……」
なにやらコソコソと明らかに不審な動きのアイクとトロールを発見。
(最近よく二人で居るの見るな……じゃなくて)
今は見るからに挙動不審の二人を問いただす必要がある。
「見回りご苦労様、大変そうだね」
「まぁ現に今も不審者二人見つけたからな」
「不審者?どこに居るの?僕に手伝える事あったら言ってね!」
「アイク、それは俺達の事だ……」
「ええっ!?」
絵に描いたようなコメディの一コマ。
普段は真面目故硬くなることも多いアイクが、祭りもあってかかなり表情豊かに反応している。
それ自体は全く持って良い事なのだが問題は問題だ。
「二人して何してたんだよ、こっそり覗いてたみたいだけど……」
「それはね…ってちょっとミナト隠れて!」
「ちょっ、うおっ」
聞いている最中に体を壁沿いに引っ張られ、同じ様に隠れさせられる。
ここまで強引なのも珍しく余計に事態が分からず困惑するミナトに、アイクが若干はしゃいでいるように指をさしながら話す。
「ほらあれ見て」
「あれって……オーズか?」
「違うその隣、一緒に歩いてる人!」
そう言われ廊下の先に居る人物の顔を見てみると。
(あの人は実況の、、、モニカ先輩?なんであいつと一緒に…)
見覚えのある顔ぶれではあったが、未だよく分かっておらず。
ここで呆れた様子のトロールの説明が入る。
「どうやらあの二人で学園祭を周っているみたいなんだが、、、それをちょっと見て行こうって俺も言われてな」
(つまり巻き込まれたって訳。でもなんか色々意外だな。
アイクが人の事こっそりつけてたりするのもだし、オーズが先輩と二人で居るのとかも)
「で、なんでお前は隠れて見たりなんかしてるんだよ。
別に気になるなら声掛けたらいいだろ?」
なんとなく状況は掴めてきたが肝心の部分が分かっていないミナトに、珍しくアイクからの熱弁が飛んでくる。
「分かんないのミナト?学園祭を男女二人で周るって事はそれつまり……そういう事でしょ!?」
「どういう事だよ、仲良くて意外って事か?」
「よく考えて!別にクラスメイトでもなければ偶然会って話してる訳でもない、明らかに二人で一緒に居るんだよ!
こんなの恋愛以外のなにものでもないって!」
「!!」
ここでようやく事態を把握する。
「だからってこうするアイクも分からんが、あそこまで言われて分からないお前もだと思うぞミナト」
「ぐ……いいだろ別に。ていうか尾行は程々にしとけよ。
周りから見たら明らかにやべー奴だし、あの二人も嫌な思いするかもしれないし」
「分かってるって、あとちょっとだけだから!ね?お願い!」
普段は察しが良くても時々肝心な部分が分かっていないミナトは、特に恋愛と言った要素にとことん疎い。
直接的でなくても少なからずそう言った感情が関係のある出来事では、冴える頭も通用しなくなる。
起因に恋愛関係が絡むとこうなってしまう彼はこれまでも重要な部分を履き違えて来ていた。
それ程疎い彼は今アイクがこうしている理由も未だに分かっていない。
仮に二人が恋仲であったとしても、何故それをこっそり見る必要があるのか理解できないのだ。
(恋愛か……まさかオーズにそんな人がいたとは。
それ自体は別に良い事なんだけど相手があの先輩ってのが一番だな)
だがここで事態を把握した事である事に気が付く。
(3、4…5かな。あれもしかして全部か?)
アイクと同じ様に二人を隠れて見ている者を次々と発見。
しかし全員がこちらと同じ理由ではない事が今なら分かる。
彼らがオーズに向けている視線に嫉妬や妬みと言った感情が強く籠っていて。
そう言えば以前。モニカは隠れ人気がある、のような話を聞いた事がある事を思い出していた。
中々誘い出せなかった彼らの怨念を背に受けるオーズはそんな事全く気づいておらず。
呑気に今の幸せな時間を楽しんでいる様子であった。
_______________________________________
意外な現場を目撃してしまったが、本来ミナトは見回り中。
あまり仕事を放棄する訳にもいかないのでその後すぐ巡回のルートに戻っていた。
(…良いじゃねぇか、実に学生らしくてさ)
さっきの出来事を思い出しながら歩いていた時。
「おっ」
突然後ろから制服の襟部分を一瞬首が閉まる程掴まれ、引っ張られる。
いきなりであった事と、かなり容赦の無い引っ張り方に振り返る前からその人物に検討が付く。
「……どうしたよルチア」
振り返りながら彼女の名前を呼ぶ。
「ちょっと話しあんだけど」
親指で後方を指差し、着いてこいとジェスチャー。
その顔はいつものような不機嫌全開ではなく、真剣さと少しの怒りの籠った表情をしていた。
だが表情など見るまでもなく彼の答えは決まっている。
「良いぜ、手短に済んでくれたらありがたい」
実はルチアが話しかけるタイミングを見計らってたのは内緒ね……