第百二十六話 意外
まさかルチアに兄がいただけでなく、世界最高峰の魔法研究機関である国魔に所属している事が分かり。
更に今度は祖母まで登場し状況はてんやわんや。
「ルーちゃんにもこんなにお友達が出来たなんて、、、嬉しくてぽっくり逝ってしまいそうじゃい。ふぉっふぉっふぉっ」
「それ洒落になってないから。あとその呼び方止めてってずっと言ってるよね」
随分愉快なおばあさんらしく元気に冗談を言ったりしている。
「ほら皆、お菓子要るかい?」
注意されていても一瞬の隙をついて裏に周り、フレア達にお菓子を配ろうとする始末。
正直本当に彼女の祖母なのか疑いたくなる程陽気な方だが。
安心してほしい。正真正銘親族でちゃんと血は繋がっている。
「いつもルーちゃんと仲良くしてくれてありがとね、はいこれクッキー」
「あげなくていい!いきなり困っても皆困るでしょ?」
「そんな……私のクッキーは貰っても迷惑なのかい……おばあちゃんショック」
「あぁーもう……」
その後もなにかとおふざけを辞めないおばあちゃんと言い合いを続けるルチア。
{かなり愉快なおばあさんだな、、、もしかしてルチアが家族内で突然変異なのか?}
さっき話に聞いた兄ももしかすると陽気な人なのかもしれないと考え始めるトロールに。
{今度ルーちゃんって言ってみたら……流石に本気で殺されるかも?でも反応見てみたい気もするな……}
アイクもアイクで冗談を考え始め最早まともにしているのはミナトとフレアのみ。
「なんかイメージとは違うけど、仲は悪くなさそうだよね」
「健全な言い合いって感じか」
事実さっきから怒りっぱなしのルチアも、やれやれとなりながらちゃんと付き合っているし。
家族仲は良好そうだ。
「ん?あなたもしかして……」
すると突然、視線がミナトに向き足早に近付いて来て顔をじーっと見つめる。
「……えっと、、」
いきなり至近距離で見つめられればそりゃ誰だって戸惑う。
もう今度は何だ、とばかりにため息をつきながら止めようとするルチアが次の一言で固まる。
「やっぱりそうだわ、前に何年か前にうちの近くに出た魔物を追っ払ってくれたあの子にそっくり。
というかそうなんでしょ?」
「!?」
ドキッとせざるを得ない言葉を告げられ返等の内容を慎重に考えるミナト。
(待て一回冷静になって考えろ。俺の顔を知ってるって事は冒険者名義じゃない時で、且つ時期は数年以内。
そして確かルチアの実家は魔導書店だってアイクが言ってた、そこから絞れば……あの時か!)
高速で頭をフル回転させ瞬時に当時の出来事を思い出す。
「…そう言えばそんな事もあったような……」
やや誤魔化し気味に答えるしかなかった。
ミナトはこの状況のヤバさがキチンと分かっていた、何故ならその助けた時と言うのが今から十年近く前だという事まで思い出せたから。
(数年はまだしも流石にそこまで前だと怪しまれる、、、でもここで嘘を付いたら見破られると俺の勘が言ってる!なんとか誤魔化し通すしかない!)
経験上この手のご老人は勘が鋭く嘘が通じない場合が多い。
今迄も自分を幾度となく助けてきた勘に頼るしかなく、強引にでもこの場を終わらせようと画策。
「でもあれって結構最近だった気も、、去年とか一昨年とか……」
無理があるのは承知で一旦繋ぎ。この後適当な言い訳を言ってから委員の仕事があると言って、抜け出そうとした時。
「私も……随分歳をとったせいでどれ位経ったか覚えとらんの。
ルーちゃん覚えとらんか?」
「……覚えてない」
(どっちもあんまり詳しくは覚えてなさそうだ、これならなんとか!)
希望の光が見えてきた所に更に追い風まで吹き始める。
「確かにミナトだったら二、三年くらい前でも普通に魔物とか倒してそう…」
「うん…なんか違和感ないし流石って納得出来るな」
ここでアイクに続きフレアまでもが押してくれる形で続き。
「案外最近じゃったか……まぁどちらにしろありがとうね、ルーちゃんとも仲良くしてくれてて」
なんとか誤魔化しきる事に成功した。
「いえいえとんでもない」
(仲良くは……っと、下手に視線を向けない方が良いな)
もし触れてしまえば今は良くても後が怖い為普段険悪な事は言わず。
その対応で良かったのか、ルチアが先程から送っていた妙な視線もようやくミナトから外れる。
「はいはいお袋んとこ一緒に行くよ。
悪いなフレア、また後で合流しよう」
そう言いながらなにか駄々を捏ねるおばあちゃんを押して行った。
またしても人が送られていく様を見届け終わると、ミナトが皆に告げる。
「なんか一段落突いたみたいだし、俺は見回りに戻るよ」
「あぁそっか、頑張ってね」
「おう。皆は祭り楽しんでな」
簡単に別れの挨拶だけ済ませ仕事の方に戻っていく。
「俺も出店の手伝い割と直ぐだから早めに行っとくよ、じゃあな」
今度はトロールもそう言って歩き出し、気付けば残っていたのはアイクとフレアの二人のみ。
暫しの沈黙が続いた後、お互い糸が切れた様に肩の力を抜き息を吐く。
「いやー…今のはあれで良かったよね」
「……私はそれが正解だと思ったから続いたんだよ。咄嗟に言ったの結構凄いと思う」
二人が気にしていた事は先程のルチアの祖母がミナトに見覚えを感じていた時。
「確かにあそこで聞けばなにか知る事が出来たかもしれないけど……」
「少なくともミナト君はそれを避けてた」
「だったら僕たちは無理に詮索しない方針だよね。
良かったー、意見一緒で」
確かにミナトの過去に繋がる数少ない手掛かりではあった。
もしかしたら入学以前の話が聞けたかもしれないがそれは二人の流儀には合っておらず。
だから誤魔化そうという流れに乗り、彼の知らぬところでフォローしていたのだ。
「そう言えばトロール君の妹さん達とはどうだったの?その……何か辛そうな顔してたとか」
自身が来る前の出来事を聞く。
「多少思うところもあったと思うけど、そこまで深刻そうではなかったよ。
僕にあの事言った時も割とケロッとした感じだったし、乗り越えれてはいると思う」
家族の事をアイクに話した時は差ほど深刻そうな様子ではなく、過去として消化出来ている様子だった。
実際身内の死事態は乗り越えられているのでそこは心配する必要はない。
だがそんな事を知らぬ二人からすればなるべく触れないでおこうと、出来る範囲で誰も触れないように守ろうとする部分らしい。
「……」
再び両者の間に沈黙が生まれる。
一通り彼の事を話し終えたら周りの音がやたらと耳に入って来た。
沢山の人達の喋り声や笑い声。歩く物音から何かを食べている音まで。
「……僕は適当にぶらついとこうかな」
「私はルチアさんと合流して来るよ」
「……」
別に二人きりが気まずい訳ではない。
たださっきまで真剣な話をしていたからこそ、急に祭りの空気に戻されるとどうしたらいいのかよく分からなくなってしまっただけだ。
「じゃあまた会ったら」
「うん、じゃあね」
微妙な空気のまま二人も別れ、遂に学園祭が本格的に始まる。
さっきの出来事は二十分もない位の事だったのでまだスタートの放送が鳴ってから三十分そこそこしか経っていない。
何が起こるか分からない祭りらしい始まり方であると言えるだろう。
因みにルチアの兄はクールな感じで、妹より少し周囲とも話せる感じです。
明るいのは祖母と、父の兄。ルチアにとって叔父さんに当たる人物は陽気な人だが、それ以外は皆落ち着いた性格をしています。
あ、あとこれ以降ルチアの家族が出てくる事はありません。
なので兄の登場を期待していた方がいましたら、申し訳ございませんでした。