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忘却の勇者  作者: くろむ
後生一生編
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第百二十四話 学園祭……始まり!

「っし、じゃあ今日はここまで。お疲れさん二人共」


今日も今日とて日課の特訓が終わり、ドカッと腰を落とす二人。


「あれ?二人共って事は今日僕もここまで?」


「そうだ。明日は折角の祭りだからな、多少は楽しめる元気を残しておいてもいいだろ」


「……そっか」


彼の言う事が意外に感じ呆気に取られたような返事をすると……。


「でももしやり足りないって思うんならとことん……」


「大丈夫大丈夫!今日はもう疲れたししんどいなと思ってたところで…!」


余計な事態に繋がらないよう全力で言葉を覆い隠す。


「だろーな。今回はガッツリ肉体強化メニューだったから、時間は短くてもしっかり効く内容だったはずだ」


{確かに言い逃れるとか関係なく今日は疲れてたけどそういう……}


遂に翌日に控えた学園祭を前に、意外と優しい考えのミナト。


「今日はパパっと終わらせたから早めに休んどけよ。んで明日気分転換出来たらまた明後日から通常通りに戻るから」


「はーい」




その後、明日の事を楽しそうに話す二人を見ながら彼が思うのは。特訓を早く終わらせた真意と、これからの事。


(勿論何もないのが理想だし、もし何かあったとしてもこっちで秘密裏に処理するのが次善になる。

だが現実はそうはならないでほしいと思った方向にこそ向かって行ってしまうもの……。

こいつらの体力云々もそうだが俺としても時間が欲しい)


今の彼は気を付けなければならない事が多過ぎる程にある。


明日の学園祭では人間魔族の両方に言える不審者の侵入。もしかすると学園だけでなく以前の様に都市事態を攻めてくる可能性まで。


(魔族はまだしも同じ人間にまで警戒しないといけないなんて、ほんと世の中変わんねぇな。

ただ……これ以上皆に理不尽が降りかかてくるのは阻止したい。

これからの未来が必ず明るいという訳ではない、いつかは困難もやって来るだろう。だが少なくとも祭り位は純粋に楽しんでほしい……そしてそれは俺達の仕事だ)


それはただの風紀委員としてだけでなく、ミナトという人間として。

四百年間の全てを賭けてでも()の彼らを守り通す。

誘拐事件以降、心に深く刻んだ事だった。


________________________________________


学園祭当日。


ミナトは風紀委員の最終ミーティングに来ていた。


「巡回ルートや非常時の対応等についての確認も済んだところで……なんと今日は皆にサプライズがある」


(サプライズ?)


何やら少し笑みを浮かべながら、そのサプライズとやらを呼び出す。


「入って来てくれ」


そう言われ教室の中に入って来たのは彼も知る見慣れた顔。


(おいおいマジかよ……)


衝撃を受けたのは彼だけでなく他の生徒達も驚きを隠せていなかった。


「今回特別助っ人として見回り、警備に協力してくれるクロム・ドンナー君だ!一応挨拶よろしくね」


最後にこそっと言われたので素直に従い自己紹介を始める。


「一年二組のクロムです。

今日は僅かながらに皆さんに協力させて頂きます、どうぞよろしくお願いします」


これには皆も喜び、「頼りになる」だとか「これで威圧感はバッチリ」や「人手が増えるのはありがたい!」であったりと。概ね好評的な反応だ。


(今さり気なく威圧感どうこうって言ってる人いたよな?確かに迫力あるけど。

初対面の後輩に言っていい言葉か?一応褒め言葉やからセーフ?)


若干引っかかる反応もありながらも、思わぬ助っ人にはミナトも喜んでいた。


(人手は有るに越した事無いしその人がクロムやったら不足ないどころか超プラス。でもよくこいつ引っ張ってこれたな)


来てくれた事は本当に嬉しいがあまりこういった事に協力的なタイプとは思えない彼をどうやって連れて来たのか。

それだけが疑問に残ったまま最終ミーティングは終了した。




「よぉクロム、まさかお前が来るとは流石に思わなかったぞ」


「……そうか」


(相変わらずだなこの感じ……)


各々配置に着くまでの少しの空き時間、そのタイミングで話しかけに言ったが。

よくよく考えればまともに話すのは今回が初といっていいレベルであることに気が付く。

今まで話した時と言えば、聖魔祭団体戦での作戦会議や王都防衛戦で偶々魔族を追って鉢合わせた時に少し会話した程度。

一応誘拐事件の時も少し話したがいずれにせよ、まともに話したかと言われればどれも怪しい。


(あん時は基本サヴェリオとか他の奴も居たし緊急事態とか抜きで話すのは本当に初めてか?

ヤバいそう思うと何喋ったらいいか分からなくなってきたぞ……あ!なんで協力してくれる流れになったのか聞かないと)


話しかけに言ったはいいものの会話が途切れて気まずい空気。を避ける為に話題を考えたが、そもそも何故ここに居るのかを聞く為に声を掛けた事を思い出す。


「なんでここに来る事になったんだ?ただの善意、とかじゃないんだろ」


もしそんな事を考える奴ならば風紀委員も生徒会も両方を断るとは思えないから。


「……それを聞いてお前になんの得がある」


「いや得とかじゃなくてさ、純粋な興味だよ。

考えてみれば俺達サシでまともに話した事なかったし。いい機会だと思ってな」


そう言われると、暫く考えたのかかなりの間を空けてから答えた。


「委員の仕事があれば店番をしなくて済むからな…」


ようやく帰ってきた答えは真面目さや誠実さなど一切ない本心。


普通ならなにかツッコんだり、ギャップから笑ったりするところなのかもしれないが。相手はミナト。

そして忘れてはいないだろうか……二人の思考回路はかなり似通っている事を。


「……俺と同じだな」


勿論学園祭の事を加味して風紀委員に入った訳ではないが、もし逆の立場でも同じ事を考える。というだけだ。


「先生から頼まれて受けたのか自分から言いに行ったのかは……」


最後まで言う前に、答えは返ってくる。


「人が足りていないと聞きました。と言えば喜んで話を進めてくれたよ」


クールな顔して言っている事は合法的なサボり方。


普段の彼を知っている者からしたらかなり面白いシーンだ。


「はは、最高だな。

でも人手が欲しかったのは本当だし実際助かる。頼りにしてるぞ」


「……ふん」





こうして思わぬ助っ人が加入したところで、学園祭始まりの合図が鳴る。


『さぁ皆さん!開始の音頭を取らせて頂きますのは聖魔祭に引き続き、研究科三年のモニカが務めさせて頂きます!』


(あ、やっぱあの人がやるのか。つーか放送だとちょっと熱が入って人変わってるよな)


『それでは今年度の第四魔法学園、学園祭……スタートです!』


得意の音波魔法で学校敷地内にその声が響き渡り、それと同時に一部では歓声が上がる。

それほど楽しみにしていた人達も多かったのだろう。


校内が一瞬にしてお祭りムード、既に大盛り上がりだ。

運営や見回り等で忙しいため、生徒会と風紀委員に入っている生徒達は出店の手伝いをしなくてもよい。というルールがあります。

一応志願すれば手伝いに行くことも出来ますが、そうすると学園祭を周る休憩時間がなくなるのでわざわざ志願する生徒は殆どいません。

因みにクロムのは普段から積み上げてきた実績とイメージによる特例です。(彼の真意はどうあれ実際助かる人が多いのも事実なので悪かと言えば微妙)

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