第百二十三話 分かんないもんだ本当に
学園祭。なんて名前をしているが実際には祭りをする為の体裁を整えたいだけだ。
このイベントは主に二つの顔があり。
一つは研究科や技術科等が日頃の成果を発表をする場。
界隈からはそこそこ人が集まり、聖魔祭の無い彼ら最初の晴れ舞台となる。
二つ目は出店などのよくある祭りだ。
別にクラスで何か出し物を決めたり店を作ったりしないといけない訳ではなく。
基本的には一般の方々が開く出店に協力する形で生徒達は参加する仕組み。
(で、普段学校と寮の行き来だけの生徒の息抜きと、地域の人達との交流を図るイベント。ねぇ)
なので魔法科の大半の生徒達は、前日の準備と当日。それと後片付けだけなのでそこまで忙しくはない。
ただ一部。主に委員会などに入っている者達はそれなりに忙しい日々を送る事になる。
つまり風紀委員という重要な役割を担っている委員に入っているミナトは当然仕事が多い。
(学園祭間近になると浮かれる生徒が多いとか、当日も毎年何かしらトラブルが起きるから絶対気が抜けないとか。
大変だなぁ風紀委員も)
大変だなぁ風紀委員も、なんて他人事のように言っているが大変なのは彼本人だ。
「更に、今年は例年以上に警戒が必要とされる。そしてそれは当日だけでなく準備期間でも同じだ。
学園祭前になると一般の方も出入りするようになる。勿論先生方による校門でのチェックが入るが、万が一が起こる可能性はゼロではない。十二分に気を引き締めてほしい!」
そう、ここまで強く呼びかけているのにも理由がある。
「今年の学園祭は開催を不安視する声も少なからずあった。
この中にはその理由に強い心当たりがある者も居るだろう、無論君達も生徒である以上我々教師が必ず守るが。ここに居るのは風紀委員だ。
いざと言う時は頼りに出来る者が集まっていると、俺は思っている」
普段会議でもあまり発言する事はないウォーデンも今回ばかりは違う。
今年度に入り立て続けに起きる事件から学園へ不安の目を向ける者も多くなってきた中開催される学園祭。
もしここでも何か問題が発生してしまえば長年築いて来た学園への信頼が落ちる可能性もある。
それだけは絶対に阻止しなければならない。
(結局俺がやる事は普段と変わってないな。
基本は先生を頼っていいけどいざと言う時は頼むぞ、って。こういう役割を担う運命か……)
だが彼にとってそれは日常で。
少し対象と規模が違うだけでいつも同じような事をしてきた。
(流石に無いとは思うが魔族側が大胆な奇襲を掛けてくる可能性も捨てきれない。
今のやつらは行動が読みにくくなっているからな……気が抜けないのは変わらず、か)
当日やって来るかもしれない輩がただの不審者かそれとも魔族か。
どちらにしろいつも以上の警戒が必要だとミナトも感じ気を引き締めていく。
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会議が終わり、いつもの特訓場所に向かおうとしていたところ。
「あ」
「ん?」
偶然廊下で遭遇したのはサヴェリオ。
いつぞやの時ミナトと共に街を練り歩いたりもした彼だ。
「ミナト氏、こうしてちゃんと顔を合わせるのはあの時以来ですね」
「そ、そうだな……あの時は色々助かったよ」
「にしても意外でしたね、まさかミナト氏が案外抜けているところもあったとは」
「おぉそんな風に見られてたのか……」
「?どうかされましたか?さっきから若干様子が…」
最初から様子が妙なミナトを心配しているが、その予想自体は当たっていて彼は今かなり困惑している。
(なんか距離近い?別に嫌って訳じゃないけど、、、そういうタイプだとは思ってなかったな)
以前の自身の記憶と少し違うサヴェリオを見て若干…というより割と本気で違和感を覚える程。
「もしかして体調が優れないのですか?」
「いや全然そんな事は……寧ろそっちこそ大変そうですね。
今回のイベントで一番仕事が多そうですし…生徒会の方達は」
ミナト、クロムにも断られた生徒会が声を掛けた人物こそ目の前の彼だった。
筆記試験では学年一位であったり、聖魔祭でもその頭脳で団体戦を裏で支えた功績等が認められた結果の人選らしく。
真面目な人柄からもピッタリであろう。
「それを言うなら風紀委員だって、暫くは見回りを強化するって議会でもお聞きしましたよ」
「はは…お互い大変そうですね」
(もしかして結構フランクな人なのか?前は真面目な場面が多かったから分からなかっただけで)
{やはりオンオフを切り替える人なのでしょうか、以前と雰囲気がまた違いますね}
微妙にすれ違う二人。この後生徒会の先輩がサヴェリオを呼びに来た事で別れたが。
どうすればいいのかよく分からず戸惑い気味だったミナトには正直ありがたかった。
(人も分かんないもんだな)
色々と気になる点はあったが一旦忘れて、再び特訓場所まで足を動かし始める。
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(ん?ありゃオーズか。また放課後に自主練でもしてるのか?ほんと頑張ってるな……って、行っちまった)
廊下の先でオーズを見つけたが、声を掛けるよりも先にどこかに行ってしまった。
どうやら誰かと話していたように見えたが、相手が曲がり角に居たのでミナトにはその人物が見えず。特に気にする事でもないかとスルーつもりで歩いて行くが…。
「おや、ミナト君じゃないかい?こんにちは」
こちらに曲がって来たのでバッタリ鉢合わせると、彼女は声を掛けてきた。
「こんにちは…」
(あれ?この人どっかで……)
妙に覚えのある声に、挨拶を返しながら記憶を遡っていく。
しかしその答えに辿り着く前に彼女が名乗る。
「私は研究科三年のモニカだよ!ちょっと聞き覚えのある声してるんじゃないかな?」
「あぁ、聖魔祭の時の」
言われてみればその通りだ。
流石にあの時とはテンションが違うので気付くのに遅れたが、確かに印象に残る声をしている。
「そう言えば自分のクラスメイトが以前お世話になったようで、、、その節はありがとうございました」
「オーズ君の事ね、大丈夫だよ!寧ろあれから良い話し相手と実践してくれる人が出来てこっちが助かってる位だし!」
「なら良かったです……ん?あれから?」
「うん、偶に……ってマズい!早く戻らないといけないんだった!急だったけど私はここで失礼するよ、それじゃあまた機会があったらねー!」
何か用事を思い出したのか彼女は足早に去って行った。
(さっきも何か話してたみたいだし、あれからも定期的に話したりしてるのかな。
人脈が広がるのは良い事だし普段あまり関わらない研究科の人であれば尚更貴重だ。良い知り合いを持ったみたいで良かった)
去って行く後姿を見届けながらそう思い、自身も再度歩き始める。
(思わぬ人同士が繋がってたり、意外な面があったり……ほんと人って分かんないもんだ)
今更ながらに改めてそう思うミナトであった。