第百二十一話 よくある日常に見えて……?
(校門で登校の様子を監視する、ねー。
結構遅刻とかする生徒も居るらしいけどうちには居ないからよく分かんないんだよな)
今日は風紀委員の数名が校門に立ち、生徒の登校を見守る日らしい。
目的は遅刻の防止や登校中でも気を抜きすぎないようにと言う警鐘の意図もあるらしく。
実際ミナトも見られる側でなんどか目撃した事がある。
だが気になるのは、どうやら遅刻して来る生徒もチラホラいるらしいという事。
何故気になるのかと言うと、一年一組では遅刻など殆どないからだ。
なので他のクラスがどうなっているのか前々から気にしていたとかいないとか。
始めての校門立ちなのでそんな事も気にしつつただ立って時間が過ぎるのを待つ。
だが集合時間は早めになっていたので、暫くは生徒など殆ど来ない。
今なら話をしても問題ないんじゃないかと思い隣に居る先輩に思い切って質問を投げ掛けてみる事に。
「あの先輩」
「ん?どうかしたか」
「質問があるんですけど、、よろしいですか?」
「勿論だ、大抵の事なら答えてやるぞ」
硬い人が多い風紀委員の中ではフランクな部類の人が同日当番で良かったと思いなが本題を。
「会議の時、遅刻して来る生徒も居るって言ってましたよね。
あれって実際どの位居るんでしょうか」
「む?もしやお前のクラスは遅刻が少ないのか?」
「少ないどころかほぼ無くて……だから話で聞いていてもあまり実感が湧かなくて」
「ふーむ……そうだ、確か担任はミケーレ先生だったな」
少し考えた後、ピンときた様子で彼女の名前を出す。
「そうですけど、、それが何か関係が?」
「なに、あの人は少々恐れられている節があるからな。遅刻なんてすればどうされるか分からんのだろう」
腕を組みながら高らかに言っているが、内容はそこそこ酷い。
要は皆彼女を恐れているからルールを守っている。そんな言い草だ。
「なるほど……?そういう事もあるんですね」
相手によって自身の生活スタイルや生活態度を変える、と言った発想がないミナトは理屈では理解していも心であまり分かっていない様子。
「安心しろ、俺もそういう輩の考えはよく分からん!」
(まぁそりゃ風紀委員にいる人はそうじゃない人達だろうけどさ。
正直俺は多少の遅刻位なら良いんじゃないかと思うけど……守れと言う立場に入っちまったからな。
その辺厳しくしなきゃいけないか)
風紀委員としての自覚が新たに芽生えたミナトであった。
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「だ、大丈夫だった?フレアさん」
午前最後の授業。
今回の剣術はミケーレがペアを指定する日だったので、アイクではなく彼女と組んでいたミナト。
最近は授業中でも容赦なかったがそれは相手が自身の弟子であったから。
当然他の生徒にも同様の動きをしている訳ではないがそれでも厳しめに相手をしている。
件を交える以上手を抜くのは失礼だという考えが根本に根付いている、という事もあるが。クラスメイト全体のレベル向上を図っているのも今は大きな理由だ。
「私からお願いしたんだし、、そんなに心配しなくても大丈夫だよ…」
息は切らしているが流石に動けなくなる程消耗している訳でもなく。
かなり良い塩梅で打ち合えたようだ。
「にしてもビックリしたよ。厳しく相手してほしいなんて、何かあったの?」
ペアが決まって直ぐ、彼女が彼にそうお願いしていた。
以前にも似たような事はあったがそれは聖魔祭が後に控えていたから。
それ以降は特に言ってくる事はなかったので今回は突然の申し出。
理由を聞かれた彼女は少しだけ考えた後答える。
「ミナト君今日委員会で門の所立ってたでしょ?その影響かな」
「そ、それが理由?」
「意外って顔してるけど、案外見てる側は色々思う事もあるんだよ?
なんとうか……頑張ってるなー!って思ったら、私も頑張らなくちゃって気持ちになって来ちゃって」
表情をコロコロ変えながら元気に話しているが、何か裏がある事は凄く分かりやすい。
取り繕おうとし過ぎて嘘が見え見えだ。
(もしかして言いたくないのかな。話すまで間もあったし……もしかして!合宿の帰りの事気にしてたりとか?それで強くなって自分の事は自分で守りたいとか、フレアさんの性格からすると今度は逆に助ける側に立つためにとか考えててもおかしくない……?)
一瞬で思考を巡らせ様々な事を考えたが、どれも微妙に間違っている気がする。
断定はできないがミナトは少し人の心を読む事が苦手なように見えなくもない。
ちょくちょくズレたりしているし、現に今も言っていること自体は間違っていないが答えは全然違う。
「……もし困った事があったら俺に言ってくれていいから。力になるよ」
結局何かを間違えたまま話を終わらせようとしている。
(俺に出来る事は少ない。でももし困ったら助け舟になる事位は出来る。
だから待つだけでいい……その時力になればいい)
この絶妙なすれ違い。
突然あんな事を言われ彼女はと言うと、非常に頭を悩ませていた。
{どうしよう。アイク君はちゃんと自分に出来る事をやってるのに私は結局どうすればいいか分からなくて。
一先ず授業で遠慮せず済む相手が一人でも増えたらと思ってお願いしてみたけど……逆に困らせちゃっただけだよね。
そもそも授業中にミナト君が孤独を感じてるかどうかなんて分からないし、遠慮せずに済む相手が一人増えたところでどうなるって言うか……}
若干うめき声が漏れ出ながら一人頭を抱える。
「……」
一緒に食堂へと向かおうとしていたところ、その現場を目撃してしまったルチアは。
珍しく無に近いと言うか、いつも以上に考えている事が分からない顔をしていた。
ただ一つだけ分かった感情があるとしたら……困惑だろう。
グラウンドで一人頭を抱え立ち尽くしている姿を見れば誰でもそうなるだろうが。
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「いやー……今日は大変だ…」
食堂。
そう呟くアイクはトロールと席を並べていた。
「どうした、さっきはあいつと組んでなかったからいつもより楽だったんじゃないのか?」
「それはそうだけど、、、授業で組めないと。じゃあその分今頑張ろうな、ってなるから放課後がキツくなるんだよ……」
「あぁ、、それはなんというか……頑張れ」
自身の過酷さを理解できる人物が出来た事はやはり大きかったのだろう。
以前より格段にトロールといる時間が増えている。
「そうそう。暫くの間はこいつもいるしまだマシだと思えよー」
いつも頼む日替わりテーショクを持って背後に現れたミナトに。ビクっとしながらもおかえりー、と迎える。
その後はお昼を食べながら雑談を交わす。
「ん、そう言えばちょっと気になってたんだけどさ。
この前も暫くの間、って言ってたけどいつまでとかは決めてるの?」
何度も同じ事を言うのでずっと続くことはないと決めているように聞こえるのは当然か。
確かに、と言われてみてから気付いたトロールも疑問になり彼の顔を覗く。
「そろそろだし今でもいっか」
小さくそう呟いてから話の中心となっているアイクの隣に座っている彼に一言告げる。
「お前、騎士団に興味ないか?」
「……は?」
何が何だか分からないでいる程二人を困惑させたのはそのたった一言。
いつもの食堂の中でその話は突然始まった。