第百十五話 雰囲気……大事
「と、言う訳で学級代表はアイクになった。これから私が居ない時は頼んだぞ」
「はい、精一杯頑張ります!」
(まぁこうなるか、他に適任って言われてもだし)
既に風紀委員への加入が決まっているミナトは、余裕綽々とした様子で委員会決めを眺めていた。
クラスの代表が決まった事に皆が拍手している中当然彼も手を叩いてはいたが、あまり興味なさそうな様子。
そしてそれは彼だけでなく、ルチアも同様だった。
学級代表を決めるとこのクラスでなれば、誰もが最初に頭に思い浮かべるのはミナト。そして次点でルチアだろう。
だがそのうち一人は既に別の役割が決まっていて、もう一人は……実力と実績的には文句なしだが人を束ねる人間かと言われれば、彼女を知る人間は全員首を横に振る。
委員に入る気などさらさらない彼女は最早欠伸すらしながら頬に手を突き、暇そうに座っているのみ。
アイクが学級代表となっても拍手すらしていない。
ただ何事もなくただ眺めていただけ。
それは決定に疑問感じなかったから、というのもあるだろうが……彼女の場合本当に興味が無いだけなのか判別がつき辛い。
(このクラスで他に適任って言えば……一応トロールも候補になるだろうけど、性格的にアイクの方が向いてるだろうし本人の意欲的にもこれがまずベストか)
学級代表が決まった後も、少々立候補者が少なかったりもあったが委員会決めは無事終わり。
その間大して興味なさそうなミナトは別の事を考えていたりもした。
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放課後。
初の委員会出席となる今日。
(ウォーデン先生が居る、って事以外は全然知らないまま来ちまったな……そう言えば先輩とかとまともに会うの初めてかも。
ちゃんと見たりする機会もなかったし、どうなるかなー。っと)
コンコンとノックしてからドアを開け。
「魔法科一年一組のミナトです、風紀委員の集合場所は……ここで間違ってなさそうですね」
言葉を言いながら確信する。
担当のウォーデンが居た、というのもあるがそれよりも他の生徒が放つ雰囲気がそうだと語っているようだった。
風紀委員は役職上実力が求められる場面がある為、メンバー全員の平均レベルがかなり高い。
(なんか武闘派集団って感じかも。生徒会がどうか知らないけど、確かに俺はこっちが合ってるだろうな)
それを見た瞬間に感じ取り、同時にミケーレが言っていた言葉も納得するように。
オススメの理由として仕事の特徴を挙げていたが、委員内の雰囲気も理由に含まれていたのだろう。
「君がミナト君だね、先生から話は聞いてたよ。
これから一緒に活動していく上で僕らは仲間になる、よろしくね」
恐らく委員長、というかよく見れば一人だけ風紀委員の腕章のデザインが少し異なっている為分かりやすい。
少し硬い印象だがしっかりと笑顔ではあるし、今も新入生に握手の手を差し伸べている。
「…お願いします、新人なので至らぬ点もあるでしょうがご容赦を」
当たり前だが払いのけたりはせず手を握り返すが、触れて更に確信は深まる。
(この人相当出来るな。魔法使いだろう、良い魔力だ。しっかりと練り上げられている。
流石第四魔法学園、先輩達を完全ノーマークだったのはよくなかったか……)
特異点のある一年生ばかりに注目していたが、ここは少数精鋭の第四魔法学園。
選ばれた人間のみが入る事を許されたこの場所の武闘派集団の長。弱い訳がない。
「じゃあ人も揃ってきたし会議を始めようか、席は自由な所に座ってもらって構わない」
ミナトの後に三人ほどやって来たところでようやく会議は始まる。
「新入りの皆に向けて風紀委員の役割を説明する。
他の生徒達に規則を破らないよう呼びかけるのが主な仕事だ。
見たことあるだろうが、校内の見回りであったり。校門付近に立って登校を見守ったりすもする。
基本的には校則を破っている生徒が居ないか見張るのが仕事だが、ここは魔法学園だ」
一般の学校と一味違うのはここから。
「実際に見た生徒は少ないと思うが、稀に本気で喧嘩をする馬鹿どもが現れる場合がある。
そうなった際近くに先生方が居なければ我々が対処するのだ。この腕章を着けている者だけが力による制圧を許可されている、のだが。
勿論我々が許されているのは喧嘩の仲裁で、無関係の生徒へ危害が及ばないようにする所まで。
もし仲裁の枠を超えて暴力を振るう事があれば……」
過去に何かあったのだろう、馬鹿の言い方がやけに強調されていた。
そして最後の言葉は同じ仲間への説明を兼ねた忠告である。
「その時は例え仲間だろうと我々が制圧する事になる。……そうならない事を願っているがな?」
魔力を放出し、万が一の事がないよう脅すような形で語り掛けてくる。
(要はやり過ぎたら逆に制圧対象になるって事か。あの人と戦ってみたい気はするけど、そういうのは違うからいいや)
場の緊張感が格段に上がったが、今更それに怯えたりする輩はここには居ない。
それを確認してから委員長の男は再び会議を進める。
「まぁ細かい所は後で説明するとして……先生、何か言っておくこと等はございますか?」
(お、遂にか)
ここでウォーデンにバトンが繋がった。
彼からすればようやくお出まし、と言える程待っていた瞬間である。
先程まではずっと見ているだけで口を開かなかったが、振られたのならばと。
「……風紀を守るのがここの仕事だ、それだけ守れれば良い。
ただもし行く先が分からなくなってしまった時は……こいつに着いて行けば間違いはない」
そう言って委員長の方に視線を送る。
両手を組んで座っているだけなのにこの威圧感と、この言葉の安心感。
あのウォーデンに頼りにされていると分かった委員長はあまり周りに悟られぬよう拳を握り締める事しか出来なかったが。それでも顔から嬉しさが溢れ出ていた。
(良いねぇやっぱり!ここに来て正解だったよ全く)
全ての立ち振る舞いが格好良く映るこの教師の為にここに来たミナトは、自身の選択と薦めてくれたミケーレに感謝をしていた。
「お、恐れ多いお言葉をありがとうございます…。
それでは気を取り直して、これから細かい内容について説明していきます。先ずは見回りのーーー」
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滞りなく進んだ会議は終了。
(初回はこんなもんか。
そもそも会議じゃなくて現場が本懐だし、役割設定だけ決めたら今後はもっと楽になるっぽいな)
勿論会議自体はこれからもあるが主な仕事が現場対応なので、最初の委員内での役割を決める今回がある意味一番頭を使う内容だった。
頭を使いたいという訳ではないが体を動かす方が好きなミナトからしたらありがたい。
体を動かす、もといアイクとの特訓の為部屋から出ようとした際。
呼び止めの声が掛かる。
「ミナト。少しいいか」
振り返らずとも分かる、こんな低音ボイス生徒になぞ出せる訳がない。
「はい大丈夫です、それで……一体どういったご用件なのか伺っても?」
普段授業外で生徒に声を掛ける事は少ないウォーデンからの声掛けにミナトもワクワクしている様子。
「話はあいつから聞いている、元教え子が多少強引に誘ったそうだな。済まなかった」
「全然全然!確かにちょっと強引だったとは思いますけど……実際来てみたら思ってたよりも興味湧いて来たんで」
ここまで明確にテンションの高いミナトも珍しい。
ルチアが見れば「げ」とか言いそうだが、彼女もこの男を好いているので一緒になって話を聞く可能性も高そうだ。
「そうか。今後もあいつが色々言ってくるかもしれんが、無理に聞くことはない。
風紀委員としての活躍も期待している。是非頑張ってくれ」
そう言ってミナトの横を通って行き、教室から出る。
(もしかして昔先生を相手にするの結構苦労したりしたのかな……でも期待してる、か。
期待されちゃったらしょうがねぇ、裏切らない為にも多少は頑張らなくちゃな!)
たった一言に浮かれ、さっさと特訓を始めようと続くように教室を出ていつもの場所に向かう。
足取りはいつもより軽く、雰囲気も柔らかい。
そしてテンションが上がった彼が取りがちな行動として、いつもより運動が激しくなるという事も挙げられる。
(今日も昨日に続いて三倍にするかなー、いやそれより内容を濃くする方針の方が良いかも?よしそうしよう!今回から一歩目も潰しに行こーっと)
アイクがとばっちり的な地獄を受けるのはこれから数十分後だった。