第百十三話 始まる×3
「委員会?」
「そうだ、悪いがどこかしらに属してもらいたい」
アイクとフレアが二人で会っていた頃、ミナトはいつもの呼び出しを受けていた。
彼女も教師としての職業柄あまりやりたくない事だろうがやる必要は出てくる。
「なんか随分変な時期ですね。入学してから暫くそういう話なかったんでもうその制度無くなってたのかと」
長期休みも終わり、確かにこの学園の勝手も分かって来た頃ではあるがそれにしても微妙な時期だ。
「元々は聖魔祭が終わった辺りで一年生を入れるのが恒例だったんだが……今年は色々問題があってな」
問題と言われれば心当たりしかない。
生徒が殺人事件の容疑者になり、それが解決したと思ったら校内への侵入を許しクラス丸ごと誘拐され。
留学生を迎え入れる準備もしなきゃだし最終的には王都自体が危機に陥るしで。
中々の災難続き。
「第一の生徒達が来る前に決めてしまおうともなったんだが、警備の強化等に手を回さないといけなくなったんでな。
諸々の事情でずるずると時間が過ぎてしまったんだよ」
流石の彼女も当時を思い出せば若干疲れたような顔になっていた。
(本当に大変だったろうな、俺達と違って問題も山ほどあったろうし。
トロフィムの学校侵入はかなり問題になって一部の生徒の親から苦情もあったとか聞いたっけ。
こっちはただその場を乗り越えれば良かったけど、先生方はその後の対策の方が大変だと思うよ。本当に)
心の中でお礼はしつつ、話を進めようと提案。
「で、なんで俺がその委員会に入らないといけないんですか?全員参加ならここで話す必要ないだろうし」
「はぁ……お前自分の立場分かってないな?その様子だと」
「立場って言っても、この役割は秘密なんでしょ?」
よく分かっていない様子の彼に説明を始める。
「いいか、聖魔祭優勝ってのはかなり大きな意味を持つ。
学年のトップであるお前が委員会に入らないとなると。それ以外の奴も入ろうとしなくなるんだよ」
「えぇー……」
「って、私も昔説教喰らった事あるんだよ。ウォーデン先生にな」
(そういや元々恩師って言ってたな。
まぁ言い分は分かるけど、正直これ以上拘束時間が長くなるのは勘弁してほしい気持ちだ。アイクとの時間も確保しなきゃだし)
事情は理解しているが意欲的ではなさそうだ。
「それにお前にはスカウトが来てる」
「スカウト?」
「あぁ、生徒会と風紀委員からな。もし入ってくれるならこのどっちかにしてほしくはある」
「…こういうのどっちかと言えばクロムのイメージじゃありません?あいつなら俺と同じかそれ以上位の影響力あるでしょ」
「あいつは既にどっちも断ってるんだよ、頑なに入りたくなさそうにしてた」
必死に頼む彼女をいつも通りの顔で冷たく拒む様子が目に浮かぶ。
だがミナトと同格の彼が駄目だったならこっちに意地でも入ってもらわなければ。
という様々な方向からの願いが聞こえてくる。
委員の沽券や、それと同じ思いであろう教師たち。の代表として目の前に居るミケーレ。
(断り辛いけど……うーんどうしたもんか)
中々渋る様子を見て、彼女が一芝居打つ覚悟を決める。
「そうかやりたくないかー」
超わざとらしい言い方にミナトも怪しさしか感じていない。
「はぁ……困るだろうなぁ、クロムにも断られた上にお前にまで。
ウォーデン先生になんて言ったらいいだろう……」
ピク、と反応を見せる。
これはイケる。そう判断したのか畳みかけるように言葉を続け。
「立て続けに避けられたらショックだろうなー……まぁでも仕方ないかー。
ミナトは委員会なんてやりたくないって伝えてくるか……」
「はぁ……どっちですか」
釣られていると分かっていながらも乗る判断。
前々からウォーデンの事を好いているのはバレていた。
その事を知っているならここで使わない手はない。
「風紀委員だ、因みに私もそっちがオススメ」
「先生以外でも?」
「生徒会の方が事務仕事が多い。風紀委員は見回りが主な仕事だからな、時間はなるべく奪われたくないんだろう?」
「その通りです。
ですが、また委員会の話自体はクラスでもやるんでしょう?なんで先にこの話したんですか。
あと生徒会と風紀委員のどっちかに入ってほしいのは何か理由が?」
「その二つは誰でも入れるものじゃないんだ、基本は委員からのスカウト。それ以外は担任教師からの推薦になる。
だからお前が断ったとしてもいずれ誰かに個別で声を掛けてた」
「なるほど……まぁ分かりました」
ミナトからの連続の質問にもささっと答え。
話しが一瞬で終わりに向かっていく。
(俺が入らなきゃヤバいみたいだし……そういやミスラも委員会には入ってたみたいだから、やらなきゃ駄目か。
今度アイクにも言っとかないと)
「それから……」
「?まだ続きがあるんですか…」
もう終わったと思っていた時、一声掛かる。
「以前言ってた件だが、了承を得る事が出来た。多少の条件はあるらしいが」
「!」
合宿後、王都に戻りミナトが彼女に相談しなければならない事がある、と言っていた件だ。
「その条件は?」
「ラビリスからはいつか手合わせをと。ガブリエルは……よく知らんが前の約束を忘れないでくれればそれでいい、だと」
(前の約束……騎士団への推薦だよな、そろそろ目星は付けなきゃなぁ)
「あとあいつは……」
ミナトが頼んだ事は、この国最大戦力として数えられる四人の王都駐在。
と言っても常時全員がとはいかないので、最低一人。出来る限り二人はいて貰いたいという事。
前回の王都防衛戦や合宿時のフレア誘拐未遂など。相手が奇襲も仕掛けてくると分かったのなら、戦力を固めておくのは当然の策と言える。
「特に条件はないそうだ。と言っても、奴自身ふらふらとしているから基本的に外しているだろう」
基本的に王都滞在のミケーレ、仕事によってはちょくちょく出ていく騎士団長のガブリエル。
冒険者という職業柄出ない訳にはいかないラビリスとクロムの父、アンジェロ。
(これは確実に戦力を揃えられるかなりデカい一手だ。
例え常時二人以上とは言わなくとも意識して貰るだけで全然この先変わってくる。本当に先生ありがとう!)
「助かります、戦力を固めておけば返り討ちに出来る確率も上がりますから」
「だが大変だったぞ?基本的にあの冒険者二人はかなり自由な奴だから……」
(あいつの父親か、、、自由って事は案外真逆の性格だったりするのかな。
なんかイメージつかんが)
まだ見た事のない人物の事を思い浮かべようとするがどうにも合わない。
仮に息子と同じ顔だとして、更に仮を作って自由がラビリスと同じだったとしよう。
病室に来たあの人物の顔がクロムだとしたら違和感なんてレベルで片付けていい話ではなくなる。
(まぁその事はいい。でもこれであいつらも迂闊に攻めてくることはないだろう。
少しでも時間を稼ぐ隙に俺がすべき事は……決まってる。幸いこの学年は粒揃いだしな)
真剣な話に戻そう。
幾ら戦力を固めたところで、被害が出る確率はどうしてもある。
それを少しでも低くするためには強力な個人と。強力な集が必要だ。
そしてその強力な集たり得るのがこの第四魔法学園。正確には一年生達だ。
特異点などによるポテンシャルの高さは異常なレベル。ミナトが成長を手助けすればその速度は格段に上がる。
それこそ、後々の魔族との戦いで第一線を貼る可能性すら秘めていると言っていい。
(やってやろうじゃねぇか……集団を育てるのは久しぶりだが、アイクで感覚は思い出したしな。
先ずは少しずつ数を増やしていこう)
ここから彼のクラスメイト育成計画が始まるのは言うまでもないだろうが。
始まる前に言っておこう、アイクの事だ。
結論から言えばやはり彼は特別扱いとなる。
既に弟子と言う特別な立場であり、ポテンシャルの高さも学年トップクラス。
二人の関係が変わることはなくこれまで通りの日常を過ごす。
これまで通りの、だ。
新章のタイトルはまた思いつきませんでした。
無難な感じの探してるけどやっぱりネーミングセンスが壊滅的なんだよなぁ……。