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忘却の勇者  作者: くろむ
後生一生編
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第百十二話 特別の意味

祟り神の出現や、魔族によるフレア誘拐未遂事件など問題はあったがなんとか無事に終えた合宿。

それから数週間が経ち第四魔法学園は二学期が始まろうとしている。

多くの生徒が故郷から寮に戻り、徐々にだが気持ちを切り替えていった中。浮かない顔が数名いる。


(結局収穫は無し……これから俺の行動はかなり制限されるしどうしたものか)


故郷に帰っていた訳ではないが、かと言ってこの王都に滞在していた訳でもない彼は。

あれからの期間のほぼ全てを遠征に費やし片っ端から魔族の目撃情報を辿って行っていた。


各地の諜報員達と連携し幾つもの拠点に攻め入り制圧。

しかし魔族側の動きを掴むような情報を得る事は出来ず、確かに多少数は減らしたかもしれないがそんなものたかが知れている。

情報を得る為に拘束しようとも聞き出す前に自害する者も多く。それすら阻止する強力な拘束魔法を掛けたりもしたが何者かの妨害だったのだろう。体内から魔力が爆発した様に膨張しまたしても尋問には失敗。


口から聞かずとも脳内を探る魔法を扱える者も居たが殺されてしまっては探ることは出来ない。

相手側が本気で対策して来ている、という事が分かったのは収穫だったのかもしれないが。


(聖魔祭の時忍び込んで来た奴が喋ったのを反省でもしたか?本当にらしくない事してくれる……)


明らかに動きがこれまでと違う事に対応しきれていないのがこちらの現状だった。




浮かない顔の生徒はあと二名。

そしてその二人は今、密会の真っ最中。


「珍しいね、僕だけを呼ぶなんて……フレアさん」


始業式が終わった後に放課後話せないか、とアイクを呼んだ彼女も。

呼ばれた彼もいつもより顔が暗く見える。

まぁ彼女は前回の合宿で攫われかけているので不安だったりしてもなんら不思議ではないが、その事はあまり関係ないようだ。

そうだったとしてもわざわざアイクを呼ぶ必要がない。


「ごめんねいきなり。

でもどこかで話せないかな、ってずっと思ってたんだ」


{ずっと?ほんとにどうしたんだろ……}


普段から会話をしないどころか、よく話す相手ですらあるこの二人。

だが二人きりで話す事は合宿の個人練習の時を除けば殆どない。

理由は互いによく一緒に居る人物が他に居るから。

だから二人だけとなる場面は少なく、取り分け今回の様な状況であれば本当に初めてだし今後も起こりそうにない雰囲気。


「この前、、って言ってももう結構前かもしれないけど、ミナト君家に行った事覚えてる?」


話しの切り出しからこれ。

アイクにはもう彼女がこれから何を話そうとしているのか薄々察しがつき始めていた。

自身も似たようなことを考えていたから。


「覚えてるよ、それで話っていうのは……ミナトの事で合ってるかな」


そう言わると少しだけ驚いた顔をしていたが、案外直ぐ納得した様子でもあり。


「……お互い結構同じような事考えてるのかもね」


「だと思うよ、多分。

フレアさんが気にし始めたのは家に行った時?」


「うーん、、、なんとなく事情があるって察し始めたのはその頃かな。前から不思議と気にしちゃう人だったけど、明確に意識し始めたのは間違いなくあの顔を見た時…」


やはり、というのがアイクの抱いた感想。


{やっぱりフレアさんも気付き始めてる、ミナトの事}


「あれから色々私なりに考えてみたけど結局分かんなくてさ。

もしアイク君が何か知ってたり、知りはしなくても気になった事とかあれば聞けたらなーって思ったんだ」


「残念だけど僕もあんまり知れてないんだ、寧ろこっちの方が聞きたい位。

だから力にはなれなそうかな。ごめん」


「いいのいいの、いきなり呼び出して急に聞いたのはこっちだから……それに、、なんとなくそうなんじゃないかとも思ってて……」


知らない可能性は充分に踏まえた上で、それでも僅かな可能性を信じて話をしに来た。

可能性は低いと分かってたが。実際に突きつけられれば感じるものもある。


顔が下を向き始めた彼女を見て、今度はアイクが会話を振る。


「フレアさんは……どんな風に考えてるの?」


「?」


「だって分かってるんでしょ?ミナトがただの十五歳な訳ないって」


「!……そうだなぁ。

私は、、、あんまりそこを気にしてないかな」


そこ、という言葉に引っかかるアイク。


「どういう、、事?」


んー、と少し考えてから彼女は語り始める。


「…私はね、あの時のミナト君の表情はきっと色んな感情が入り混じって出来たものだと思ってて。

その中でも寂しさって感情が強い気がしたの。

あそこまで色んな感情が混ざったのに寂しさが強い、っていうのは……凄く悲しくて」


話しをしている彼女は不安だったのか、はたまた悔しさでもあったのか。

何かの感情を隠すように右手で左手の服を掴んで離さなかった。


「ミナト君がもし普通の人じゃなかったとしても、私にとってはただのミナト君だから。

だからもうあんな顔しなくても済むように……一人じゃないよ。って伝えたいんだけど……」


その方法がよく分からなくて、と付け足し。

一通り話し終えたのだろう様子だったが。

話しに夢中になって全くアイクを見ていなかったことを思い出し、もしかしたら話し長すぎたかな。なんて思い顔を伺ってみると……。


{僕は、、僕はミナトの事を尊敬している。だからこそ弟子にしてほしいと頼んだ。

戦いの強さだけじゃなくて、心や人となりも。惹かれるものがあった。

だからなのかどうしても……ミナトを自分より上の存在だとどこかで考えてしまっていたのかもしれない}


アイクにとってミナトは、憧れの人物であり追い付きたい人物。

その思いは何一つ駄目なものではないが。フレアは違った。


彼女も勿論ミナトの事は尊敬している。この両者の決定的な違いは、思いのルートだ。


人として尊敬し、大切な人になったからこそ。そこに追いつき、同時に彼の隣に立ちたいと考えるアイクと。

人として尊敬はしているが、純粋な一人の人間として。ミナトという人間の隣に立ちたいと考えるフレア。

どちらも彼の隣に立ち、孤独でない事を伝えたいと思っている。


その思いの道のりが二人の違い。

同じ剣士として同等の高みに立つことでそれを成そうとするか、一人の人間として寄り添う事で成すか。


当然だがどちらが良いも悪いもあるはずはない。

両者行き着く先は同じ。

しかしアイクにとっては、このフレアの考えは衝撃を受ける程予想外で。考えもしなかった事。


「えっと……アイク君?大丈夫?」


黙りこくってしまったところを心配され声を掛けられた時、ようやく彼も喋り始めた。


「あぁご、ごめん急に……ちょっと考え事しちゃって。

にしてもそっかー、、ただのミナト君。ね……」


{僕にとってミナトはどうしても特別に見える。でもフレアさんにとっては……}


もしかしてマズい事を言ったのかとあわあわし始めたので。


「フレアさんはさ、そのままで良いと思うよ。というか、そうしてあげてほしいな。

僕じゃ多分出来ないから、、、きっとフレアさんじゃなきゃ出来ないから」


薄々事情を察し始めているのに、尚もただのミナト。だと迷いなく言えるのは彼女くらいだろう。

自分には出来ないと頼むような言い方をしたが、その言い方に今度は彼女の方が引っかかった。


「……でも、アイク君の方法は私には出来ないよ」


「え?僕の方法?そんな話しまだ……」


「分かるよ。ミナト君と同じ位強くなって対等になりたい、って感じでしょ?」


「な、何故それを……」


「だってアイク君結構分かりやすいよ?ミナト君の事情も含めたら多分そうだろうなーって」


普段からの彼の謙虚な姿勢と、ミナトへの憧れや。同時に焦りや高揚といった感情が入った目線は分かりやすく。

フレアからすればかなり前からそうだろうとほぼ確信していた。


「私じゃ多分駄目なんだよ、、アイク君じゃなきゃ」


アイクが彼を特別に思っている様に、彼もまたアイクを特別に思っている。

毎日のように特訓に付き合ったり。明らかに他との差、のようなものがあるのは一目瞭然だ。


「例えばクロム君がもっと強くなっても、きっと変わらない。

でもそれがアイク君ならもしかしたら……って、なんとなくだけどそう思うから。

私も、そのままで良いんじゃないかな。ううん、そのままでいてほしいかも」


「!……そっか」



この二人がもしお互いの方法で、目指すところまで行けたとして。

彼がどうするかは分からない。

かつての弟子の時同様、突然姿を消すかもしれない。

或いは全てを打ち明ける事もあるかもしれない。


ただ一つ確定している事は。

彼にとってこの二人が特別な存在に既になっている、という事。

特別。の意味はそれぞれ違っているが、両者とも彼の人生の中でもう忘れることは出来ない人物になってしまっている。

これが良い事なのか、彼にとっては良くないのか。それすらも分からない。


だがもう、引き返す事が出来ないところまで来てしまったのも事実だ。

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