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忘却の勇者  作者: くろむ
蠢く陰謀編
115/175

番外編 かつての師弟

これは、およそ百年と少し前の話。




「師匠」


「なんだ」


「自分はこれ以上強くなる為には何をすればいいでしょうか」


「ん?この間の聖魔祭も優勝してただろ。

驕りは良くないが張り詰めすぎるのも良くないぞ」


「優勝したのは個人としてです。団体戦では皆を上手く引っ張っていけませんでした。

それは自分の実力が足りなかったから、理由は明確です」


「お前なぁ……あと師匠って言い方まだ慣れないんだけど、、、変えるつもりとかない?」


「ないです、師匠は師匠です」


(この生真面目っぷりほんと……そこが良い所ではあるんだけどさ)


ミナトが以前に取っていた弟子であり、今は担任教師のミケーレ。その優秀な血統の始祖となるのがこの少年。ミスラだ。

形式上で言えばアイクの兄弟子に当たる人物。


「勿論課題点が山積みなのは分かっています。

剣術、状況判断能力、身体能力、魔力コントロール、精神力。そして何より森羅自天流への理解が圧倒的に足りていません」


大の真面目である彼は、キリっとした顔で淡々と告げていく。


(そんなに言うけどもう俺ともかなり良い勝負出来るどころか、百回戦ったら勝敗半々位には持ち込めるだろうに)


第四魔法学園の二年で、聖魔祭個人では二連覇していて周りからは天才だの神童だの言われるが。

彼にとってそんな周囲からの声はあまり気にしていなかった。


「まぁ他の事は置いといても森羅自天流の方は本来何年も掛けて鍛えていくものなんだよ。

寧ろ一年ちょっとでここまで出来るお前のペースがおかしい位だ」


「でも師匠はもっとずっと先に居ます、こんなペースじゃ間に合わないんです。

このままじゃずっと追い付けない…」


「追い付けないっつったってそれ嫌味か?学校卒業する頃には俺なんて余裕で勝てる実力になるよお前なら」


「そんな事ないです!先生の剣技は世界一……いや、史上最高の剣です!判断能力も実戦経験もまだまだ及びませんし、森羅自天流では皆伝の称号すら烏滸がましい程の高みに……!」


「止めろ」


高揚する弟子に対し、少し冷たくも見える態度で止めさせる。


「俺は確かに負けるのは嫌いだし、勿論お前にだって負けたくはない。

だが現実から目を背ける事は絶対にせん。実力の優劣くらい分かるし、それを認めないのは俺にとって負ける事以上に屈辱的な事だ」


「す、すいません……不快な思いをさせてしまって……」


「いい、あまり気にするな。

だが情と事実はちゃんと分けろ。例えそれがお前にとって受け入れ難い事だとしてもそれは真実だし、当然だが理想通りに物事は動く訳じゃない。

忘れるな?常に……」


言いかけたところで、言葉は奪われる。


「思考を止めるな、現実から目を背けるな。目の前の事に集中し状況を打破する手段を探り続けろ。

人間出来ないことは出来ない、ただ出来る事だけを精一杯全うしろ。ですよね?」


「……正解だ」


ミナトが何度も告げてきたこの言葉は、彼の人生そのもの。

どうしようもない現実がやって来てもそれが無かった事にはならないし、止まっていても何も変わらない。

どれだけ頑張っても届かない物はあるし、零れてしまうものもある。

例えそれらを乗り越えた後絶望するような出来事が起こったとしても、出来る事は変わらない。

ただ再び現れた壁をどう突破するのか再び模索し続けなければならない。




「自分は速く師匠に追いつきたいです」


「……前から思っていたが何故そこまで焦る必要がある。さっきも言った通り卒業する頃にはもう……」


卒業する頃には。


肉体が弱くなり既に何百年も修業を積んでいるミナトは、これ以上強くなるのはまだ長い時が必要となる。

年齢的にもこれから成長がさらに加速していくであろうミスラとではいずれ追い抜かされるのは必然と言っていい。

それに彼の天才的と言っていいセンスと飽くなき成長への渇望から来る圧倒的な努力量があれば本当に近いうちにミナトに勝てる実力が付くだろう。


「卒業する頃、ですか……遅いんですよそれじゃあ」


「……」


時が来るのは確かにそう遠くない未来だ。

だとしても。


「師匠はずっと孤独を抱えている、、、それはきっと自分なんかでは計り知れない程辛い事だと思うんです。

だからほんの少しでもあなたに近付きたい。近付いて、一人じゃないって分かってほしい。

……烏滸がましい話かもしれませんが」



(こいつ……そんなこと考えてたのか……まったく)


やはり弟子程親しい間柄になればそう思うものなのか、その思考はアイクと不思議なくらい近いものだった。


「それに……卒業までいてくれるか分かりませんから」


「!」


だがミナトが一番ドキっとさせられたのはこっちの一言だろう。


動揺が分かりやすい。


「……何を言ってるんだか、、ほら!修業するぞ今日も。お前はまだまだ身体能力に頼り過ぎだからな、技ってのをもっと身に付けて貰わないと」


「う!……ご指導よろしくお願いします!」


無理やり誤魔化したが、この時からミナトは退き際を考え続けていた。

もしそれで弟子の心に傷を負わせてしまったとしてもそれが後の成長に繋がるなら、と。





数年後。





結局ミナトがミスラの前から姿を消したのは、学園卒業から半年ほど経ってからだった。


「師匠……この間はあんな事言ってたのに」


¨誰が卒業する頃には居なくなるって?ちゃんと居るだろ、ほら¨


卒業しても暫く一緒に居れた事で、もしかしたらこのまま……と思った矢先。

突然姿を消した。

残されていた手紙がありその中身は、「もう教えることは無い、お前は俺の唯一で最高の弟子だ。この三年ちょっと、楽しかったよ。修業忘れんなよ?」随分短い文章だけ。


だがそこにはしっかりと彼の本心と、数年間で繋がれてきたミスラとの信頼が感じられた。

ミスラにはそれが感じられたのだ。


「……ありがとうございました、、師匠……!」


少し涙ぐみながらも、感謝の言葉を伝えた。

彼が残した手紙と、餞別とばかりに置かれていた剣を握りながら。


数年後。

冒険者ランクオリハルコンが作られ、史上初のランク到着者の記事は一瞬で世界中に広まった。



________________________________________



「……ト、ミナトー?」


誰かが名前を呼ぶ。


「っ!……アイクか」


「珍しいね、ミナトが居眠りなんて」


(やべ、さっきの授業最後の方寝てたか……)


普段滅多にこういった事がないのでアイクも注意したりはせず、珍しがるばかり。


「今度留学生の本陣……ベル君達が来るんだよ?気抜いてられないとか言ってなかったっけ」


「悪い悪い、かっこ悪いとこ見せちまったな師匠なのに」


「……師匠?」


少し慌てながら言った言葉の一つに引っかかる。


「ミナトが自分の事師匠なんて呼ぶの初めてじゃない?なんかほんとに珍しい事ばっかりだけど、、、大丈夫?疲れ溜まってるんじゃない?」


今の彼は本当にらしくないのだろう。

アイクが驚きながらも本気の心配の目を向けてくる。


「ほんとに大丈夫だ、ちょっと寝ぼけてただけ。

次教室移動しなきゃだろ?遅れちゃマズいし行こうぜ……」


「う、うん。大丈夫なら良いんだけど……」


そう言って歩き始めるが、途端にミナトが足を止める。

またしてもらしくない行動を見て振り返り様子を見るアイクに、彼が突然……。


「アイク……強く生きろよ」


「……うん?」


本当に突然の言葉に驚きながらも返事は返すが、困惑は止まらない。

そりゃいきなりこんな事を言われちゃ誰でも相手の正気を疑うが。


「なんで突然強く生きろなの?」


「ん、良いんだよ。確認だ確認。

なんとなく言いたくなっただけだし、深い意味はねぇから気にすんな」


ほら教室行くぞー、と再び歩き始める。


(久々にあいつの夢見たな……あん時は悪い事しちまったし今度墓参りでも……って、怒ってるだろうな。

せめて弟弟子の成長だけでも見せれたら、少しは許してくれるか?)


今日の特訓は三倍コースにしようかな、なんて考えながら歩き続けるミナトだった。

アイクと話していた時の時系列は王都防衛戦前です。

本編の会話だけじゃ分かり辛かったかもと思ったので、一応補足として。

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