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忘却の勇者  作者: くろむ
蠢く陰謀編
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第百五話 思いが残り続けるのなら当然こうなる

「数え忘れたりすんなよ」


「まぁ一気に倒したりするからそっちよりも数えるのは大変かもね、でもちゃんと数えとくから」


「調子乗って魔力切れとか面白くないからしっかりな」


始まる前からバチバチの二人。

今日の実際に魔物と戦闘するこの時間にどちらが多くの魔物を倒せたかの勝負をする事になったミナトとルチア。


スタート地点は各班ばらけるので口論とまでは行かなかったがか中々の会話を繰り広げ。

そこから両者移動を開始。


「悪いな巻き込むみたいになっちまって、二人に迷惑は掛けないから」


班で動くルール上個人の勝負であってもメンバーには少なからず関係がある。

流石に個人のいざこざで巻き込むのは申し訳ないと、先に謝罪。


「良いよ別に、むしろ俺が足引っ張って負けたらごめん」


今回同じ班となったトロールは元から交流があったので平気そうだが、もう一人の彼女とはほぼ初絡み。

ミナトもどちらかと言えばこちらの方を気にしている。


「……なんでもいいけど責任とらないからね」


ソニア・マルキーナ。

トロフィムとの戦いの際オーズと共にルチアを介抱していた少女で。

基本無口な性格と近付き難い雰囲気はどこかの魔法使いにも似ていて、クラス内でも一人で居る事が多い。


(やっぱり女性魔法使いは皆こうなのか?もう慣れてるけどさ)


遥か昔の大魔法使いを思い出しながら諦めに入る。




「…よし、ここら辺だな。じゃあ合図が出たら早速行くけど、基本的な動きは朝話した通りで」


始まる前に最終確認をし頷く二人。


(別に言う事は聞いてくれるしあいつ程融通利かなそうな訳じゃないんだけど……)


こちらの彼女の方が苦手かもしれないと思っていた所に開始の合図が鳴る。

全員に着用された魔道具が発行し開始を告げ、その瞬間皆が一斉に走りだす。



今回班分けは、生徒の実力と相性を考え均等に分けたらしく。

例えばこの班の主力は前衛のミナト。そして後衛の二人は音波魔法の特性上発生が遅れてしまう欠点のあるオーズと、遠距離魔法を得意とするソニアであり。

癖のある後衛二人に対し前衛が一人では本来バランスが悪いが、学年一位である以上これ位はやってもらおう。という教師側からの試練だ。


つまり他で言えば、ルチアの班は前衛が多く振り分けられているし。

アイクの班には機動力を課題とする者や、フレアの班も後衛が多く割り振られていると考えられる。


{さぁ、存分に競ってこい}


本人の性格上班を上手く動かして行けるのはミナトだろうが、やはり高威力広範囲の魔法は討伐速度が速い。

特に攻撃力の低い彼との差はどうしても生まれる。だが実戦の経験値で言えば逆に圧倒的な差がある。

勝敗予想をしながら待機しているミケーレはとても楽しそうだ。

普段あまり見れないミナトの感情的な行動、というのもその要因としてあるだろうが。純粋にこの二人の対決は他の生徒も気にしている程のイベントでもあった。




数十分が経過した頃、両者は順調に魔物を討伐していっていた。

やはりミケーレの予想通りミナトは班員と上手く連携し、ルチアはとにかく火力でねじ伏せる。

勝敗はあくまで個人の討伐数なので自分で倒していない魔物が多いミナトが若干不利であるかもしれないが。それでも恐るべき速度で魔物を処理している。


「北西百五十メートル一匹!オーズはそのまま左に向かってそいつ足止めしといてくれ!」


「分かった!」


「…了解」


ソニアの遠距離魔法で遠くの魔物を。

当然それだけでは倒しきれないので抜けてきたやつをオーズと二人で処理。

得意の探知魔法で常に敵と味方を探知し続け位置関係を把握、適切な指示で迅速に動く。


{なんなのこいつホントに……あんな動きしながら探知とか化け物じゃん}


高台で指示通り魔法を放つ彼女がそう思うのも無理はなく、実際彼をよく知るオーズも若干ひくぐらいの勢いだ。


{これまでも凄いと思ってたけど実戦だとここまでか!アイクとトロールの言ってた事がようやく分かったぜ}


王都防衛戦での獅子奮迅レベルの活躍は聞いていたが、話だけでは理解出来なかった。

しかし今共に戦ってみれば一瞬で理解させられる。

彼が頭抜けた存在であると。


(よし、このペースなら良い感じだ。

後もうちょいしたら第二フェーズに入って俺の討伐数を増やして……!)


と考えていた。

勝敗に負けるは兎も角、命の危険など頭の片隅にもなく。

ただ純粋に勝負に没頭していた。が、それも一瞬で引き戻されるように熱は消え。

全身を刺されるような感覚が彼を襲う。


「っ!」


(なんだ今の……)


「、どうしたミナト!なんかあったか?」


突然動きを止めたところを見てそう聞かれて、ハっとした様な表情を浮かべる。

思考に意識が完全に持っていかれていたのだ。


「嫌な予感がする……悪いが二人は待機しててくれ!ちょっと様子見てくる!」


「?」


全くどういう事かは分からなかったが取り敢えず言う事を聞きその場で待つことに。


{あいつが意味ないことするとは思えないし、、もしかして先生達からのサプライズで強い魔物が投入されたとかか?}


程度にしか考えておらず、一旦彼の帰りを待つことに。




とにかく嫌な感じがする方に走るミナト。

道中アイクの班と偶然出会う。


「ミナト?どうしたのそんな急いで、普通じゃなさそうだけど…」


付き合いが他より長いからか、この男だけは何かに気付く。


「すまんが急いでる、後で!」


そう言って再び駆けだす後姿を見て何を思ったのか、何も言わず去って行くところを見ていた。



(分からねぇ、何も確信じゃないけど放っておけるものでもない!)


森羅自天流によって空気を感じる事が出来るミナトは、度々探知とは別で何かを察知する事が出来る。

以前ライコウと初めて出会った時のように嫌な雰囲気を感じ取ったりと、第六感にも近いそれはかなり当たる。


「あれは……!」


周囲よりも少し背の高い木に登り辺りを見渡せば、直ぐにそれは視界に入った。

この世の物とはとても思えず生物なのかどうかすら分からないものを見た時一瞬で思考を巡らせるミナト。


「やっぱり何かあると思ったら、、、なんなのあれ」


そう言われ始めて近くに居たアイクの存在に気付く。


「!来てたのかアイク」


「だって明らか何かある風だったし放っておけなかったんだよ。で、多分あいつが原因なんでしょ?

でも魔道具に何も反応は無いし凄い見た目だけど特別強かったりする訳じゃないんじゃない?」


強力な魔物が結界を打ち破り侵入した場合それを感知した教員が魔道具で知らせを送る為、あれがそこまでの脅威である可能性は低い。

そう考えるのが普通であるが相手は普通ではない、直ぐに訂正を入れるミナト。


「あいつは厳密には魔物じゃねぇ、でも今説明してる暇は無い。今から言う事をミケーレ先生に伝えてきてくれ、緊急事態だ」


状況は以前の誘拐事件と似ているが、違うのはミナトの表情と二人の関係性。

もう取り乱すアイクではない。

無言で頷き続きを聞く


「まず演習は中止、直ぐに全員避難させろ。

本当は神職なんかが1番なんだが……そんな事も言ってられん、近くにある教会でも僧侶でもなんでも良いから聖職者を片っ端から集めるよう言ってくれ」


「とにかくヤバいって事ね、分かった全速力で行ってくる。ミナトも無茶しないで」


「助かる。でも今回ばかりは無茶出来る相手ですらないから安心しな」


本当は聞きたい事なんて幾つもあったが聞ける雰囲気ではなかった。


(これはマズいどころの話しじゃねぇ、下手したら国が壊滅しかねない。

どうするのが正解だ?もし選択を間違えても判断が遅れても被害は計り知れない、間違えるなよ)


どす黒い血が混ざりあった様な色をした六足歩行の化け物は、生物であるかどうかすら判別出来ない異形の形をしていて。

雰囲気は禁忌で亡くなったあの研究者の遺体と似ている部分がある。

ミナトがこれまで見せた事のない様な表情をしている事から、魔王軍幹部とは比にならない脅威である事は確かなあの存在。


その正体は、四百年前の勇者パーティーが勝つ事の出来なかった唯一の相手であり。

この世の負の象徴であった。

勇者パーティーは何度も敵に敗れ、誰かに助けられる時もあれば敗走する事もありました。

黒星がゼロではないですが最終的にはリベンジを果たし敵を打ち破っています。

そういう意味での唯一勝てなかった、という事です。

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