第百一話 鍛えて鍛えて鍛えて
「うーん、、全然だな」
「ぐはっ!……でも否定出来ない……」
「良いんだよまだ初日だぞ?俺は何ヶ月も掛かったし、この合宿期間中に習得しろなんて言うつもりもない。
ただここが絶好の場所と機会だったから今始めただけ」
早速森羅自天流の修業に移ったアイクだったが、流石に上手くいかず。
初日なので何も焦る事などないがここまで出来ないのかと驚いていた。
今行っていたのはミナトが二回目に見せた、自分ではなく周囲に気を向ける瞑想。
森羅万象を理解し……の件がここの部分らしく。
先ずはこれに挑戦してみようと始めたが全く出来ない。
出来なくて当然なのだがアイクが不安を感じるには充分過ぎるほど出来なかった。
「いいか、コツはさっき言った通り力を抜く事と五感を研ぎ澄ます事。
俺もここで大分躓いたから気持ちは分かる。でもこれは焦ったり急いだりしたら出来なくなるものだ。
だから何も考えずただ世界を感じる事に意識を向ける事が大事になってくる」
しかし言われれば言われる程意識してしまうのが人間と言う生き物。
特に急いでミナトと並びたいと考えているアイクにとっては尚更。
「……分かった、じゃあもう一回」
「いや今日はここまでな、もう時間だ」
出来ないままで終らせず続けようとしたところを止め、宿舎に戻るよう言う。
「起床時間には戻んなきゃいけねぇからな。
昼間は合宿のトレーニングに集中して体を鍛えろ。森羅自天流は時間を掛けてゆっくりやるもんだからあんま気にしなくていい」
そう諭しながら森を抜け宿に戻る。
{本当は今直ぐにでも出来るようになりたいけど……確かにやるべき事は他にもある。
目の前の事に全力で取り組んで行こう、僕には足りない物が多すぎる。きっと何をしても遠からず成長に繋がるはずだから}
自分に言い聞かせながら続けて宿に戻り、スイッチを切り替え。
中に入って直ぐに居合わせたクラスメイト達からの何故外に居たのかという疑問を受け流していく。
「いやぁなんだかあんまり寝れなくて、そしたら外歩いてるミナトを見つけてさ」
「俺も似たような感じだ。
誰かと寝るのは久しぶりだからちょっと、な」
「あー分かるかもそれ、俺も昨日よく寝れんかったし」
(問題は無かったっぽいな)
一応二人で事前に決めておいた言い訳で乗り切り、食堂に行こうと話を切る。
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合宿二日目。
今日から本格始動となるこの日、午前中は教師陣が個人個人に向けて作った特別メニューが全員に課された。
先ずはアイク。
彼はペアと組み行うメニューでその相手はフレア。
この二人に課されたのは単純な打ち合い。ただし十分ほどで攻守を入れ替える。
アイクからすれば避けの名手であるフレアに攻撃を当てる練習に。
フレアからすればアイクほどのスピード剣士の攻撃を避ける練習に。
攻守を切り替えれば、互いに課題としている足を止めての打ち合いと攻撃面。であり。
長所と短所を同時に伸ばすメニューとなる。
ルチアは魔力コントロールを極める練習。
魔力を使ってコップからコップへ水を移したり、ペンを操って文字を描いたり。
時には積み木を組み立てたりなんかをして魔力コントロールの技術を只管高める。
入学当初からミケーレに出されていた課題をここでもやる羽目に。
オーズは延々と同じ個所に音波魔法を集め続け、範囲調整と長時間使用の練習。
トロールは両手用の大剣を素早く正確に振り続ける為にこちらも延々と素振り。
フラジオは筋力向上と柔軟性を活かした立体的な機動力を身に付ける為山を駆け巡り続ける。
クロムを始めとした他の生徒も似た様に長所を伸ばしたり短所を強化したりと、言われたメニューを只管続ける中。
彼はと言うと……。
「……っ!」
さっきまで抜刀の構えをとったまま静止していたと思えば突然刀を抜き空を斬る。
こんな事をこちらは延々と続けていた。
(クソっ、これじゃ駄目だ。先生にあんな事言ったんなら何か成果は出さなきゃなんだがな)
ミナトがしていたのは端から見たら居合の練習に見えるが、実際にはそんな次元のものではない。
今彼がしようとしている事は呪いへの抵抗。力の弱体化を跳ね除けようとしているのだ。
先日のフラッドとの戦いで一瞬だが呪いに打ち勝ち、本来の力の一部を引き出した事をずっと考えており。
今回の合宿ではそれを試させてほしいとミケーレに事前にお願いしていた。
(あの時はもっと感情が高ぶって……奴の言葉に視界が変な風になって、体がもっと燃えるように熱く感じた。
怒りだ、怒りが呪いに打ち勝つカギになる!)
フラッドの発言に尋常ではない怒りが生まれ、それが一時とは言え呪いに打ち勝った。
もしそれをコントロール出来れば解呪が出来なくとも力を取り戻す事は出来る。
だがそう簡単にはいかず。
(魔王軍の時代が再び来ると言われて、絶対そうはさせないと。そうさせてなるものかと思った。
ここまで怒りが湧く相手に自分が勝てない事に更に怒りが湧いた。ライコウの時やトロフィムと同じ様に勝ち切れない自分にとてつもない怒りが湧いて来た。
一人じゃ何も出来ないと認めるのが嫌で。仲間や先生達に助けられなくても一人で勝ってやる、って思った)
当時の心情を思い返し、再現しようと怒りを湧かせる。
(魔族にも呪いによる弱体化にも、誰かを傷付けるような奴にも負けたくない。って、そうだろ俺!)
怒りが頂点に達した時。
さっきと同じ様に空を斬るが、またしても結果は変わらず。
いつも通りの技が出るだけ。
更にその事に怒りは湧くが。
あの時には届かない。
(絶対、負けねぇ!皆だって、アイクだって必死にやってる。なら俺が負けてられるか!)
この場には居ないが共に頑張っている皆の姿を思い出し、再び奮起する。
しかし結局、この日呪いに打ち勝つ事は出来なかった。
昨日投稿ボタン押し忘れてました、うっかりです。