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忘却の勇者  作者: くろむ
蠢く陰謀編
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第百話 極み

朝五時。

全体の起床時間は六時で、生徒はまだ寝ている時間だ。


「お、来たな」


「早いねミナト。まだ十分以上前なんだけど」


こっそり抜け出してきたアイクと合流した理由は一つ。

いつもは放課後に行っている特訓を早朝にやろう、というだけ。

しかし今日は手ぶらで来いという指示だった為服を着替えたらそのまま森に入っていった。


「俺はいつもこのぐらいだからな。昨日は情けないところを見せちまったし起きる位はまぁ……」


疲弊しきったあの様子を見られて師匠としてかはたまたクラスメイトとしてか。

少しは取り返そうとしているらしい。

周りはあまり気にしていないという事は置いておいて……。


「この合宿期間中にやるのはいつもみたいな剣の打ち合いじゃねぇ。

森羅自天流の修業を本格的に始めていく、ある意味こっちの方がキツいから覚悟しとくように」


「遂にやるんだね……お願いします!」


肉体的な部分は合宿メニューで充分鍛えられる。

なら今こそ精神を鍛えるこの修業を始める機会に丁度いい。


「じゃあ先ずは基本の瞑想を確認する、ちゃんとやって来たんだろ?」


「うん、バッチリって自分で言える位にはやって来たつもり」


「時間もあんまり無いから早速見せてもらおうか」


静かな森の中。座り込み目を瞑る。


(いい感じだ、、、積み重ねがよく分かる。この感じなら次行って良さそうだな)


少し見ただけでそう判断し、次のステップへ進める。


「オッケーもう大丈夫だ」


「、、もう?全然やってないけど」


「これでもこの流派は極めてるつもりだ、分かるさ。

それに最初に言った通りこれは基礎中の基礎。出来なきゃこれから話になんないレベルだ」


これ位出来て当然のライン。

そこでいちいち確認だのもう一回だのとする必要はなく、さっさと次に行った方が良い。


「まぁ基礎は大丈夫そうだが、ここからは難易度が跳ね上がる。覚悟しておいてくれ」


そう警告され息を吞むアイク。


{ミナトが投げ出したくなる程の過酷な修行……いったい何が}


修業の鬼であるミナトが何度もブチギレたという事実を聞き恐怖を覚えないのは無理な話。

だが同時に、彼の強さの根源の一つを自分のモノに出来るというワクワクもあった。

怖い半分楽しみ半分で話の続きを待つ。


「……やっぱ先ずは実践を見せた方が良いか。

今から俺が三種類の瞑想するからしっかり見とけよ、違いは自分でも考えとくように」


正解を見せるから分析してみろ、と言い彼もその場に座り込み。

一度深呼吸をした後瞑想を始める。


そもそも瞑想に種類があるとか違いは考えとくように、だとか言われても普通は何言ってんだこいつと思うだろう。

アイクもミナトを疑っている訳では無いが種類の違いを見分けるなんて……と内心は思う部分があった。


{凄い集中力。確かに僕のよりも更に深い領域に居るのは分かるけど、、}


最初にやってみせたのは普通の瞑想。

質は流石と言えるがここからが本題と言っていい。

いったい何の違いが出てくるのか。


「……っと一つ目がこんな感じだ、じゃあ続けて二つ目行くぞ。

今度はさっきよりも長めにやるからよく観察するんだ」


その言葉に頷いたところを見たら再び彼は目を瞑り瞑想を始める。


(これだけをやるのは久しぶりだから出来っかな……)


若干の不安を抱えていたが、結果は全く問題なく。

先程まで種類の見分けなんて出来るのかと半信半疑だったアイクが直ぐ違いに気が付くレベル。


{あ、れ……?居るのに、居ないふうに感じるっていうか。何も感じないような……}


確かにそこに居りちゃんと見えるし感じられる。

だが不思議と上手く認識する事が出来ない。

この微妙な感覚を正確に掴む事が出来たのは数十秒後。


ミナトの体に小鳥達が止まった時だった。


「!?」


有り得るはずのない光景に驚き声が出そうになったが、思い出したのはさっきの「よく観察するんだぞ」という言葉。

一度頭を冷静にさせ起きている事と感覚を少しずつ言語化していく。


{えっと、、存在を感じづらいのは多分魔力が消えてるからだ。完全に魔力を消した上で脱力しきる事で動物たちがミナトを脅威と認識せず、木や岩に止まるみたいな感覚……で合ってるかな。

つまり今最も危険ではない生物の状態、、、みたいなものか}


アイクがそう考え始めた頃、瞑想を止め目を開ける。


「これが二個目だ。……ちゃんと違いを観察してるみたいだし、このまま最後のいくぞ」


またしても黙って頷き、次の瞑想を待つ。


{三つ目、正直予想なんて全く出来ないけどどうだろう。一体どんなのが……え?}


前回は違和感を感じるのに数十秒掛かったが、今回は一瞬で分かった。

これまでのものと比べても異質過ぎるそれを理解出来ないアイクではない。


(一番体に染みついてるのはこれだし安心だな。

後はこれをあいつが理解できるかが問題)


何とも形容出来ない光景を見て最初に頭に過ぎったのは、聖魔祭決勝試合。

対クロム戦での感覚と非常に似ていた。


互いに長期戦は不利だと考え距離を取り、自身が打てる最高の技で決着を付けようとそれぞれ構えていた時。

ミナトの様子が変だと感じた事があった。しかし今は本人を目の前で見られる。

以前よりも更に力を付けた今なら違和感の正体にも気が付けるはず……。


{二つ目と雰囲気は似てる、でも決定的に違うのは存在感。

さっきは存在を上手く認識出来なかったけど今回はちゃんと分かる。どころか目が吸い寄せられるみたいだ。

でもどうにも変……なんだかいつものミナトじゃないって言うか別の生き物みたいっていうか……}


今度は言語化出来ない。

アイクにはこれを言い表す言葉が思いつかないような状態。

見た事がなく聞いた事もない。ならば言葉になんて出来るはずがないのは至極当然である。


「……こんな感じだ、まぁ最後のは分かんなくていいっつーか、今理解する事までは求めてない。だから気にすんな。

行き着く先があそこ、って事だけ覚えててくれたらいい」


瞑想を止め最初にそう言っておく。

そしてこれからアイクが行う修業について説明を始める。


「先ず一つ目と二つ目の違いはなんだと思った」


「えっと、、、一個目は僕もやってるやつの延長線上。更に集中を深めていった、みたいな認識かな」


「正解だ。じゃあ二つ目は?」


「……こっちはあまり自信ないかな。

なんて言うか自然体、というか。そこに元から居てそこに居るのがなんら不思議な事じゃない、様に感じた」


今度は自信なさげだが悪い回答ではなかったようで。


「いや、かなり近い。初見でそこまで感じれただけ上出来だ」


その言葉にほっと胸をなでおろすと説明が再開する。


「一つ目の方は完全に正解、集中力を極限まで高めた瞑想があれ。

二つ目は逆にこれまでと逆の事をする。意識を自分じゃなく外に向ける。

言葉にすれば簡単だがやってみようとすればかなり難しい。

因みに三つ目はその二つの融合。外に意識を向けながら自身の集中力を極限まで高める」


「??」


最初の方は分かる、よく分かる。

ただ最後の一文。


「一つ目と二つ目ってさっきの説明聞いた感じ真逆の事なんじゃないの?同時にとか矛盾してない?」


「確かに矛盾した様な言い方だけどでも実際そうとしか言えないんだよなぁ……。

てか今気にしてほしいのは最後のじゃなくてその一つ目と二つ目な。こっちが先だから」


話しをやや強引に断ち切り進めてゆき。

ここからアイクにとっても真の地獄の合宿が始まる……。

今回でこの作品も百話目となりました。

物語の進捗的には半分切ってる、、のか?といった具合です。

まだまだ続いて行きますのでこれからもよろしくお願いします!

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