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忘却の勇者  作者: くろむ
蠢く陰謀編
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第九十九話 修業編が好きなんだ

長期休みに入り十数日。

王都に帰ったミナトはライコウについて調べながら魔族の動向を逐一チェックする生活を送っていた。


その中で分かった事は一つ。

恐らくもう奴は王都に居ない事。

今まではこの場所にターゲットが居たから留まっていただけで、全員斬ったのなら別の場所に向かう。

彼にとっての殺しの境界線があると仮定している今、そう考えれば合点がいくことが多い。


(一応この前先生に聞いたら騎士団もライコウを随分見つけてないみたいだし、ほぼ確定っぽいな。

王都に居ないんじゃ学校始まった瞬間探しに行けなくなっちまう。なら今は魔族の方に専念だが……これは流石に行かなきゃだよな)


そんな事を考えているミナトが乗っていたのは馬車。

かなり自然な道を走っており、普段この乗り物で通る人が少ない場所という事が分かる。


「近付いて来たねー、、山!」


嬉しそうに報告しているのはアイク。


「よくそんな楽しそうにしてられな……地獄の合宿だってのに」


同じ馬車に乗っていたクラスメイトにそう言われたが、言う相手が悪い。


「ふふふ……地獄ならいつも見てるからね……」


視線を斜め下に下げながら言う姿を見たら彼らも「あぁ……」と反応するしかなく。

それに全く気付かず近付いてきているという山に目を向けるミナト。


(ここどっかで来た事あるか?流石に旅し過ぎてどこ行ってもそう感じる気がするけど……まぁいつかの時に来てたんだろうな)


世界中を旅して周っていた彼にとって行った事のない場所の方が珍しい。


どこか既視感を覚えるこの場所で、魔法科一年生全員での合宿が行われる。

期間は十日間。

教師からの触れ込みでは地獄の合宿らしいが、如何せん前例のない行事なのでそれが真実かどうかが分からない。


(一組誘拐事件の後から計画されて来た強化合宿。この間の王都防衛戦もあって内容を更にハードにして日数も増やしたらしいけど、どうなるかな実際)


聖魔祭前。ミケーレは物騒になって来ている世間もあり、より教え子たちには強くなってほしいと語っていた。

現に一組は誘拐事件のターゲットにされ、魔物の軍勢が王都を襲撃してきた際は応戦している。

そこに魔王軍の復活も重なればよりそう思うだろう。


直ぐでなくともいずれは彼らも最前線に立つ可能性はある。

もしそうなった時に抵抗できるように、打ち勝てるように実力を更に高めてほしい。


教師としての純粋な思い心だ。


________________________________________


暫く馬車に揺られ、着いたのは山のふもとまで歩いて十分ほどの位置にある宿舎。

そしてその宿の前には大人数でも運動出来るような広場が広がっており、今教師達からの説明をそこで受けていた。


「いいか、基本的に午後は全員基礎トレーニングに励んでもらう。

剣士だろうが魔法使いだろうが内容に多少差はあれど全員だ。覚悟しとくように」


げ、と思った魔法メインの生徒は少なくないだろう。

しかしそう思ったのは魔法使いだけではないようだが……まだ説明はここから。


「午前はこちらが指定する個別メニューに取り組んでもらう、多くの者は一人で励むことになる。

今日は到着が午後だった為基礎トレーニングをこれから行う。荷物を宿舎に置き次第再びここに集合だ!」


(おうおう熱血な先生が居たもんで……つーかあの人魔法実技担当の新任だろ?ここはどっちかの担任がやる仕事なんじゃねぇのかよ。

もしかしてあの人……!)


バっとミケーレの方に視線を向ければ、まるで{ああいうのやりたくないんだよなー}と思っているかのような顔をしていた。


気持ちだけでも負けないよう強気に話す新任の教師も、内心では不満や不安を抱えながら喋っており。それに気付いたミナトはご愁傷様とばかりに哀れむ。


(まぁせめてこの期間に成長した姿を見せてやる事があの人への恩返しかな)


________________________________________


そしてその後の基礎トレーニング、ミナトは全力で取り組んだ。

結果……。


「は……ぁぁ……ぅ……」


死に掛けていた。


「ちょっとミナト大丈夫!?あの、えっと、、ほんとに大丈夫!?」


普段一緒に特訓しているアイクがテンパる位に疲弊しきっており、その様子に周囲の生徒達。どころか教師たちまで驚いていた。


「ランニングはまだ余裕そうだったのに筋トレで潰れてたな」


一部様子を見ていたトロールがそう言うと、それに反応しなんとか言葉を捻り出す。


「走るだけなら、、、まだ誤魔化せるけど……筋トレは、、誤魔化してちゃ……意味なくなるから……」


皆は分かっていなかったがアイクには一応心当たりがあった。


{そういやこの前言ってた身体能力が低い、って。体力もなのかな……ミナトが鍛錬を怠ってる訳ないし、もしかして体があんまり強くないのかな。普段はそれをだましだましやってるとか?}


実際その予想は殆ど当たっていて。

体は弱い、がそれは病弱といった意味でなく筋力的な意味。

持久力や肺活量などの身体機能も呪いによって弱体化しており、多少は鍛錬で補えるかもしれないが限界は直ぐに来る。


走る際にも消耗を最小限にするよう心掛けていてそれでランニングはどうにかなったが、筋トレとなると話は変わり。

こういうところは真面目なので意味がないトレーニングはしない。と全力で取り組んだ結果元々低いスタミナがゴリゴリ削られ今の状態だ。


「こんな調子で明日から大丈夫なのかよ」


「任せろ……慣れっ子だ」


心配するトロールはアイクと共にミナトを担ぎ部屋まで運ぶ。


{ここまで弱ってるミナトなんて初めて見たけど……ちょっと安心したな。

ちゃんと同じ人間で、ちゃんと限界があるって分かって。

ずっと自分の弱いとこを言い続けてたけど正直あそこまで強いとこ見せつけられて信じるのは……だったけど、今見れた。見れて良かった}


そう思いながらへとへとの彼の肩を持ち、微かに笑みを浮かべていた。



合宿初日。

あのミナトがここまでやられた事に速くも皆に緊張感が走ったが、これはまだ初日。

地獄の合宿は始まったばかり。

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