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忘却の勇者  作者: くろむ
蠢く陰謀編
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第九十八話 今この瞬間は

朝、目を覚ます。


「ん……ぁ?」


幾ら寝起きとは言えミナトにしてはかなり珍しいくらいの寝ぼけっぷり。

上半身を起こし周りを見てから小さく一言。


「ここで寝てたっけ」


目を擦りながらもベッドから出て近くのテーブルに置かれていた刀だけを手に取り外に出る。


不思議そうに周囲を見渡しながらどこかへ歩く。

散歩にでも行くのだろうか。


(……まぁ暫くしたら戻ってみるか、それまでは適当に歩こ)


探索するように街を練り歩いて行き、度々足を止めて何かを見てからまた歩き出す。


(ここは随分平和なんだな……住人の見た目だけで分かる。

何ヶ所か修理してる建物があるし完全に、って訳じゃないがこの様子なら当分は大丈夫そうだな)




それからも歩き続けていると……。


(腹が減ってきやがった。どっか飯食える場所ねぇかな)


時刻は昼も近くなっており、朝から何も食べていなければ当然お腹も空く。

それから目に着いた適当な店に入ろうとするがここでお金を持ってきていない事に気が付き。


(やべぇさっきのとこに置いて来たな。しゃーねぇ面倒だけど依頼でも受けて……)


と考えて始めていた頃、後ろから声を掛けられる。


「ミナト氏ではありませんか、お久しぶりです。先日は大変でしたね」


年と身長が同じ位の眼鏡を掛けた青年。

何故か分厚い本を持っているところからも知性が感じられる。

そんな彼を見た一言目は。


「……誰だっけ」


「嘘でしょう!?」


よーく顔を見て記憶を辿ってから出した一言目は誰だっけ、だった。


「サヴェリオですよ!ほら前一緒に団体戦で戦った……!」


必死に訴えかける様子を見て更に記憶を辿って思い出そうとしてみる。

すると何か思い当たる節が見つかったのか、少しゆっくりと言葉を発していく。


「あ~、、確かに居たっけ。よく俺の事覚えてたな」


「一緒に作戦会議しましたからね!あの時は」


「?……いや確かにあの時は偶々出てたっけか、大変だったなこの前の」


「この前……あぁ魔物が攻めてきた時ですか。情けない話自分は前線に出ていなかったのですが、そちらはかなり危険な戦いだったと聞いています」


「ま、あれ位はやれなきゃここまで生きてねぇよ」


{……聖魔祭の時と少し雰囲気が変わりましたね、もしかすると仲が縮まったからこうなったのでしょうか!}


なんだか会話が上手く嚙み合っていないように見えたが、サヴェリオが見かけによらず可愛い考えをしていたし良しとしよう。


「ところでどうしてこんな所まで?かなり入り組んだ道なので人通りもあまり多くないですが……」


ようやく思い出してくれたところで疑問をぶつける。

彼はこの近くにある本屋が行きつけらしく、なんでも立地は良くないが品ぞろえがかなり良いらしく界隈では知る人ぞ知る名店らしい。

だが本当に王都の中で一番と言ってもいい位に人通りが少ない、だからこんな所に居るのなら何か理由でもあるのか、と思うのは当然と言える。


「んー適当に歩いてたら腹減って来ちまって、でも金忘れてきたから困ってたんだよ。帰り道もよく分かんないから面倒だし」


あっけらかんとした様子でそう告げるミナトを見て更に困惑。


{もっと理性的な人かと思ってたけどオフの時はこうなるのでしょうか……切り替えが大事だと言いますしね。この間も王都襲撃を企てた主犯と戦ったようですしここは自分が一肌脱ぎましょうとも!}


「宜しければお昼位なら自分が出しましょうか?この辺りのレストランも知っているので」


「本当か?悪いな助かる。またなんか困った事があったら言ってくれ、魔物討伐位ならやるから」


「ま、魔物討伐ですか?自分はまだ冒険者登録をしていないので遠慮しておきます」


いつもと少し違う雰囲気のミナトに若干戸惑いながらも会話は続く。


「そうだこれは聞いとかなきゃな、あいつら見なかったか?」


「あいつら?……もしかしてアイク氏達と一緒に来ていたのですか?」


「?アレウス達だよ、ずっと探してるんだけど見つからなくってさ」


「アレウス様って言うともしかして書店でも探してここまで?好きなんですね英雄譚」


「別に英雄譚が特別好きって訳じゃねーけど。急に何言ってんだ?」


とにかく困惑が止まらないサヴェリオ。

彼の優れた頭脳をフル回転させるが目の前の相手が何を考えているのかが全く分からない。


「……取り敢えずご飯食べましょうか、そこで続きは話しましょう」


諦めて場面を変える事に。


「お、そういやそうだったな。ご馳走になるぜー」


________________________________________


その後お昼ご飯を食べた二人は、ここがどこだか良く分かっていないミナトを案内するという体で辺りを散策する。

結局それは夕方まで続き……。


「自分はもう帰らなくてはならないのでここで失礼します」


「今日は色々悪かったな、えっと……サヴェリオ?で合ってるよな」


「はい、ようやく間違えず行ってくれましたね」


この言い方と疲れた様子から名前を正しく読んでもらうまで苦労したらしい。

でも楽しくもあったのか、明るい表情で返っていった。


一方苦労させたミナトの方はと言うと、既に全く別の事を考えていた。

結局見つからなかったな、とか。今日寝る場所もあそこでいいか、とか。


少し帰り道に迷いながらも家に着くと、暫くは椅子に座っていたり。

かと思えばそれに飽きたのか筋トレを始めたりして。

日が完全に落ちて街も静かになって来た頃、眠りにつく。


(まぁ明日探せばいいか……もしかしたらあっちはあっちで探してて行き違いにでもなったら面倒だし)


そう考えながら、一人静かに。

覚えていてください。

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