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忘却の勇者  作者: くろむ
蠢く陰謀編
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第九十七話 この世で知らない事は無限に存在する

「これは……」


「覚悟はしていたがかなり酷いな、余程の事に手を出したのか」


以前にトロフィムの言っていた黄玉眼について知っているかもしれないと言う人物に会いに来たミナト。

現地の調査員達と合流し研究室へと入っていったが、扉を開けて直ぐにその光景は広がっていた。


中には恐らくその研究者だったであろう物の残骸が確認でき。

周囲には赤黒く、もはやこの世の物と思う事は出来ない謎の塊や破片が散らばっていて。

血の様な何かが研究データの記された紙などにも飛び散っていたので、何の研究をしていたかどうかも分からない。


(禁忌に触れたか……二次被害が出る前にここの処理もしとかないとな)


魔法は極めればそれだけ出来る事が増えていく。

何百何千という長い歴史を越えた今も尚新しい魔法は作り続けられている。

果てしなく深いこの道の中に、絶対に触れてはならないものが存在し。それが禁忌と言われている。


死者の蘇生や不老不死といった、生と死を超越しようとするもの。

時を巻き戻したり進める等の時空を超越しようとするもの。

上位の存在へ成ろうとしたり、神を侵すようなもの。


この三つが最大禁忌とされ。

踏み込んだものは、死すら生温い()()が来るとされていて。

おおよそ人類が理解する事など到底不可能な現象が起こるという事だけは知られている。

今でも禁忌だけは踏み込む事を強く禁じられており、その解明すら許されていない。


今や人だったかどうかを判別するのすら難しいこの男は、その禁忌に触れてしまったのだ。


「どうなさいますか、ここではろくな情報が得られそうにありませんが……」


目的だった人物はこの有様で実験結果などを知ることも出来ない。


「……ここの後処理を頼む、なるべく急ぎでやっといてくれ。

俺は戻るとするよ」


ならばもうここに居る意味もない。


禁忌に触れたものの死によって生まれる二次被害が出る事を考慮し、処理を頼んでから早々に立ち去った。

その二次被害として挙げられるのは幾つかあるが、大きく二つ挙げると。遺体から発せられる特有の瘴気によって病が流行るかもしれない事。特殊な魔物の誕生のきっかけになるかもしれないという事。


どちらも絶対に起きる前に止めておいた方が良い。


(成果は無し……まぁだろうとは思ってたけどさ。

帰って魔族の動きとライコウについて調べるとするか)


禁忌についてはまだしも、有意義な情報が貰えるとはあまり考えていなかった為特にショックや心労はない。

強いて言うなら時間が無駄になった程度だが、それも二次被害を防ぐ為だと考えればまぁ呑み込むことが出来た。


________________________________________


そこから王都に戻り真っ先に向かったのはあの酒場。

調べさせていた情報を受け取りに来たのだ。


「魔族側はまだ分からないか……そうとう慎重に動いてるっぽいな。四百年前の事を反省してやがる。

引き続き注意するよう言っといてくれ」


「かしこまりました」


かなりの人手を使って探っているがそれでも魔族の動きは分からず。

らしくないと言えばそうだが、それ程頭が周り理性が強い者がいると考えたら厄介となろう。


「そう言えばあいつの件で何かあったんだろ?ちょっとだけ聞いたぞ」


先程まで現地で同行していた諜報員から聞いた話によれば、ライコウについて新しい情報が入ったとか。


「はい、ですがあまり実際有益とは言い辛いものでございます」


「話せ。奴の話は一つでも多く聞きたい」


「ではご説明を。

先の魔物による王都襲来時に目撃情報が出ましてですね」


「何だと?あいつが……」


意外な話に驚きながらも続きを聞く。


「小さな子供の証言なのですが、見た目や装備品の説明を聞けば殆ど一致しています」


子供なりの精一杯の説明を読み解けばそれがライコウであると分かるのは差ほど難しくなく。

その話を聞いたのは騎士団であるが、話をしている場面に偶然居合わせた組員が聞いたと。


「あいつが見つかるような事はないと思うがな。

それも戦の最中だろ?どこで見たって言ってたんだ」


「なんでも避難に遅れて魔物に襲われていたところを助けて貰ったそうです。

あの言い方からして嘘である可能性は無いだろうと聞いた者が言っておりました」


子供がわざわざそんな噓をつく事も考えられないのでほぼ間違いないだろう。


(助けた……か。やっぱり匂うな、、俺と接敵した時と言いどうにもあいつの中で殺す基準があるとしか思えない。

もしかすると雇われの殺し屋で仕事以外では人を殺めないと決めていたり……いやあいつがそんな男にも見えなかったし……結局分からんな、今の情報だけじゃ)


一つでも多く情報が欲しいとは言ったがそれだけで解決するわけでは勿論ない。

ただ確信が持てた事はあり、それはライコウの中で人を殺める基準があるという事。

快楽殺人犯であったり無差別に斬ったりはしないという事は以前から考え付いていたが、今回の話しで確信に変わり。

基準を探る事が今後の優先事項だと決める事が出来た。


(正直今は魔族の動きを注意してなきゃいけないんだが……あいつの事は何故か無視しちゃならない気がする。

俺の勘がそうであると疑わない)


不思議な何かを感じる相手。

この時既に、気付いていないだけで感じ取っていたのかもしれない。

自分とライコウがよく似ているという事に。

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