この世界には魔女だけじゃなく、魔男もいる。それは別にいいんだけど、魔男は全員間違いなく変態である。
この世界には、【魔男】と言われる存在がいる。
彼らはほとんど誰にも知られていない存在だ。
……だが、彼らは確かに存在する。
知られていないのは、魔女と違って、魔男は全員間違いなく変態だからだ。
彼女、クレア・ラスティリアはそんな変態を探す魔女だ。
彼女は今日も魔男という名の変態を探している。
皆様は、【魔女】と言われる存在をご存じでしょうか?
この質問に対し、知らないと答える人は極わずかでしょう。
では、魔女の反対、【魔男】は?
彼らはほとんど誰にも知られていない存在だ。
……だが、彼らは確かに存在する。
しかし、魔女と違い、彼らの知名度は皆無である。
なぜか?
なぜなら、魔女と違って、魔男は全員間違いなく変態だからだ。
そして、魔女は魔男と同類にされたくないから、魔男の存在を必死に隠している。
「えーっと、今日の魔男は犬塚陽介と言う奴ね」
手元にある写真付き資料を見ながら、クレア・ラスティリアは呟いた。
彼女は十六歳の女子高生兼魔女だ。
銀髪碧眼のロングヘアといういかにも魔女な外見を持っている。
彼女は先祖代々続く名門一族の魔女、ではなくて普通の人間の両親を持つ、なり立ての下っ端魔女だ。
そんな彼女の仕事は魔男という変態を取り締まる事だ。
まぁ、下っ端だからみんなが嫌がる仕事しかやらせてもらえない、とも言える。
彼女は犬塚を探して、箒にのって街をパトロールしていた。
「あ、見つけた!」
ターゲットはわりかしすぐに見つかった。
だが、その姿は人間ではなく、犬だった。
普通の人間は、その犬の正体が人間だという事は気付かない。
だが、魔力探知のモノクルを付けている彼女には、分かるのだ。
このモノクルに魔力を通せば、魔女や魔男を見分ける事が出来る。
ちなみに、モノクルの値段は十万円。
魔道具の値段としては妥当だが、彼女のような下っ端魔女にはつらい金額だ。
だから、魔女の仕事の中でも皆がやりたがらない仕事をして、少しでも金を稼がないといけない。
「さてと、あいつはどんな変態かな?」
犬に変身しているという事は、女性に拾われて部屋に侵入し、好き放題する奴である可能性が高い。
女性と一緒にお風呂に入ったり、一緒に寝るのはまだ可愛い方だ。
下着を咥えてハフハフしたり、匂いをクンクン嗅ぐ等々。
そんな魔男は多い。
だけど……
「あいつ、女性に拾われないようにしている?」
むしろ、拾おうとする女性がいると、逃げるようにその場を去っている。
あれでは拾われないだろう。
「何が目的なんだろう?」
しばし空から監視していると……
「げ!」
犬塚という男、と言うか犬はどこかの飼い犬が傍に来ると、その犬の尻の匂いを嗅ぎだした。
犬が他の犬の尻の匂いを嗅ぐのは一種の挨拶らしいが、魔男はそんな事をする必要が無い。
つまり、あの魔男は自らの意思で他の犬の尻の匂いを嗅いでいるのだ。
「あなた、一体何をしているんですか!」
魔男が人気のない場所で人間の姿に戻ると、クレアは彼の元へ向かい、怒鳴った。
「あ、あなた何なんですか!」
「私は魔女。あなたのような人に迷惑をかける変態を取り締まるのが仕事です!」
「俺は人に迷惑をかけてない!俺が好きなのは雄犬の尻の匂いだけだ!」
「は?」
クレアは思わず声を上げてしまった。
「俺は雄犬の尻の匂いが大好きなんだ!人に迷惑なんかかけてない!」
「うーん」
「そうだ!俺は変態かもしれないが、変態と言う名の犬好きだ!こう見えても捨て犬を救うボランティアだってしているんだぞ!!」
困った。
嘘を言っている様に見えない。
この犬塚という魔男が人に迷惑をかけているのなら即逮捕だが、彼の場合は微妙だ。
迷惑と言えば迷惑だが、犬の尻(しかも雄限定)を嗅いでいるだけだし……。
「まぁいっか。微妙な場合でも強制送還って決まってるし。強制送還決定!!」
「な、なんだよ。その強制送還って!」
「問答無用!」
クレアが箒を犬塚に向けると、瞬時に魔法陣が彼を中心として出来上がった。
そして……彼は姿を消した。
彼は魔男専用の牢屋に送られたのだ。
そして、この後は裁判にかけられる。
どのようは判決が下るかは、クレアには分からない。
それを判断するのは専属の機関に所属する魔女で、彼女にはそれに関与する権限は無いからだ。
まぁ、調べれば簡単にわかるが、特に興味もないし。
「あー。今日も気持ち悪かった」
変態……いや、魔男を取り締まるのが魔女である彼女の仕事。
仕事上、彼女は救いようもないど変態を何人も見ているのだが……。
正直、慣れないし精神的に疲れる。
それもかなり。
魔男はゴキブリと一緒で、一匹ならぬ一人いれば三十人はいる。
そんなだから、彼女の変態と言う名の魔男の探索は、明日も続くのだ。
……明日で終わるといいけどね。
―今日の魔男―
<犬塚陽介>
得意魔法:変身魔法、特に犬への変身を得意とする。
変態志向:雄犬の尻の匂いを嗅ぐ。なお、雌はお断りだが犬種は問わない、との事。
判決:雄犬の尻の匂いを嗅ぐと下痢する永続魔法をかけ、釈放。
その後、とある街ではしょっちゅう下痢をする犬が現れたらしい。
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