守護獣の力
現在僕が領主を務めるツリー村とギネア村の住民は前者が120人、後者が100人といったところだ。
そこに常駐するサンドストームや現在更生中の元盗賊達が40人ほどいるので、大体合わせると260人くらいになる。
ダークエルフのミリアさんや行商人のランさんなんかも含めると、なかなか大所帯になってきた。
これだけ多いと、素養を持つ人の数もなかなかに増えている。
一緒にいても僕にはできることがないけれど今では助手を手に入れて人手を増やすことにしたシェクリィさんは、元悪人達の改心と同時並行で新たに村人になってくれた人達の素養の確認もしてもらっている。
先日その結果を見て驚いたんだけれど、魔法の素養を始めとする戦闘系の素養を持つ人の数が飛躍的に増えていることがわかったのだ。
前は前衛は『戦士』の素養を持つダンと『海賊』の素養を持つメグ、後衛は『火魔法』の素養を持つフィオナちゃんと『水魔法』の素養を持っているマクレー君の四人だったけれど、これが今では前衛が六、後衛が五とどちらも倍以上に増えている。
中でもやはり気になるのは『剣豪』の素養を持つカルート君と『聖魔闘術』を持つダリル君だ。
二人の力は既にかなりの者があるらしく、ナージャによってサンドストームの小隊長に抜擢されている。
ちなみにダリル君はツリー村では珍しいもぐらさん愛好家でもある。樹木守護獣にアースモールを選んだ二人のうちの一人が彼なのだ。
「もぐら、かわいい……」
「きゅうっ!」
ダリル君はかなり寡黙な子なのであまり口を開くことがない。
だがどうやらもぐらさんにはゾッコンのようで、既に街中でもぐらと戯れる彼の様子が何度も目撃されているという。
そしてもちろん素養というのは戦闘系だけではない。
僕の『植樹』のように何かを生み出す生産系の素養や、純粋に元あった能力に大きな補正がかかる特化系など、実に様々だ。
あ、ちなみに分類された素養の中には繋がりがあるものも多いため、この分け方は正直、完全に区分けができているとは言いがたい(たとえばアイラは『水魔導師』という戦闘系の素養を持つけれど、これは魔法を使う際の知力や魔力操作に補正を欠けるため、特化系の側面も併せ持っている)。
今回僕が出向こうとしているのは、その特化系の一つである『数学者』の素養を持つマトンの家だ。
「というわけで、行ってくるね」
「ウッディ様、本当に私がいなくても大丈夫ですか? 十日ほど我慢していただければ、私が気合いでギネアまで……」
「その気持ちは嬉しいけど、樹木間転移でいけばすぐだからさ」
樹木間転移は一人しか移動させることができない。
以前誰かを連れて行こうとしたら
【植樹レベルが足りません】
って言われちゃったんだよね。
今の生活は身軽なのはいいんだけれど、アイラやナージャ達に不便をかけてしまっているのはなんとかしたいところだ。
そんな風に考えて、樹木間転移を使おうとした時、僕はとある変化に気が付いた。
【転移する樹木を選んで下さい】
選べる樹木の中に、ピカピカと光っているものがあったのだ。
その違いはどこにあるのか、考えればすぐに答えは出た。
「樹木守護獣が守護している樹が、光ってるんだ……」
その変化の意味を確かめる意味も込めて、樹木間転移を実行してみる。
試しにアイラと一緒に飛ぼうとすると……次の瞬間、僕とアイラはギネアにやってきていた。
「え……ウッディ様、これは……?」
「うん、どうやらようやく、誰かと一緒に転移ができるようになったみたい」
驚いた様子のアイラ。
転移を初めてした時は、僕もかなりびっくりした。
当時は僕もこんな顔をしてたんだろうかと思いながら、アイラと一緒に目的地へと向かうことに。
「マトン、いる?」
「あ、はい~。今開けますので、しばしお待ちを~」
ノックをすると、中から声が聞こえてくる。
どうやら中に居るらし……。
どんがらがっしゃーん!
……始めたの、本当に片付けだよね?
中から聞こえてくるの、ものすごい轟音なんだけど。
「ウッディ様、私が中を見てきましょうか?」
「……うん、お願い。もしかしたら事故現場みたいになってるかもしれないし」
アイラが断りを入れてから中に入る。
ハウスツリーの中に入った彼女の悲鳴が聞こえてから、今度はパタパタと規則的な音が聞こえてくる。
彼女の水魔法による洗浄が行われているらしく、ドアの隙間から水がこぼれてくる。
それらが乾き、大体三十分ほどが経過してからようやく入室の許可が下りた。
「いやぁ、お待たせしました」
てへり、という感じで頭をポリポリと掻いているのがマトンだ。
視力が悪いため分厚い瓶底メガネをかけていて、着ているのは穴あきやほつれの目立つカーディガンである。
ズボラ女子である彼女の後ろには、アイラの涙ぐましい努力の結晶(とんでもない量のゴミやガラクタ達)が置かれている。
それらからは目を逸らし、僕は早速マトンに本題を告げることにした。
「マトン、もし良ければ僕の領地の官吏をやってみてくれないかな?」




