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忙しい忙しい


 無事に樹木守護獣のお披露目会が終わったので、おうちに帰ることにした。


「うふふふふ、今日は久しぶりにゆっくりできますね」


 空を見上げてみれば、たしかにまだ日が暮れていない。

 本当ならもっと時間がかかると思っていたので、今日は他に予定は入れていない。

 アイラの言うとおり、少しくらいはゆっくりできそうだ。

 

 あ、ちなみに僕は今、アイラとナージャに左右の腕をがっちりと掴まれている。

 もう逃がさんぞといわんばかりの力強さには、思わず苦い笑みが浮かんでしまう。


「ウッディ、もう逃がさんぞ」


 まさか、心の声とまったく同じことを言われるとは想像していなかった。

 ナージャの万力なような力に脂汗を掻きながら、家路を歩いて行く。


 対抗して、アイラも腕に力を込めてきた。

 僕は握力の計測器具じゃないから、あんまり力強く握らないでほしいよ。


 でもこれもきっと二人なりの甘え方なんだと思うので、これも男の甲斐性だと思いなんとか歯を食いしばって耐える。


 二人とも、ここ最近あまりプライベートな時間を取れていなくてストレスが溜まっているみたいだからね。


 家に戻ってから、少し小腹が空いてきたのでおやつタイムを取ることにした。

 とりあえず、フルーツを皆でつまむ。


「マンゴーは甘味が強くて好きだぞ!」


「あら、どうやらお子ちゃまの舌ではびわの繊細さに気付けないようですね」


 新たに生育することが可能になった果実も大好評だ。

 特にマンゴーは皆からの人気も高く、既に植えてほしいという嘆願がいくつもきている。


 アイラに皮を剝いてもらったマンゴーを食べる。

 この果物は、歯の裏にくっつくようなねっとりとした感触が特徴だ。


「はいウッディ様、あーん……」


「あーん……うん、甘みが強烈だね」


 果実に含まれた水分が、噛む度に口の中で弾ける。

 一度味わうと他の果実では物足りなくなるくらいに甘い。


 食べ過ぎたら病気になるんじゃないかというほどの甘さだ。

 たしかにこれは、熱望する人達が多いのも頷ける美味しさである。


 僕は自分で植えられるようになるまで、マンゴーを食べたことがなかった。

 頭の中の記憶を掘り返してみても、一度も食卓に並んだこともなかったと思う。

 少なくとも王国で育成されているという話は聞いたことがない。


 恐らくは寒冷地帯か熱帯地帯で育つ果樹なんだろう。

 もちろん確証はないけど、以前バカンスに行った時に見たことのあるウルシの木に似ているので、多分熱帯地帯な気がしている。


「ウッディ、一度口直しをしてからびわを食べるんだ」


「もちろん」


 ナージャに手渡されたフルーツティー・リセンブルを飲んでお口直しをしてから、びわを囓る。


 繊細な甘みは最初食べた時物足りなさを感じるけれど、その分さくさくと食べ進めることができる。

 ちなみにびわは、一部の層から支持を受けていたりする。


 僕が植えられる果樹から取れるフルーツの中では一番甘味が少ないんだけど、甘すぎるものがきついというご年配方から好評なのだ。


「できれば果物のシロップなんかが作れたらいいんだけどね」


 フルーツそのままというだけではバリエーションが少ないということで、現在手すきの時に、フルーツを使った特産品を作れないか色々と試作をしている。


 フルーツティーの次は、フルーツだけで作れるシロップを目下制作中だ。

 甘味がかなり強いから、美味く濃縮させることができればなんとかできると思うんだけどね。


「ウッディ様、大丈夫ですか?」


「え、そんな変かな?」


「……(スッ)」


 アイラは何も言わず、僕に手鏡を渡してくる。

 そこには大きな隈をつけた男の、ふやけた顔が映っていた。


 領主の毎日というのは、実は結構忙しい。

税の徴収から皆の陳情の受付、裁判の有罪判決から揉め事の仲裁まで非常に多岐に渡っている。


 ちょっとやること多過ぎじゃないかな、と思わなくもない。

 毎日朝から晩まで仕事をしても終わらずに溜まっていく一方と言えば、このキツさがわかるだろうか。

 最近は睡眠不足ぎみだったせいか、それはもう酷い顔をしている。


「今日は早めに寝よう……」


「昨日も同じことをおっしゃられてました(きっぱり)」


「うぅ……」


 ばっさりと言い切られてしまっては唸るしかない。

 けど現状のままだと、僕の睡眠不足の問題は解決しない。


 ここにいる人達は基本的に砂漠暮らしが長く、王国式のやり方を知らない人ばかり。

 文官はどころか、補佐ができるような人も一人もいない。

 数字に強い人が一人くらいいれば、楽になるんだけどな。


「……あ、そうか」


 僕は思い出した。

 以前、ギネアの村人達の素養を見ていた時のことだ。

 そこにたしか『数学者』の素養を持っていた人がいたはず。


 彼に仕事を覚えてもらえば……税務面での処理をお願いできるんじゃないだろうか。


 というわけで思い立ったが吉日、早速ギネアに飛んで……。


「――ダメです、今日はゆっくり寝て下さい。仕事は逃げませんから」


「あ、はい……」




拙作『豚貴族は未来を切り開くようです』第一巻が6/25に発売致しました!


挿絵(By みてみん)


作品の今後にも関わってきますので、書店で見かけた際はぜひ一度手に取って見てください!


また書店ごとに特典ssも複数あり、電子書籍版もございますので、ぜひ気に入ったものをご購入いただければと思います!

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