お披露目会
攻める時には戦略が重要だ。
それは相手が軍であっても、村人であっても変わらない。
戦う時に、相手に情けをかけてはいけない。父さんの教えの一つだ。
なので僕は一切の良心の呵責なく、戦略的に村人達を攻めていくことにした。
「というわけで、彼らが樹木守護獣です」
「にゃんっ」
「わんっ」
「ぶぅ」
「きゅっ」
にゃんこはぺろぺろと手を舐め、わんこははふはふ言いながら舌を出し、豚さんは鼻をふごふごと動かし、もぐらさんはひょいっと土から顔を出す。
「「「かわいい~~!!」」」
僕がまず最初に狙うことにしたのは、村の女性陣と子供達である。
一家に一匹、樹木守護獣をつける。
防犯や戦力上必要なこととはいえ、これを強制させては将来禍根が残る可能性がある。
ペットの面倒を見るのはなんやかんやで結構大変だし、手間もかかる。
これを上からの命令という形で無理矢理させてしまえば、抵抗があるのは想像だに難くないからね。
けれどこうしてまず、かわいいものには目がない奥様方と子供を抱き込んでしまえばどうだろう。
樹木守護獣達は、生み出した僕から見てもかなりかわいい。
そして彼らは天然かわざとかはわからないが、あざとかわいい。
その魅力に抗えずに気に入ってしまえばあとは簡単だ。
子供とママ、一家の過半数が賛成に回れば、現実的な考え方をするパパさんであっても受け入れざるをえない。そして一度家で飼い始めれば最後、パパさんも守護獣の魅力にメロメロになってしまうだろう。
ふっふっふ……自分の戦略眼が恐ろしい。
冴え渡りすぎて、自分でも怖くなってくるくらいだよ。
「アイラ、ウッディはまた悪人ごっこをしてるのか?」
「ええ、もう本当に……仕方のないお人です」
こっそりとほくそ笑んでいると、後ろから声が聞こえてくる。
気付けばナージャも、この樹木守護獣のお披露目会にやってきたようだ。
「ええいっ! 新妻感を出すな!」
「新妻感、ではありません。長年連れ添った熟年夫婦感を出しているのです」
「そ、そんなのもっとダメだ!」
舌戦を繰り広げ始めたナージャたちを意識から外し、皆と動物達の触れ合いを観察する。
「にゃあんっ」
「わあっ、猫さんかわいい!」
「喉の辺りを触ってみるといいわよ、ほらこうやって……」
「ごろごろ言ってる!」
どうやらファイアキャットが一番人気のようで、既に待ちの行列が出来はじめていた。
ツリー村の人間には、猫派の人間が多いみたいだ。
「……ぶぅっ」
「お鼻が濡れてる! かわいい」
「瞳、意外とつぶらなのね……」
意外なことに、二番目はウィンドピッグだ。
口コミから人気が広がる味で勝負するスイーツ点のように、じわじわと人が増えている。
豚さんとの触れ合えるという体験がかなり珍しいようで、思っていたよりも大分感触がいい。
犬派の僕は犬が一番人気だと思ってたんだけど、これは予想外だった。
でも、犬が三番人気なんてことがあるんだろうか。
ペットとしてポピュラーだし、人気もかなり高いと思うんだけど……。
首を捻っていると、口げんかを終えたアイラ達が帰ってくる。
ナージャはウォータードッグを抱き、アイラはファイアキャットを頭に乗せている。
「砂漠にはサンドドッグがいるからな。犬に対するイメージがあまり良くないんだろう」
「……なるほど、それは盲点だった」
砂漠にいる魔物に、サンドドッグという犬型のやつがいる。
数も多く獰猛で、弱い者いじめを楽しむような嗜虐性もある、残忍な魔物だ。
そのイメージがついている分、砂漠の人達には犬の受けがあまりよくないみたいだった。
「……もぐ」
そして圧倒的不人気だったのは、アースモールだった。
さっきは爪を高々と掲げていたけれど、今はしょぼんとしている。
どんよりとした様子で、地面に爪で絵を描いていた。
あれは……自画像かな?
結構特徴を捉えていて上手い。
しょぼくれた様子のもぐらさんの背中を撫でていると、猫を抱えた女の子がやってきた。
「ウッディ様、この子たちは何を食べるんですか?」
「基本的にフルーツならなんでも食べるよ。ただ一応、好物は自分の属性のエレメントフルーツなことが多いかな」
お披露目会で来そうな質問はあらかじめ解答を用意していたので、すらすら答えることができた。
たしか猫や犬なんかは食べられない物も多かったはずだけど、そこらへんは流石守護獣。
基本的にどの子も雑食で、食あたりが起こりそうな食材もバクバク食べてたけど、何も問題は起きなかった。
自分の属性のエレメントフルーツが好物なのは、シムルグさん達と同じようだ(ちなみにホイールさん一家は、皆土のエレメントフルーツが好きだったりする)。
こうしてお披露目会は無事に成功。
ツリー村で暮らす人達の家には、一家に一匹樹木守護獣を置くことになった。
実際に選ばれた守護獣は多い順に、ウォーターキャット、ファイアドッグ、ウィンドピッグ、アースモールの順番だった。
やっぱり飼うとなると、犬は強かったみたい。
そしてアースモールの圧倒的不人気……選んだのは、わずかに二世帯だけだった。
もぐらさん……強く生きて……。




