新たな力
ルルさんが村に馴染むのは、驚くほどに早かった。
「ルルちゃんは偉いねぇ、それに比べて最近の若い子達と来たら……」
「あはは……でもアミルちゃんも彼女なりに結構頑張ってるからさ。年長者なんだし、長い目で見てあげなくちゃ」
「たしかにそうかもしれないねぇ」
特に村の老人達と馬が合うらしく、今ではルルさんがお年寄り達と若い子達の橋渡し的な存在になっている。
ちなみに彼女は感性が若いからか、若い女の子達からも熱い支持があるみたい。
おしゃれ番長の名は、伊達ではないのだ。
「でもルルさんはすごいな、年齢はわしなんかよりずっと……」
「……(ぎろり)」
「な、なんでもございません」
けれどルルさんには年齢のことは御法度なようで。
うっかり口を滑らせた人は、しばらくの間村での肩身が狭くなるような状況になってるらしい。
嘘、ルルさんのツリー村での発言力、高過ぎ……?
そしてミリアさんの方はどうかと言うと、彼女は男人気が非常に高く。
ルルさんとはまた少し違った形で、村の人気者になっていた。
ミリアさんの見た目は、男装の麗人といった感じだ。
キリッとした瞳をして、態度はしゃんとしていて、そして腰には立派な剣を提げている。
皆の前で見せる顔は、僕を前にぼろぼろと泣いていた時とは別人のように凜々しい。
「ミリアさん、こうですかっ?」
「いや、違うな。それだと身体の軸がブレている。もっとこうして、身体が真っ直ぐになるように――」
ナージャが警戒するよりも早く結界をすり抜けて僕の前に現れたことからもわかるように、彼女の身体能力は非常に高い。
ダークエルフは元は始祖エルフという、強力な魔法を使いこなしていた種族の子孫にあたる。
世界樹の加護を失ったことでその力は大きく減じてこそいるものの、彼らは未だにほとんど全員が、魔法を使うことができるのだという。
中でもダークエルフがとりわけ得意なのは、身体強化の魔法だ。
彼女の驚異的な瞬発力の秘密は、魔法にあったのである。
彼女はその力を遺憾なく発揮させていて、現在は自然と街にいる衛兵達や若者に戦いの指南をするような立ち位置にいた。
今も絶賛指導中である。
「こうしてもっと握りを深くしてだな……」
「は、はひっ!?」
ミリアさんが後ろから手を重ね、姿勢や剣の握りの指導をする。
されるがままの村人君は、ガチガチに緊張していた。
王国は白色人種なので、色黒の人間に対する印象はあまり良くはない。
けれどミリアさんは元々がかなりの美人であり、毎日世界樹の実を食べることで少しずつだけど肌の色が白くなり始めている。
シムルグさんは何十年もかかると言っていたけれど、こうして見ているとあと数ヶ月もしたら普通のエルフとそう変わらない見た目になりそうだ。
そんな美人の密着指導がタダで受けられるとあって、現在ミリアさんの講習は大人気になっている。
驚くべきことに応募してくるのは女性も多く、講習を受ける男女の割合は六対四くらいだ。
ちなみに元盗賊の衛兵達も、ミリアさんの指導には参加している。
今や完全にエレメントフルーツを使いこなせるようになっている彼らだけど、エレメントフルーツだって無限に持てるわけじゃない。
フルーツを温存したりする必要もあるので、近接戦闘能力は磨いておいて損はないのだ。
「……? どうかしたか?」
「なんでもありませんっ!」
顔を真っ赤にしている村人君を見ても、ミリアさんに何かに気付いた様子はまったくない。
というのも彼女、どうやらかなりの鈍感らしく。
人からの好意に、まったくといっていいほどに気付いていない。
自分の見た目にも無頓着だったりするし、他人からどんな風に思われているかとかを、まったく気にしてない感じなのだ。
人の何倍も生きるダークエルフだからこそ、そのあたりの感覚が僕らとは全然違うんだろうな。
この辺は文化の違い、というやつなのかもしれない。
とまあこんな風に村の中のポジションがなんとなく固まってきた二人ではあるけれど、当然ながら世界樹管理の任もしっかりとこなしてもらっている。
それに伴い、世界樹を一つの場所にまとめてしまい、世界樹林を作ることにした。
このおかげで管理が大分楽になり、今ではミリアさんとルルさんが交替で問題なく管理を行うことができている。
そして少しでもミリアさんからの好意を稼ぐためか、近頃は自発的に世界樹の警備を申し出る人の数も増えてきた。
当人が村人からの信頼が得られたと喜んでいるだけで、本心に気付いていないのが残念である。
タイクーンウルフ討伐でほとんどすっからかんになってしまった笑顔ポイントだけれど、直近でダークエルフの来訪以外はそこまでポイントが入り用になる事態もなかったので、順調に溜まってきている。
エレメントゴーレムの合成という強力な手札のおかげでようやく僕にも戦闘手段ができたわけだけど、あれはたしかに強いけど燃費が悪い。
なのであまりむやみにポイントを使うわけにもいかないので、僕は旦那の稼ぎをせっせとタンスにしまう主婦よろしく、コツコツとポイントを溜めていた。
ギネアとツリー村の二つから笑顔ポイントが溜められるようになったこと。
そしてどうやら皆の僕への感謝の気持ちが大きくなったこと。
この二つの相乗効果で、僕は今毎日700ポイントくらいをもらうことができている。
フレイザードウッドゴーレムを出すのに必要なポイントが7000なので、十日に一フレイザードという計算だ。
なんやかんやで警備用のゴーレムを作成したり、装備拡充のためにエレメントフルーツを作っていたりしていると、思っていたよりなかなかポイントは溜まらず。
ようやく7000ポイントが溜まったというところで、僕は再び植樹に集中することにした。
その目的は一つ。
色々とやることがあってできなかった植樹レベルのレベルアップだ。
樹を150本ほど植えると、久しぶりに僕の目の前に光の板が現れた!
『植樹量が一定量に達しました。レベルアップ! 植樹が可能な新たな樹木が解放されます! 樹木守護獣のスキルを獲得しました!』
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