なし
そこには……自分から出た光をまぶしがっているミリアさんの姿があった。
加護を再度手に入れて一気にエルフに……なんて上手いことには、どうやらいかないみたいだ。
「でも……よく見ると、ちょっと変化はあるような?」
よく見ると、ミリアさんの肌の色が少しだけ白くなっている……ような気がしないでもないのだ。
なんだろう……日焼けで黒くなった肌がペリッと剥けた後みたいな感じで、ちょっとだけ白くなっているように思える。
「シムルグさん。これは世界樹の加護が戻ったってことなんでしょうか……?」
「……魔力の流れを見たところ、加護が戻ったわけではなさそうなのである。だがわずかに、俗世の魔力に染まったミリアの身体が清められているようには思える」
「ということは、もしかして……?」
このまま世界樹の実を食べてもらっていれば、ミリアさん達ダークエルフはエルフに戻れるってことなんでしょうか?
そんな僕の言外の言葉の意味を汲み取ったシムルグさんは……大きく頷いた。
「うむ。どれくらいの時間がかかるかはわからぬが、恐らく再び彼女達が始祖エルフとして活動することもできるだろう」
「ほっ、そうですか……とりあえずなんとかなりそうで、良かったです」
「もっとも、気長に取り組むべきことなのは間違いないのである。正直なところ、ウッディが生きている間になんとかなるとは思わない方がいいかもしれないのである」
「なるほど、そうなるとやっぱり、将来的にはどこかにダークエルフの里を作ってもらわなくちゃなりそうですね……」
「ふむ、ウッディもなかなか遠い先を見ているのであるな」
同じ種族である人間同士ですら争い合うのだ。
人とダークエルフとなれば、仲良く手を取り合うためには色々と問題も起こるだろう。
僕が領主をできている間はそれでもいいが、綺麗な見た目に反してミリアさんもルルさんも何十年という年月を生きている。
彼女達ダークエルフの面倒を見るということは、今後僕がいなくなっても生きていけるよう、自活のための手伝いをするということでもある。
僕がいなくなったらそのまま路頭に迷う……なんてことは避けたいしね。
「とりあえず先だっては、世界樹を剪定する技術者が必要なのではないか?」
「ですね。そのあたりのことは、ダークエルフさん達にお任せするつもりですけど」
世界樹の実の価値は、人間界ではとんでもない。
多分何十個かフルーツを輸出すれば、それだけでコンラート家なんかは目の色を変えてここを襲ってくると思う。
だから正直、今まで世界樹の実は処分することもできず、溜まる一方だった。
お金に目が眩んで横流しでもされたりするのも怖かったから、非果樹タイプばかりを植えてきた。
けれどここで、ダークエルフ達にとって、世界樹の実が非常に大切なものだということが発覚した。
なのでこの際、ダークエルフ達に世界樹の管理を一任させてしまうというのはどうだろうか……というのが、僕のアイデアだ。
自分達の身体を清めるために必要となれば、ダークエルフの皆も横領しようなんてよこしまな考えは抱かないだろうし。
元が同じだっていうのなら、ダークエルフが世界樹の管理をしたってなんにも問題はないということになる。
「ちょ、ちょっと待ってくれ!」
ビシッと手を上げるミリアさんは、明らかにテンパっている様子だ。
目を白黒させながら、ちょっとだけ色白になった肌を見て汗を掻いている。
「す、すまんウッディ殿。何が起こっているのか、教えてくれるとありがたいのだが……」
……いけないいけない、つい先走っちゃう癖が出てしまった。
当人達を置き去りに話を進めちゃいけないよね。
というわけで僕らは、世界樹の実を食べて起こった変化と、ダークエルフ達の今後について説明をした。
このまま行けば最終的には、彼らは世界樹を守る始祖エルフとして再び世界樹の加護を得ることができるだろうということ。
だから僕らの街の世界樹のお世話を、ダークエルフにしてもらいたいということ。
そしてゆくゆくはどこか別の場所に、ダークエルフ達が暮らせるようなダークエルフの里を作ること。
「……」
ミリアさんは僕の話を、噛み締めるように聞いていた。
そして俯いたまま、黙ってしまった。
地面に、ポタポタと染みができていく。
「ウッディは悪いやつなのであるな! また女の子を泣かせているのである」
そうからかいながら言うシムルグさん。
僕だって泣かせたくてやってるわけじゃ……と言い返そうとした時だった。
ミリアさんは顔を上げて、
「ほ、本当に……ウッディ殿は、ひどいやつだっ! ウッディ殿なしではいられないようにするつもりかっ!?」
顔を上げるミリアさんの目から、涙がこぼれ落ちていて。
それでも彼女は、笑っていた。
くしゃっと崩れたその笑みはなぜだか、恐ろしいほどに整っている普段の顔よりも、魅力的に見えた。
こうしてミリアさんとルルさんはひとまず、ツリー村の世界樹管理の任を負うことになるのだった――。
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