光
「おはよう!」
「おはよ~」
ミリアさんとルルさんがやってきた次の日。
何か不自由はないかということで、領主邸に彼女達を呼び出していた。
二人とも顔色は悪くない。
フルーツをたくさん食べたおかげか、血色も昨日より良くなったような気がする。
「うむむ……すまんな、昨日はあまり寝れなくて……」
「ベッド、合ってませんでしたか?」
「いや、そんなことはないぞ!」
その顔を見る限り、問題は起こっていないようだ。
『それならどうして?』と思ったけれど……どうやらはしゃぎすぎて、寝不足なだけらしい。寝心地の方は、まったく問題なかったようだ。
それなら良かった。
「むしろウチなんかより安心できたよね。私の心の中のエルフの部分が喜んでたよ」
「ああ、たしかになんとなくわかるな。樹の中で眠っていることに、どこか安心するというか……」
どうやらダークエルフの中にも、樹や森に対する親近感のようなものは残っているらしい。 砂漠の中で寝泊まりすることより、自然豊かな森の中なんかに居た方が、安心できるようだ。
「けれど……ふふっ、ハウスツリーで寝泊まりをしていると言ったら、爺様達も驚くだろうな」
「えっ!?」
はにかむミリアさんを見て、驚くのは僕の方だ。
それを見てミリアさんも驚き、僕らは目を大きく見開いたままで視線を交わす。
「どうした、ウッディ殿!?」
「いえ、ミリアさんはハウスツリーを知ってるんですか?」
少なくとも僕が自分が出せるようになる前、ハウスツリーなんて樹があることは知らなかった。
これもエレメント系の樹と同様、相当にレアなものだなぁくらいの認識しかなかったんだけど……もしかして結構、メジャーな樹だったりするのかな?
「――ふむふむ、なるほど……」
ミリアさん曰く、ハウスツリーというのはエルフ界では大分ポピュラーなものらしい。
世界樹の里で暮らすエルフ達の家と言われてまずイメージするのは、後ろにある世界樹の景観を壊さないよう、どこか樹のようなデザインの家々だ。
あれらはどうやら、ハウスツリーを長年かけて品種改良することで、生み出したものらしい。
「といっても、そこら辺の詳しい話を知っているのは爺様達の世代くらいまでだがな。自分の父や祖父から直接話を聞けてるのが、そこら辺の世代までなので」
「私達からすると、そんなこともあったんだなぁってくらいの遠い話だよね。ふふ、でも今では多分、ダークエルフ唯一のハウスツリー民だよ!」
ハウスツリー民というのがなんなのかはよくわからないけど……ルルさんが楽しそうだからいっか。
でもそれならもしかして、世界樹の里を僕が作ることもできたりするのかな?
僕が作った場合、そこに住んでいるのはダークエルフになるわけだけど。
「じゃあ、またあとでね~」
ルルさんに見送られながら、僕とミリアさんはシムルグさんが管理しているエレメントフルーツ園へと向かう。
ルルさんは流石オシャレ番長なだけのことはあり、なかなか皆に溶け込むのが速かった。
一体何をどうやったのか、既に彼女は若い女の子達のリーダー的な存在になりつつある。
「ここは私に任せて先に行って!」
という頼れる仲間みたいな台詞を口にするルルさんを置いて進んでいく。
実は今朝、シムルグさんから呼び出しを受けたんだよね。
シムルグさんが自分から僕を呼びつけるのは珍しい。
だから何事かと身構えていたんだけど、彼の口から飛び出して来たのは、意外な言葉だった。
「ウッディ、一つ思いついた……というか、考えたことがある。ウッディの持つ世界樹の実を……ミリア達に食べさせてみて欲しいのである」
「え、えっと……問題はないんですけど、なぜでしょうか?」
「聖域が持つ浄化作用は、世界樹の実にもある。というか、それを更に濃縮させたようなものがな。それを使えばもしかすると……ダークエルフの身体に染みついた魔力や魔素を浄化し、再び世界樹の加護を与えることができるかもしれないのである」
魔物が寄りつかなくなる、魔を祓う効果。
盗賊達が改心しやすくなるような、浄化作用。
この二つを併せ持つ世界樹の実を与えれば、もしかすると長い時間をかけて身体が変質してしまったダークエルフ達も、以前に近付くことができるかもしれないということだった。
なるほど、そういうことならぜひとも食べてもらおう。
売ることもできないし、神獣様が食べるっていってもたかがしれてるから、ストックは問題ないし。
「というわけで、どうぞ」
「お、おお、なんと神々しい……」
黄金に光る、世界樹の実。
最初はこれでなんとか飢えをしのいでいたっけ。
これ一つ食べるだけで丸一日何もいらなくなるから、今は忙しい時に栄養食感覚で食べることも増えたけど……なんて考えているうちに、ミリアさんがシャクッと実を食べる。
するとなんと……ミリアさんの身体が、世界樹の実と同じ金色に輝き出したのだ!
「こ、これはっ……!?」
光が収まった時、そこには――。




