準備だけは
フルーツを沢山食べてお腹を満たしてから、シムルグさんのところへやってきた。
事情を聞いたシムルグさんは、ふむふむと言いながら翼で自分の頬をぺちぺちと叩いている。
そしてそのままくるくると旋回しながら、ミリアさん達のことを観察していた。
「たしかに彼女達は、ダークエルフで間違いないのであるな……」
「おお、これが神鳥シムルグ様……」
「なんだか神々しい感じがするね……」
二人は神妙な面持ちで、シムルグさんのことを見つめていた。
どことなく身体が強張っていて、緊張しているように思える。
一応ギネアでホイールさんたちにも会ったんだけど、あんまり長い時間話すこともできなかったしね。
それにあっちは大家族と、その大黒柱の飲んべえなお父さんって感じだから、あんまり威厳とかはないしね。
「しかしダークエルフとは……ウッディは相変わらずめちゃくちゃなのである」
「なんだか成り行きで、来てもらっちゃいました」
「『そんな成り行きがあってたまるか!』と言いたいのはやまやまなのであるが……世界樹に関連した素養である以上、エルフ達と関わりが生まれるのも必然、か……」
ミリアさん達の空気に当てられてか、シムルグさんの方も至って真面目な顔を作ってたる。 『ウィンド系のフルーツをもっと作ってほしいのである!』とバサバサ翼を振っていて駄々をこねていたシムルグさんと、果たして同一人物なのだろうか。
「ウッディ、ダークエルフと関わりを持つようになるのなら、エルフの干渉があることも考えるべきであろう」
「エルフの干渉、ですか?」
「うむ。恐らくそう遠くないうちに、エルフ達も異常を検知し、ここへやって来ることになると思うのである」
なぜエルフ達が……と疑問を浮かべる僕に、シムルグさんが懇切丁寧に教えてくれる。
聖域を作るために必要な構成要素は三つ。
人、魔力、そして神獣。
けれどこの3点セットが揃っていても、それだけでは聖域は作れない。
聖域作成のために必要になってくるのが、世界樹だ。
シムルグさんの言うことには、世界樹は三つを繋げる潤滑油のような役目を果たしてくれているということらしい。
神獣様の力が相当に強ければ、世界樹はなくてもいいらしい。
けれどそれだけの力を持つ神獣というのは、ほとんどいない。
いたとしても、めったに人里に出てくることはないらしいし。
だから世界樹というのが、非常に大事になってくる。
そして『植樹』の素養でめちゃくちゃ簡単に植えられるから麻痺しがちだけど、本来世界樹というのは非常に貴重な樹だ。
世界樹を使えば大気や地脈から魔力を吸い取り、それを様々な形で還元することができる。 元盗賊の兵士達から邪気を抜いて改心させたり、オアシスを生み出したり、ギネアなんかだと鉱山ができたり……。
それは聖域で暮らす人間にとっては非常にありがたい話なんだけど、本来の魔力の流れを変えてしまう。
世界樹や地脈について造詣が深いエルフ達は、何か異変があることには間違いなく気付くだろうとシムルグさんは言った。
「ダークエルフがいるとわかったら、エルフ達はどんな対応をするでしょうか?」
「あまりいいことにはならないのは間違いないだろうが、今すぐ答えを出す必要もないのである。ゆっくり考えてから結論を出した方がいいと思うのである」
「それもそうですね、ありがとうございます」
いずれやってくるというエルフさん達。
彼らに対して、僕らは一体どんな対応を取るべきなのか。
どうせならエルフさん達とも、仲良くできたらとは思うんだけど。
こればっかりはやってくるまでに、色々と準備をしておくしかないか。
たしかに今答えを出す必要もないし。
とりあえずミリアさん達が不安を覚えなくて済むように、準備だけはしておこうと心に決めるのだった――。