ようこそ!
「ぐす、すまないなウッディ殿、恥ずかしいところをお見せして……」
そう言いながら、ミリアさんが恥ずかしそうに顔を赤らめる。
後頭部をかきかきしながら俯いている彼女の横では、ばつが悪そうにしているルルさんの姿がある。
「ごめんねウッディさん、でも世界樹っていうのは私達にとってそれだけ大切なものなの」
「なるほど……」
よくわからないが、頷いておく。
深入りしていいかはわからないので、アルカイックスマイルを浮かべてようとしたけれど、ぶんぶんと首を振ってやめる。
(何を考えてるんだ僕は! それじゃあダメじゃないか!)
気合いを入れるために、自分の頬を思い切り張る。
彼女達ダークエルフも、これからは新たな村人になる。
領地に暮らすことになる人達が、何か問題を抱えている。
であれば領主である僕には、その事情をしっかりと理解し、解決するために行動をする義務がある。
「エルフが世界樹を守っているという話は聞いたことがあるんですが、ダークエルフとも何か関係があるんですか?」
エルフが世界樹を守っているという話は知っている。
けれどダークエルフというのは砂漠に住む人達だ。
ダークエルフに、樹に囲まれた里の中で暮らしているエルフのようなイメージはまったくない。
僕は結構砂漠を歩いて回ったけれど、自分の素養を使って植えた樹以外に、砂漠でまともな樹木を見たこともないし。
「エルフとダークエルフは、元々は同じ始祖エルフという種族だったのだ」
「私達の祖先も、元を辿れば今のエルフ達と同じように世界樹の守人をしていたんだよ」
聞いてみると、なるほどと頷ける部分の多い話だった。
見た目が似ている名前が似ているとかそういう次元の話ではなかった。
ダークエルフとエルフは、元は同じ種族だったのだ!
同じ始祖エルフとして生きてきた彼らは、考え方の違いから今から千年以上も前に大きな戦争をした。
長く続いた争いの結果、勝った始祖エルフは以前と同様世界樹を管理することになった。
そして負けた始祖エルフ達は居場所を失い、聖域から追放された。
「僕達人間と同じく、始祖エルフ達も同族同士で争っていたんですね」
「うん、そうだね。結局人もエルフも、争わずにはいられないんだと思うよ。カルマだよね、闇深だよね」
「そしてそれから長い時間をかけて、始祖エルフは二つの種族に分かれたのだ。一つは戦争や追放で人数が減った分、より強く世界樹の恩恵が受けられるようになったエルフ。そしてもう一つが……世界樹の加護を失い自分達の力で歩いていくことを余儀なくされた我らダークエルフというわけだ」
加護を失ったせいで、彼らには苦難が続くことになる。
以前よりも魔法の力が弱まり、寿命も以前と比べるとずっと短くなった。
エルフ達からは追放され加護を失った者達と軽蔑され、魔法の力が弱まったせいで人間や他の亜人達からも排斥されるようになった。
居場所を失った彼らは各地を転々として、そして最終的に砂漠に辿り着いたのだという。
そんな風に、砂漠の端で細々と暮らしてきたミリアさん達ダークエルフ。
長い苦難の歴史を歩んできた彼らに垂らされた、一本の蜘蛛の糸――それが僕らのツリー村の噂だった。
噂を聞きつけて実際にやってくるのは、きっとすごい勇気のいることだったに違いない。
僕は歴史の重さも、ダークエルフという種族のこともわからない。
けれどミリアさん達のその勇気だけは、決して否定をしちゃダメだと思った。
「大変、でしたね……」
「――っ!?」
「僕にはミリアさん達ダークエルフが負ってきた苦労を、想像することしかできません。でもそれはきっと、僕の貧弱な想像力なんかじゃ及びもつかないような色々なことがあったのだと思います」
色々な苦難を過ごしてきた彼らは……もうそろそろ、報われてもいいんじゃないだろうか。
僕にできることは、村を治める領主として領民を幸せにすることだけだ。
そしてそれが彼女達の救いにわずかでもなってくれればと、思うばかりである。
「改めて……ようこそ、ツリー村へ。領主として歓迎致します」
「う……ううっ!」
ミリアさんは感極まり……そして僕に抱きついてきた!
「え、ミリアさんっ!?」
「ぐす……ふええええええええんっっ!」
まるで幼い女の子のように泣きじゃくるミリアさん。
僕はまた後で赤面するんだろうかと考えてから……その頭を優しく撫でるのだった。