新たな住人
「ダーク、エルフ……」
頭の隅の方から、記憶を引っ張り出してくる。
ダークエルフというのは、亜人と呼ばれる人間によく似た特徴を持つ人達のうちの一つ。
長い耳と銀髪が特徴的な種族だ。
「ああ、私はミリア。一応ダークエルフの中で集落の長を務めさせてもらっている」
「私はルル。ダークエルフのおしゃれ番長をやらせてもらってるよ!」
ミリアさんはキツい印象のあるクールビューティーって感じの女性で、ルルさんはきゃぴっとした感じのくりくりお目々だ。
長はわかるけど、おしゃれ番長って一体なんなんだろう……?
「僕はウッディ、このギネアの村の長をさせてもらっています……ついでに少し離れたところにあるツリー村の長も兼任してますよ」
「おおっ、なんと! ウッディ殿は族長であらせられたか! なんという無礼を――こうなったら切腹を!」
「ちょ――何やってるんですか!? やめてください!」
ミリアさんは腰に差していた短刀を引き抜くと、そのまま腹に当てようとした。
ちょっと!
この人、冗談とかじゃなくて、今彼女は本気で剣で自分のことを傷つけようとしていたよ!?
物騒ってレベルじゃないんだけど!
「ごめんね、ウッディさん。ミリアちゃんは堅物なの」
「は、はぁ……」
「ちなみに堅物だから、彼氏いない歴=年齢なんだよ」
「ルル、今私の男性遍歴は関係ないだろう!?」
「は、はぁ……」
なんと言えばわからず、全自動で同じ答えを返す魔道具のような答えしか返せない僕。
「――んんっ! とにかく、だ! ウッディ殿、私達をあなたの村に加えてほしいのだ」
「はい、それじゃあ一度詳しい話をさせてください。……でもここだと、流石にうるさいですね」
今はどんちゃん騒ぎの真っ最中。
それにミリアさん達の姿は明らかに目立つし、彼女達も余人を交えずに話がしたいはずだ。
ダークエルフさん達の価値観はよくわからないし、オシャレ番長がなんなのかはもっとわからないけれど、隣人との関係は何よりも大切にしなければいけない。
それが砂漠に暮らす上での流儀だからだ。
どうやらミリアさん達も敵対的な感じでもなさそうだし、交流を持てる機会は有効活用しよう。
というわけで僕は彼女達を、とりあえず落ち着けるハウスツリーの中へ案内するのだった……。
「ウッディ様」
「なにさ、アイラ」
「また女性が増えました! ウッディ様はハーレムを目指す気なんですか!? これ以上のヒロインは不要です!」
「そ、そんなこと僕に言われても……」
僕達が暮らすハウスツリーの中に入り、ゆっくりと話をすることにした。
座る時には、既にミリアさんもアイラも落ち着いてくれていた。
ちなみにレベッカは、今も僕の膝の上に乗っかっている。
「先ほどは取り乱してしまいすまなかった。どうもこの村を見て、興奮してしまって……」
「なるほど」
たしかにギアンが聖域になった時は、僕もさすがにびっくりした。
そりゃあ何もない砂漠の中に、いきなりポツンと鉱山街ができていたら驚くのも当然だ。
「砂漠にダークエルフが住んでいるとは初耳だ……その耳、触っても良いか?」
「ダークエルフが耳を触ることを許すのは、愛する人だけなんだ」
いざという時に対応できるようついてきてくれていたナージャは、すげなく断られてしょんぼりする。
「僕の耳で良ければ、触る?」
「――触るっ!」
ナージャが僕の耳をもみもみしている間に、話を聞かせてもらうことにした。
こらナージャ、せめて僕の後ろに立って。
アイラもそんなに物欲しそうな顔しないの、後で触らせてあげるから。
「北の砂漠に住む者達の間にも、ウッディ殿の村の噂は聞こえてきているのだ」
「どんな噂でしょう?」
「無限に水と果物が湧き出る夢のような楽園があるという噂だな」
「なるほど」
「まあ流石にそんなことはないとはわかってるけど、確認のために私たちが来てみることにしたんだ」
「いや、水と果物ならたしかにほぼ無尽蔵に出続けますよ」
「「本当かっ(なのっ)!?」」
うん。
だって聖域になると、地脈を利用して水が湧き出てくるし。
果物は村人が住んでくれている限り僕が植えられるしさ。
「お願いだウッディ殿、私たちダークエルフを村に住まわせてもらうことはできないだろうか?」
「いいですよ」
「もちろんそう簡単に受け入れてもらえるとは思っていない。ダークエルフ秘伝の霊薬から魔道具作りの製法に至るまで……え?」
「村に住んでもらって構いません。ただギネアだと問題が起こった時の対応に難儀しそうなので、ツリー村に来てほしいですかね」
ダークエルフを村に受け入れれば、多分色々と面倒ごとの種を増やすことにはなるだろう。
けど問題が起こることは、困っている人達を助けない理由にはならない。
もしまた新しい神獣様を呼んでもらって、ダークエルフ達だけの村を作ってもいいしさ。
既に村を運営しているから、きっと苦労は前よりずっと少なくなるはずだ。
「ぜひ僕の村に住んでみてください。しばらくの間衣食住は保証しますし、合わなければ出て行ってもらってもいいですし」
「ええっ、いいのっ!? ――やったあっっ!」
ルルさんはガッツポーズをしながら、ぴょんぴょんと跳ねる。
そして勢いそのまま、なぜか熱烈なハグをされた。
流石はオシャレ番長だ、スキンシップが多い。
「感謝の念に堪えない……ウッディ殿、本当にありがとう」
そして落ち着いた様子のミリアさんと握手を交わす。
こうして僕の領地で暮らす村人に、ダークエルフさん達が仲間入りすることになるのだった――。




