新たな
苦節……というほどキツくはなかったけれど、一ヶ月近い時間をかけてようやく建てることができたギネア村。
ここにやってくるまでにかかった労力は、正直ツリー村へ辿り着くことができたあの時の比じゃない。
あの時は僕とナージャとアイラ、三人で進んでるだけでよかったしね。
今回僕は後に村を治める領主になる、言わば皆を率いなくちゃいけない立場だった。
あまり弱音を見せたりするわけにもいかない状態での長時間の旅行は、なかなかにキツかった。
砂漠行はもうしばらくいいかなって感じだ。
けど肉体的にも精神的にも疲れていたのは、どうやら僕だけではなかったようで。
まだ昼になったばかりなのに、僕がハウスツリーを用意したら皆ぐっすりと眠ってしまった。
かく言う僕もぐっすりと眠ってしまい、起きると既に日が落ち始めていた。
皆の分のフルーツを出したら、今日はゆっくりしよう。
色んなことをするのは、明日からでいいかなぁと、そう思っていたんだけど……。
「ウッディ、宴と洒落込もうじゃないのよ!」
と言ってホイールさんが酒を持ち込んできたことで、ギネア村に住む人達総出で宴を始めることになってしまった。
僕はフルーツやワインを提供し、てんやわんやな時を過ごし。
そして騒ぎも少し落ち着いたので、ようやく一息ついている。
神獣様も、そして砂漠に暮らす人達も、皆本当に何かある度に祝い事をしようとする。
たしかにたまにランさん達行商人が来ることを除けば、娯楽らしい娯楽なんてほとんどないからね。
最近作れるようになってきた酒がほぼ唯一の娯楽な状況でそれをタダで飲めるのなら、祭りなんかなんぼあってもいいと、まあそういう感じなんだろう。
「ですわぁ……」
僕はあの戦い以降妙に懐いてくれているレベッカを膝の上に乗せながら、優しく撫でている。
ホイールさんの子供達はどうやら老若男女問わず人気なようで、祭りの至る所で餌付けされていたり、撫でられている姿を見ることができる。
こうして見ていると、皆で共有して駆っているペットにしか見えない。
けれど……。
「こんなすごいこともできちゃうと」
僕が見上げる視線の先には、ドンドンと大きくなり、既にタイクーンウルフほどの大きさになった山がある。
ホイールさんの話では、色んな鉱物の出てくる鉱山が出せるって話だ。
今はとりあえず人間がよく使うという鉄と銅が出るようになっているらしい。
オアシスや湖を作ったり、砂漠を緑化したり、鉱山を作ったり……神獣様っていうのは本当に規格外だ。
「飲み比べなのである!」
「おお、今日こそ決着をつけてやるのよ!」
ワインを樽で飲み出している飲んべえな様子を見ているとつい忘れそうになるけど……シムルグさんもホイールさんも、伝説の神獣なんだよな。
ちょっと目が利く人間なら、いくらでも利用価値なんか見出せるだろう。
父上やアシッドがこの場所を見つけたら、なんとしてでも神獣様や聖域を手に入れようとするんだろうな。
まあそんなこと、絶対にさせないけどさ。
「ようやく一息つけましたね」
「なんやかんやで、またすぐに忙しくなる気がするよ」
アイラに注がれた液体を飲むと、ワインだった。
見れば彼女の頬も、ほんのりバラ色に染まっている。
どうやら既に酔っ払っているらしい。
「そうですね……私もそんな気がします。ウッディ様はその存在自体が、色々な物を呼び寄せてしまうみたいですから」
「そんな、人を誘蛾灯みたいに言わないでよ」
「でもあの『剣聖』も、神獣様も、商人達も、このギネアの村人達も……皆ウッディ様に引かれてこの場所にいます」
そう言ってアイラが、僕の右手の上に自分の手を添えた。
吐息の温かさを感じるほどに近い距離。
思わずドキリと心臓が高鳴る。
「もちろん私だって……そうですよ?」
アイラの顔が更に近付く。
このままいくと、そのまま顔と顔が――というか唇と唇がくっついてしまいそうだ。
ナージャは神獣様の飲み比べに無謀にも参戦し、早々にノックダウンしてしまっている。
今の僕達を止めるものは、何もない。
(いいんだろうか、僕にはナージャっていう婚約者が……。たしかにアイラのことは大好きだ。何も先の見えない状態でもずっとついてきてくれた彼女のことは、本当に大切に思ってる)
でもだからこそ……僕は自分の行動の結果を、お酒のせいなんかにしたくない。
もし二人の関係が進むとしたら、それは二人とも素面な状態で、僕が一歩を踏み出すべきだ。
「むふふ、ダメです」
肩を掴みこれ以上の接近を止めようとする手を、更にアイラの手が握る。
「いいんです、私に身を任せて下さい。私は二番目の女でいいですから……」
そう言ってそのまま顔を近付けてくるアイラ。
そして僕らの影が一つに重なって――。
「ウッディ! 気を付けて下さいまし!」
僕達の動きが止まる。
先ほどまでとろんと眠っていたレベッカが、急に目を覚ましたからだ。
見ればホイールさんを含め、神獣様達は皆何やら真剣な顔をしている。
「ウッディ! 侵入者だ! 誰かが聖域に入ってきたのよ!」
チッ、と舌打ちのような音が聞こえたかと思うと、アイラは既に離れていた。
その動きはキビキビとしている。
あの、もしかして……酔ってなかったの?
「って、今はそれどころじゃない! 侵入者、一体誰が――」
「――突然の来訪を詫びよう。あなたがこの村を治める領主殿、で間違いないか?」
「にゃっはっはー、お楽しみのところ悪いね~」
気付けば僕の目の前には二人の女性が現れていた。
恐ろしいほど顔立ちが整っている、肌の浅黒い人達だ。
けれど一番最初に目が行ったのはそこではなく――その長く伸びた耳だった。
「私たちはあなた達が言うところの――ダークエルフだ。聖域を治めるあなたに頼みがある。私達を――聖域に住まわせてもらうことは、できないだろうか?」
どうやらアイラが言っていた通り、僕が安穏と過ごせるのは、まだまだ先の話みたいだ――。
これにて第一部は終了となります。
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