後は
シムルグさんの見立てでは、ブレイズウッドゴーレムとアイスウッドゴーレムの強さは、大体Cランク前後。
そしてそれら二つを掛け合わせたフレイザードウッドゴーレムの強さは……Bランクの中でも最上位。Aランクにも届きうるだけの強さがある。
ただその分、コストパフォーマンスは激悪。
なんとこいつを一体生み出すのに、笑顔ポイントを7000も消費する。
おかげでこれで僕のポイントの残量はすっからかんだ。
だからここで……なんとしても仕留めきらなくちゃいけない!
「顔を狙って!」
「……」
フレイザードウッドゴーレムの背丈は、タイクーンウルフの顔ほどもある。
そして炎の右半身からはマグマのような粘質な液体が噴き出し、左半身から湧き出る雪が吹雪いていた。
氷と炎の巨人は、黙して語ることはない。
そしてただ僕の言葉に従いコクリと頷き――消えた。
いや、目で追えなかっただけだ。
気が付けばフレイザードウッドゴーレムはその拳を、タイクーンウルフの鼻先に叩きつけていた。
「ぎゃうんっ!?」
タイクーンウルフがのけぞる。
ナージャの繊細な剣技では出せないパワフルな一撃は、タイクーンウルフの身体を浮かび上げる。
上方へ跳ね上げられるタイクーンウルフ。
けれどそこには既に、右足を振り上げたフレイザードウッドゴーレムの姿がある。
ドガンッ!
踵落としがモロに入る。
タイクーンウルフはそのまま地面に叩きつけられる。
フレイザードウッドゴーレムが生み出した雪が、狼の形に型を取られる。
タイクーンウルフの全身は、燃えていた。
フレイザードウッドゴーレムの魔力攻撃の威力は、ただのエレメントウッドゴーレムの比ではない。
ラッシュラッシュラッシュ。
フレイザードウッドゴーレムの攻撃は止まらない。
「ギャッ、キャッ、キャインッ!」
その一撃一撃にタイクーンウルフはのけぞり、吹っ飛び、かち上げられる。
攻撃のインパクトで身体はボロボロになり、しかしすぐさま放たれる次撃によって、身体の樹木を移動させることを許さない。
執拗に顔面を狙うフレイザードウッドゴーレムの身体は、しかし一方的に攻撃を続けているにもかかわらず、ボロボロと崩れ始めていた。
火と氷、相反するものを身体に宿すことに身体が拒否反応を起こし始めているのだ。
僕が出せる最強の駒、フレイザードウッドゴーレムには大きな弱点がある。
それは――その力の強さに、身体がついていけないこと。
Aランクモンスターにも迫る戦闘能力を得ることができるかわり、フレイザードウッドゴーレムは戦えば戦うだけ自身の身を焼き焦がし、凍り付けていく。
その時間制限は……おおよそ三分。
氷と炎の巨人が全力戦闘を続けられるのは、たったの三分だけなのだ。
それ以降は身体から魔力が放出されてしまうため、ガクッと戦闘能力が落ちてしまうのである。
殴打、蹴撃、乱れ突き。
ストレート、フック、アッパー。
エレメントフルーツの爆発を凌駕する拳が、雨あられと降り注ぐ。
その速度と威力は、タイクーンウルフを圧倒していた。
速度はナージャには劣るが、それでも図体のデカいタイクーンウルフよりずっと早い。
おまけに拳も蹴りも鈍器のような重量があるため、一撃ごとにノックバックがある。
攻撃を受ける度にのけぞり、結果として防御行動を取れずに次の一撃をもらう。
そのループに陥ったタイクーンウルフは、ただただ攻撃を受け続けるサンドバッグと化していた。
けれどそれでもタイクーンウルフの息が止まることはない。
先に限界を迎えたのは、フレイザードウッドゴーレムだった。
「最後の力を、振り絞って!」
「……」
自らの限界が近付いていることをわかったフレイザードウッドゴーレムは、新たな動きを見せた。
なんと自分よりも身体の大きなタイクーンウルフに掴みかかり、その両腕を粉砕したのだ。
フレイザードウッドゴーレムの氷に冷やされ、炎に炙られ、タイクーンウルフの力は明らかに落ちていた。
けれどそこで、限界だった。フレイザードウッドゴーレムはそのままがしりと、タイクーンウルフを掴む。
そして最後の最後まで、動きを阻害し続けた。
見ればタイクーンウルフの頭部は完全に破壊されていた。
その内側には、キラリと見える赤い宝石のようなものがある。
あれが間違いなくコアだろう。
けれど先ほどのラッシュを食らい続け、何度かはクリーンヒットしていたにもかかわらず、そのコアには傷一つついてはいなかった。
なんて硬さだ。
今の僕では太刀打ちできない。
けれど問題はない。
何故なら僕は――一人ではないからだっ!
「ウッディ、お前の助力は受け取った! 後は――」
「私達に、任せてくださいッ!」
先に放たれたのは、アイラの放つ魔法。
現れたのは――氷の世界。
先ほどまでの激闘の後が、一瞬で氷の中に閉ざされる。
タイクーンウルフは、完全にその動きを止めている。
まるで世界があまりの冷たさに呼吸を止めてしまったかのようだった。
気付けば僕の吐く息も白くなっている。
呼吸の仕方を間違えれば肺まで凍りかねないほどの強烈な冷気がここまで届いてきているのだ。
こんなものを至近距離で食らっているタイクーンウルフの方は、たまったものではないだろう。
先ほどフレイザードウッドゴーレムが出していたものとは、レベルが違う。
これが……アイラの本気、なのか。
けれど全身を氷漬けにされても、タイクーンウルフが生命活動を止めることはない。
それどころかあの魔物は、全身から蔦を出し移動しようとさえしていた。
けれどその動きは全て、アイラが止めている。
そしてタイクーンウルフの目の前には――そのコアを破壊すべく己の力を一心に溜め、集約している『剣聖』の姿があった。
「ふううぅぅっっ……」
大きく息を吐き、そして吸う。
不思議なことに、僕よりずっと冷気を食らっているはずのナージャの息は、まったく白くなっていなかった。
彼女は真っ直ぐに、剣を中段に構えている。
その刀身は――真っ白に光り輝いていた。
あれは魔力……なのだろうか。
とにかくとてつもなく強い生命力のようなものを感じる。
まるで力という概念を具現化させたかのような、圧倒的なエネルギー。
初めて見るあれがきっと……今のナージャが放てる、最大の一撃なのだ。
ナージャが全身から発する闘気、そして何より彼女が持つ剣から発されている圧倒的な暴威に、タイクーンウルフが必死で逃げ出そうとする。
けれどその逃走を、アイラは決して許さない。
そして――ナージャが思い切り、カッと目を見開いた。
「――シッ!」
次の瞬間、ナージャはタイクーンウルフの眼前に現れ、そしてコアへとその斬撃を叩きつける。
そして……。
パキンッ!!
今までどれほど攻撃を受けてもまったく傷つくことのなかったタイクーンウルフのコアは、実にあっけなく真っ二つに絶たれたのだった――。
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