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頼んだぞ


「よし……準備はいい?」


 僕らはホイールさん夫妻の背中に乗り(僕がキャサリンさん、そしてホイールさんの後ろにアイラとナージャが二人乗っている形だ)、タイクーンウルフの近くにやってきた。


 タイクーンウルフは地面に身体を伏せていた。

 まぶたを閉じていて、どうやら身体を休めているらしい。


 周囲を警戒している様子はない。

 けれどタイクーンウルフの代わりに、フォレストウルフが周囲を徘徊していた。

 どうやらフォレストウルフに言うことを聞かせることができるというのは本当らしい。


「じゃあ、頑張れよ」


「頑張って下さい」


「お、応援してますわ……」


 ホイールさん達に砂漠に下ろしてもらう。

 彼らにはいざという時にすぐに動き出せるよう、逃げられるくらいに距離を取ってもらい、後方待機をしてもらうつもりだ。


 そしてなぜか、お嬢様モルモットもお出迎えにきてくれていた。

 ありがとう……もふもふ。

 その毛並みを堪能してから、顎の下あたりをくりくりする。


「ですわぁ……」


 お嬢様モルモットはちょっとだけふにゃふにゃになっていた。かわいい、やっぱり癒やされる。


 神獣様達に下がってもらってから、くるりと後ろを振り返る。


「「……(コクッ)」」


 二人とも何も言わず、僕の方を見てこくりと頷いた。

 戦闘準備は万端なようだ。


 よし、それなら始めようじゃないか――大物狩りをっ!


「――先手必勝、初撃はもらうぞッ! アイラ、合わせろッ」


「まったく、この猪武者はっ……!」


 ナージャが前に飛び出す。そして彼女に合わせる形で、アイラが魔法発動のための準備を整えた。


 普段から喧嘩してばかりの二人の息は、不思議なことにぴったりと合っていた。

 いや……喧嘩してばかりだからこそ、呼吸が合うってことなのかな?


「がるるっ!!」


 ナージャは真っ直ぐに最短距離で、タイクーンウルフの下へ駆ける。

 なので当然のことながら、フォレストウルフ達には気付かれた。


 けれど全速力のナージャの走力に、フォレストウルフは追いつくことすらできない。

 どれだけ走っても、ナージャとフォレストウルフ達との距離は開く一方だった。


「受け取れ、デカブツ!」


 ナージャが眠りこけているタイクーンウルフの鼻先へと近付く。

 そして思い切り屈み、力を溜める。

 そして――抜刀。


「ぜああああああああっっ!」


 『剣聖』が放つ一閃は、音を置き去りにした。

 攻撃を全力で放っても、広大な砂漠を満たすのは静寂ばかり。


 それは斬られた当人すら気付かぬほど滑らかな断面が現れる。

 そしてタイクーンウルフの巨体に現れたずれは徐々に大きくなっていき……。


 ドオオオオオオンッッ!


 その巨体は真っ二つになり、上半分が地面に落ちた。


 けれどそれを見ても、アイラは攻撃の手を弛めない。


「食らいなさい――ヘイルストームッ!」


 アイラが手を高く掲げると、長い時間をかけて彼女が準備した魔法が発動する。

 まばゆい光が瞬いたかと思うと次の瞬間――突如として、夥しい数の氷の礫が現れた。


 集合体恐怖症の人間が見たら卒倒するほど沢山の氷塊が、タイクーンウルフの頭上に浮かぶ。

 そしてタイクーンウルフの身体が鼻先から真っ二つに切り裂かれたのと同時に、アイラは掲げていた手を地面に振り下ろした。


「があああああああっっ!」


 タイクーンウルフが自らの身体を斬り裂かれた悲鳴を、襲いかかる氷が掻き消した。

 加速した氷の礫はタイクーンウルフの表面の砂を貫き、内側を凹ませながら、止まることなく降り注ぎ続ける。


「――まだまだ行くぞッ!」


 そして恐ろしいことに、ナージャはその氷の雨の中を掻い潜りながらタイクーンウルフへの攻撃を続けていた。


 ただナージャの反射神経がすごいだけかとも思ったけど……よく見るとアイラも、ナージャにぶつからないよう魔法の軌道を微妙にずらしている。


 絶妙なコンビネーションだ。

 前に戦っているのを見たことがある『白銀の翼』の人達と比べても遜色がないように見える。


「がるうううううっっ!!」


 タイクーンウルフは狼の魔物ではなく、樹の魔物。

 それが事実であることを示すように、タイクーンウルフの上半分が動き出す。

 そして断面部からしゅるしゅると蔦が伸び、下半身へ向かって動き出す。


「はああああっっ!!」


「おおおおおおおおっっ!」


 アイラとナージャが水魔法と剣技でひたすら傷をつけ続けるが、タイクーンウルフはそれでも止まらない。


 既にタイクーンウルフの表面から、砂は剥がれ落ちていた。

 その下にあるのは赤茶けた錆びた鉄……だとばかり思っていたけど、どうやら鉄じゃなさそうだ。だって直接シュルシュルと蔦が伸びているし。

 鉄みたいな硬い樹木、そう考えておくのが無難だろう。


「オオオオオオオオオンッッ!!」


 再び一匹の狼の形を取ったタイクーンウルフが大きな遠吠えを挙げる。


 ぼこぼこぼこっ!


 その背中が膨らんだかと思うと、何かが射出される。

 それは全長が僕の身長くらいある、大きな種子だった。

 種子が地面に着弾する。そしてパアンッと大きな音を立てて弾けた。

 そして硬い殻の中から……。


「がるるるっ!!」


「ぐるるっ!!」


 フォレストウルフが現れた。

 なるほど、ああやってフォレストウルフを造り出しているのか。


 タイクーンウルフとナージャが戦っている間に、こちらに向けてフォレストウルフがやってくる。


「ウッディ、頼んだぞッ!」


「――うんっ! 任せてっ!」


 ナージャに頼りにされている。

 そんな人生初めての経験に、こんな状況だっていうのに心が弾む。


「よし、行くぞっ!」


 僕は大量のウッドゴーレムを取り出すのだった――。

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