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【第3巻6/10発売!】スキル『植樹』を使って追放先でのんびり開拓はじめます  作者: しんこせい(『引きこもり』第2巻8/25発売!!)


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聖域未満


 終わりが見えれば、最後の気力を振り絞ることだってできる。

 そして人間、目の前に人参がぶら下げられればやる気が出るものだ。

 先ほどまで死にかけた顔をしていたのがまるで嘘みたいに、皆精気のみなぎる顔で歩き出していた。


 終わりは見えたけれど、実はそれはむしろただの始まりだった。

 そんな展開になったらやだなぁと思ったので、先頭を進むホイールさんに話を聞いてみることにした。


「すぐに聖域を作れるってわけではないんですか?」


「そうなのよな。聖域っていうのはいくつかの条件が整わないと作れないもんなのよ」


「そうなんですか? シムルグさんはわりとパパッと聖域を作っていた記憶がありますが……」


 アイラの質問に、ナージャと僕が頷く。

 たしかにシムルグさんはシェクリィさん達が住んでいた村を僕の領地にした瞬間、ぶわっと聖域を広げていた。

 事前に条件を整えたり、綿密な調整や場所選びをしていた記憶はない。


「まあ誰にだって得意分野ってやつがあるってことなのよ。あいつは風を司る神鳥であるが故に、風に働きかけて自分に都合のいいように環境を調整できる」


「ホイール殿は土を司る神鼠なんだよな?」


「いかにも。俺が得意なのは聖域を作る方というよりむしろその後……つまりは俺という存在が聖域に根付いてからの方なのよ。聖域を作ってからその聖域を発展させることなら、シムルグには負けんのさ。区切った領域を魔力コーティングして季節に関係なく作物を作ったり、鉱山を作ったり、自然環境なんかを整えて湖を作ったり……色々できるようになるから、まあ楽しみにしといてほしいのよ」


 こ、鉱山を作る……?

 そんなことまでできるのか……流石神獣様だ。


 索敵から嘘看破、飛行能力に建物の透過能力。

 シムルグさんの力には、村作りを始めたばかりの頃はかなり助けられた。


 どうやら神獣様にはそれぞれの強みというものがあるらしく、ホイールさんはそういった直接的なバックアップというより、聖域を弄ったりすることの方が得意なようだ。

 聖域が作れる環境を作るのが得意なシムルグさんと最初に出会うことができたのは、実はかなりかなりラッキーだったみたい。


 通常、聖域を作るにはある程度条件が重ならなければ難しいらしい。


「まず第一に、聖域として魔力を引っ張ってくるための地脈が必要なのよ。そこからラインを引っ張ってこないことには、聖域を維持するための魔力が確保できねぇからな。それにある程度周囲が魔素に満ちていなくちゃならねぇっていうのもあって……」


「ほうほう……」


 アイラがなるほどという感じで詳しい話を聞いていたが、僕にはちんぷんかんぷんだった。

 もっと簡単に説明をしてもらえれば、僕にもわかった。


 要するに、聖域を作るには人と魔力と神獣が必要ってことだ。

 なので魔力がある場所――具体的には地脈と呼ばれる、この大陸が持っている無尽蔵の魔力を引き出せるポイント――へ行かなければならないらしい。


 ただ土属性を司る神鼠であるホイールさんには、既にある程度の目星がついているらしい。

「多分こっからなら、半日もかかんねぇと思うのよな」


 神獣様が言うのなら、まず間違いはないだろうということで、疲れを押して進んでいく僕ら。

 そして言われていた通り、たしかに村の予定地の近くまで、日が暮れ始めた頃に着くことができた。

 けれど……。


「うーん……これ地脈を引き出せるポイントを、魔物に占拠されてるっぽいのよ。このままだと聖域のど真ん中が魔物の住処になっちまうのよな」


 新たに発覚した驚愕の事実により、僕らの村作り計画は暗礁に乗り上げてしまうのだった……。



 風で状況を読み取るシムルグさんと比べれば精度は落ちるらしいけれど、それでもホイールさんだってかなり正確な探知能力を持っている。

 彼が接近するまで気付けなかったということは、向こうもそれをかいくぐれるだけの隠密能力があるということで。


 ……恐らくは向こうも、かなりの強敵なんだと思う。

 戦っても楽勝とはいかないだろうね。


「一応、一旦戻るという選択肢もあるけれど……」


 その場合、僕らは来た道を、来た時以上にゆっくりとしたペースで戻らなければいけない。

 仮に無事に戻ることができたとして。僕についてきてくれた人達は、もう一度こんなキツい旅をしてくれるだろうか。


 ――まず間違いなくしてくれないだろう。どうせまた次も同じような目に遭うだろうと、断られるのは目に見えている。


「うん、やっぱり――僕らで倒すしかないね」


 既に皆こっちに来てしまっているのだ。今更やっぱなしと戻るわけにはいかない。

 それにホイールさん達が、シムルグさん同様参戦することができなくとも、こちら側にだって戦力はあるんだ。


 僕が出せるウッドゴーレムだってそうだ。

 もちろんそれだけじゃない。


「ああ、そんな障害物など、私達の手で薙ぎ倒してしまえばいい。ここまで来て引き下がっては『剣聖』の名折れだ」


「私も『水魔導師』にできる精一杯をさせていただこうと思います」


 ナージャもアイラも、僕と一緒に戦ってくれる。

 そして今回は砂賊退治をナージャに任せていた、今までとは違う。

 僕も彼女達の隣に立って戦うのだ。


 今までは他の面では貢献できても、戦闘ではいつだって二人にはおんぶにだっこだった。

 けれど新たな力を手に入れたおかげで、僕も戦闘で役に立つことができる。


 彼女達の隣に立てるというだけで、なんだか感慨深い。

 そう思っていると胸の奥がじぃんと熱くなり、鼻がツンとしてきた。


「ウッディ様、大丈夫ですかッ!?」


 嬉しい気分になり、こらえきれなくなってしまった僕に、アイラが駆け寄ってくる。

 ナージャも一緒になって背中をさすってくれた。


 大丈夫、大丈夫だよ。

 だから――さっさと魔物なんか、蹴散らしちゃおう。


 僕らならできるさ、絶対。

 ウッドゴーレムもまだもう一段階、変身を残しているしね。


 僕が落ち着くのを待ってから、魔物を倒すための段取りを立てていくことになった。

 こちらに被害を出さずに相手を倒せるようになるには、事前にしっかりと情報を集めなくちゃ。

 まずはその地脈を占領しているという魔物の偵察から始めよう。


 あ、その前に皆に状況の説明もしなくちゃ。

 やることがいっぱいだなぁ。

 でもきっと、これが最後のひと踏ん張りになるはず。

 だからもうちょっとだけ、頑張ることにしよう。

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