にやり
ゴーレムのお披露目が終わっても、僕達は休むことなく歩き続けた。
砂が身体に当たることもなく、食料の心配をする必要もないけれど、皆の疲労は徐々に溜まっていく。
明らかに疲れた様子の人達もちらほら見えるようになってきた。
不満を漏らすことはないけれど、かなりつらそうだった。
なので僕は自分にできることはやろうと、そう心に決めた。
僕だけ一人で帰ってぐっすりと睡眠を取っていたら、彼らの気持ちに寄り添うことはできない。
なのでツリー村に戻るのは必要最小限にして、僕も彼らと苦楽を共に味わうことにした。
「はい、これを食べたら早く寝るんだよ」
「ありがとうございます、ウッディ様!」
つまらなそうにしていたり、歩きたくないと駄々をこねたりしている子供達におやつをあげたり。
「い、痛ぇ……」
「よければこのピーチ軟膏を使ってみて。治りの早さが全然違うからさ」
「――う、ウッディ様!? ありがとうございますっ!!」
ずっと歩いているわけだから、当然ながら道中転んで膝をすりむいたりする人も出てくる。
歩きすぎて疲れてしまったり、膝や腰に限界が来てしまうご老体も何人かいた。
彼らには、ピーチ軟膏を配った。ランさんお墨付きのこの軟膏のおかげで、今のところ脱落者は一人も出ずに済んでいる。
「……」
当初はおしゃべりに精を出していた人達も、今では休憩の時以外はあまり話すこともなくなった。
水分補給はしたい時にできるとはいえ、それでも砂漠の熱気は嫌なものだ。
汗を掻き、掻いた汗が乾いて白い線になる……そんなことを何度も繰り返していく。
一体いつになったら、終わりが見えるんだろう。
僕を含めて皆が、先頭を行くホイールさんの言葉を待っていた。
旅を初めてから、もうすぐ一ヶ月が経つ。
もしかしたら一生歩き続けるんじゃないか。
そんなことあるはずないのに、そんなネガティブな考えばかりが頭に浮かんでくる。
僕は今、ちょっと無理をして、ホイールさんのすぐ後ろを歩いている。
皆に僕の背中が見えるように。
苦しいのは君達だけじゃないと、皆にわかってもらえるように。
「ふぅ、ふぅ……暑いねぇ……」
「ウッディ、ほら水だ」
「ありがと」
すぐ隣にはナージャとアイラがいてくれる。
だからつらくはない。
……いや、嘘。
ホントは結構つらいけど、僕は皆を引っ張っていかなくちゃならない領主なんだ。
弱音を吐いて立ち止まることは許されない。
「ウッディ様、桃を切っておきましたよ。はい、あーん……」
「あーん、もぐもぐ……おいしい」
だから桃をあーんさせてもらうことくらいは許してほしい。
水気の多い果物は、この砂漠で生きていく上で非常に嬉しい。
水分補給にもなるし、甘みで舌が喜ぶし。
アイラとちょっとだけ甘い時間を過ごし、横にいるナージャから胃の中身が出るくらいの手刀をドスドスと食らいながら歩き続ける。
――それはそろそろ休憩にしようかという、昼時のことだった。
ホイールさんがその足をピタリと止めたのだ。
そしてこちらに向けて、くるりと振り返る。
その顔は、にやりと笑っていた。
「……よし、これで聖域同士が干渉し合わないところまで来れたのよ。あとは都合のいい魔力溜まりを見つけられれば、聖域が作れるのよな」
ホイールさんの言葉に、皆がわっと叫び声を上げる。
僕らが待ち望んでいた新たな村。
ようやく目的地がすぐそこまで近付いたのだと、僕はアイラやナージャと一緒に手を取り合って喜んだ――。
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