喋らぬ巨人
【植える樹木を選んで下さい】
世界樹(果樹タイプ/非果樹タイプ)
桃の木
リンゴの木
梨の木
桑の木
柿の木
栗の木
ブドウの木
びわの木
マンゴーの木
ハウスツリー
ライトツリー
ウォーターツリー
ファイアツリー
ウィンドツリー
アースツリー
ウッドゴーレム
新たに植えられるようになったびわとマンゴー。
果実のレパートリーが増えるようになるのはむしろありがたい。
だが……おわかりいただけただろうか?
ハウスツリーやエレメントツリーよりもその下に踊る、その文字列を。
ウッドゴーレム……こいつが一体どんなものなのか、そろそろ確かめてみても良い頃合いだと思う。
こいつを気軽に使えなかったのは、僕とそれほど関係性を築けたわけではない元王国民の皆の前でこの力を使って、不要な騒ぎを起こしたくなかったからだ。
何かあった時にすぐ対応できるように、長時間ツリー村に滞在するようなこともなかったし。ここまで試す場所と時間がなかったんだよね。
めんどくさいのと目をそらしたいので、後回しにしてきたっていうのももちろんあるけどさ。
というわけでやってきました、シムルグさんのエレメントフルーツ園。
やや風属性のものに偏ってはいるが、変わらずサンドストーム(仮)の兵達に行き渡らせても余るだけの量は生産できてるみたいだ。
「変わらずウィンドマスカットができていて何よりなのである!」
試す時に危険があってはいけないということで、今回はシムルグさんに来てもらっている。 もし何か問題が起こっても、彼がいれば安心安全だ。
とりあえず自動収穫を使って腐らないうちに果物を回収してっと。
よし、試してみますか……場所、そして樹木の種類を選択。
選んだのはもちろん、ウッドゴーレムだ。
【ここに樹を植えますか? はい/いいえ】
はいを選ぶと、ぱあっと光があふれ出す。
光が収まると……そこには僕二人分くらいの背丈のある樹の巨人の姿があった。
「これが……ウッドゴーレム」
ゴーレムっていうのは、魔物の一種だ。
無機物系の魔物であり、その特徴はなんと言ってもタフなところと、その再生能力の高さ。 身体のどこかにあるコアと呼ばれる部分を壊されない限り活動を止めることはなく、周囲に素材があればそれを取り込んで失った身体をもりもりと再生させてしまう。
有名なのは砂でできたサンドゴーレムや、粘度でできたクレイゴーレム、鉄でできたアイアンゴーレムなんかだろうか。
「でも樹のゴーレムなんて……聞いたことがないです」
「ゴーレムというのは良くも悪くも環境に依存する魔物であるからな。たしかにウッドゴーレムは珍しいが、話に聞いたことはあるぞ。ちなみに水の都には全身水のウォーターゴーレムがいるという話である」
シムルグさんはウッドゴーレムを見てもまったく動じていない様子だ。
神獣様として長い時を生きている彼からすれば、大抵のことは受け入れられるってことなんだと思う。
とにかくゴーレムの強さは、その素材と場所によって大きく変わる。
上で挙げた三種類のゴーレムの中では、全身が鉄製のアイアンゴーレムが一番強い。
喩えば鉄鉱山で出てくるアイアンゴーレムなんか、そりゃもう強敵の部類に入る。
鉄製なので、鉄剣じゃあまともに攻撃が通らない。
そして魔法や武器で頑張って相手に傷を付けても、周囲の鉄鉱を吸収されてしまえば、失われた部分もすぐに再生されてしまう。
戦う冒険者達からすれば、地獄だと思う。
ちなみに身体に使われる材料が稀少になればなるだけ、ゴーレムは強くなる傾向がある。
ミスリルゴーレムやオリハルコンゴーレムと言った稀少な金属でできたゴーレムなんかは、そりゃもうめちゃくちゃに強いらしい。
戦闘用の素養なしではほとんど倒すこともできないと聞いている。
まあナージャは普通に倒せるらしいけど……それは彼女がおかしいだけだ。
と、そんなことを考えてる場合じゃないか。
目の前の木製のゴーレムを見上げる。
その見た目は、巨大な人型の木製人形といった感じだ。
身体の表面はやすりでもかけられたみたいにツルツルしている。顔がのっぺらぼうなので、なんだかジッと見ていると不安になってくるような見た目をしている。
腰のあたりに穴……というか隙間みたいなものがある。
あそこには武器を入れたりするんだろうか。
いや、それにしても……。
「動かないですね……」
「うむ……」
何かあればすぐに動けるよう、気構えだけはしていたわけだけど。
このウッドゴーレム君、まったく動く気配がない。
ゴーレムって何もしなくても勝手に動くイメージがあったんだけど、一体どうしてだろうか?
僕が首を傾げていると、シムルグさんが羽根を振った。
するとスパッと、ウッドゴーレムの腕が肘の先から切り落とされた。
「防御力はそこそこであるな。にしても攻撃をされても迎撃をしないとなると……これはもしかすると、ウッディの命令を待っているのかもしれないのである」
「僕の命令、ですか?」
「うむ、そもそも現在稼働しているゴーレムとは、古代魔法文明において人間が開発した魔道具の成れの果てなのである」
初めて聞く情報だが、ゴーレムというのはなんでも今では再現できない、いわゆるロストテクノロジーというやつでできている、古代兵器の一種らしい。
なんとそもそもゴーレムは、魔物じゃなくて魔道具だったらしい。
「このゴーレムというのは、バカな男が残した負の遺産なのである……」
そう言って顔を上げたシムルグさんは遠い目をしていた。
けれど彼はすぐに木を取り直して、パシッと翼を打つ。
「まあそれは今はどうでもいい話なのである。今大切なのは、恐らくこのウッドゴーレムはウッディの命令なら受け付けるということなのである」
「えっとそれじゃあ……左手を挙げて?」
僕がそう命じると、ウッドゴーレムがスッと左手を挙げる。
まるで人間みたいにな滑らかな動作だ。
「右足を挙げて、次にそれを戻してジャンプ!」
僕がした命令を聞き入れ、ゴーレムが思った通りの動きをしてくれる。
どうやら本当に、僕の言うことを聞くみたいだ。
僕が言ったことをそのまま聞いてくれるゴーレム。
顔はないけれど、なんだかちょっとペットみたいでかわいく思えてきた。
ホイールさんの大家族を見てきたせいかもしれない。
愛着が湧いてくると、スパッと断ち切られている右腕がなんだかかわいそうに見えてくる。
「右腕を治して」
僕がそう命令すると、ウッドゴーレムは周囲をキョロキョロし始めた。
そして……近くにあった桃の木に右手を埋める。
ズズズ……と音がしたかと思うと、気付けば桃の木が半ばほどから消えており。
ウッドゴーレムの身体には、ツルツルと輝く腕がついていた。
「なるほど、ウッドゴーレムだから木を吸収して回復するのか……」
「我の! 我の桃がなくなったのである! これはゆゆしき事態なのである!」
「はいはい、大丈夫ですから」
シムルグさんが悲しそうな顔をしていたので、桃の木を植えてあげる。少しおまけをして三本植えてみたら、すぐに機嫌は直った。
ちょっとちょろすぎなんじゃ……いや、何も言うまい。
機嫌が直ってくれたのならそれでいいじゃないか。
でも樹木を使うことで傷を癒やせるウッドゴーレムか……と、僕は少し気に入ってきたのっぺらぼうの顔を見上げる。
実は新たな村で一つ、悩みの種になっていたことがある。
それは彼らの身をどんな風に守ればということ。
ホイールさんもシムルグさん同様、あまり表立って力を使えない制約のようなものがあるらしい。
それは奥さんも子供達も同様ということなので、新しい村の人達をなんとかして守るための兵力が必要だと常々思っていたのだ。
サンドストーム(仮)の皆はナージャやダン、そしてメグ達の下で上手く回っている。
彼らを半々にして、巡回してもらおうかと思っていたんだけど……このウッドゴーレムがある程度強くなるのなら、わざわざそんなことをしてもらう必要はなくなるかもしれない。
僕は張り切って、ウッドゴーレムの調査と魔改造に取り組むのだった――。
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