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リボン


 僕らの旅は、世界樹による樹結界はあるけれど、それでも険しい。

 僕は帰りたくなったらいつでも帰れるという安心感があるけど、他の人達にはそれがない。

 自分達は一体いつになったら、この砂漠行から解放されるのか。

 新たな村の村人になる皆は明らかに不安がっていた。


 けれど、その不満が爆発することはないまま、僕達の旅は結構順調に進んでいた。


 その理由は二つ。


 まず第一に、僕がフルーツを無尽蔵に生産できることで、実際に今までよりも良い暮らしができていること。


 そしてもう一つは……。


「わー父ちゃん、美味しいよおっ!」


 父であるホイールさんと母であるキャサリンさん、そして二人が好きすぎるあまりこっちまで来てしまう、子供達の存在だ。


 本当ならツリー村からここまでは結構距離があるはずなんだけど……さすがにそこは神獣の子供というべきか。

 彼らはホイールさん夫妻より一回り小さい土山をずもも……と作りながら、僕らの元へやってきては、その大きなお尻をみせながらずもも……と帰っていく。


「もぐもぐ……美味しいね~」


「ね~……」


「……(ほっこり)」


 ホイールさんの子供達が前歯を使ってガジガジとフルーツを囓っている様子を見ると、なんだか癒やされる。


 何故だか見ているだけで、日頃の鬱憤が洗い流されていく。

 僕やナージャ達も含めて、気付けば皆が笑顔になっていた。


 動物を見ていると癒やされる、という話を以前王都かどこかで聞いたことがある。

 神獣様の子供なのでちょっと恐れ多い気持ちもあるけど……でもかわいい。


 無心で果物を食べたり、とことことそこら辺を走り回っているのを見ているだけで、ほっこり気分だ。


「悔しいですが……この味を否定することは、私のプライドが許しませんわね」


 頭にリボンのついているモルモットの子は、少し悔しそうに足をバタバタさせながらフルーツを食べていた。

 この子だけ、なぜか他の子達と違ってお嬢様口調なんだよなぁ……。


 なぜだろう、彼女のことを目で追ってしまう。

 もしかしてこれが……恋?(多分違う)


 前から気になったけれど、とうとう我慢しきれなくなった。

 僕はとりあえず、声をかけてみることにする。


「ねぇ、そこの君……」


「――わわっ!? なんですの、一体っ!?」


 びくんと動き、こちらを見上げるモルモット。

 身体はふるふると震えていた。

 怖がらせちゃってごめんね。


「もしよければ、これ……食べる?」


「これ……なんですの?」


 そう言って僕が差し出したのは、植樹レベルが上がったことによって新たに植えられるようになった樹から取ったフルーツである……マンゴーだ。


「マンゴーだよ」


「マン、ゴー……?」


 そう言ってコテンと首を傾げるお嬢様モルモット。

 そもそも首が大きめなので、そのまま横向きに倒れそうになってしまう。


「――きゃっ!?」


 僕は慌てて、彼女を抱き寄せる。

 温かい……もふもふの触感は、癖になってしまいそうだった。


「ごめん、大丈夫?」


「し……失礼なっ! レディーにいきなり触れるだなんて! で、でも……感謝致しますわっ……」


 それだけ言うとお嬢様モルモットはぴょんと跳ね、少し離れたところでマンゴーを食べ始める。


「あ、おいしい……」


 その顔がほころぶのを見て、僕は奇妙な満足感に包まれていた。

 今度は名前を教えてくれると嬉しいなととりあえず納得し、周りを見てみる。

 すると……。


「あ、神獣様、よければこれ食べますかっ!?」


「ありがとー」


「神獣様、こっちの高いところにある桃の方が甘くて美味しいですよ!」


「わっ、そうだったんだね~。もぐもぐ……美味しい~」


 どうやら皆、話しかけたいとは思っていたようで。

 僕がしたのを真似て、神獣様の子供達にフルーツを与え始める人が出てき始めた。


 そこまで人を嫌っている様子もなく、ホイールさんの子供達は皆特にびくついたりもせずに皆からフルーツを受け取っている。


「モルモットの神獣様はかわいいなぁ……ウッディ、この子を家で飼おう!」


「すぴー……」


 そう言ってこちらにやってくるナージャは、既に腕の中に眠りこける神獣様を抱えていた。

 当たり前だけど……その子、神獣様だからダメだよ?

 お家の中で飼うなら、普通のモルモットにしなさい。


「ぶぅ」


「ぶーたれてもダメ」


「ぶぅぶぅ」


「豚さんになってもダメだよ」


 まあ、気持ちはわからなくもないけどね。

 ホイールさんの大家族を見てると……なんだか動物を飼いたくなってくるんだよなぁ。


「もぐもぐ……美味えじゃねぇの! このびわってやつはよ! 甘過ぎないのが、俺らくらいの神獣にはちょうどいいのよ!」


「もぐもぐ……ウッディ、この風属性バージョンも作ってほしいのである!」


「おお、それなら土属性のも頼むのよ!」


 そんな風に人と神獣様が触れ合いをしている中、ホイールさんはシムルグさんと一緒に、マンゴーと同時に植えられるようになったびわの実を食べていた。

 ……そう、本当なら聖域を守らなくちゃいけないはずのシムルグさんも、何故かホイールさんの子供達と一緒についてきてしまっているのだ。


 なんでも新しいびわとマンゴーをもっと食べたい、ということらしい。

 相変わらず自由ですね。


 そしてホイールさん、俺らくらいの神獣とは一体……?


 なんにせよ、道中の旅は問題なく進んでいる。

 とりあえず皆のストレスも発散できたし、新しい果実のお披露目もできた。


 それなら次は……今まで目を避けてきたあいつについて考えなくっちゃな。

 次の日、僕は懸念点を解決すべく、頭の中に樹木の一覧表を出すのだった――。

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