砂漠の住人
「まったく、不届き者はどこにでもいるものだな……」
そう言ってナージャは胸ぐらを掴んでいた男を、思い切り放り投げる。
意識を失った男が砂漠に埋もれ、力無く身体を砂に預けた。
その先には、死屍累々と広がっている男達の姿があった。
「今回は前より数が多いですね……ざっと数えただけで二十は超えてます」
手慣れた様子で砂賊達を縛り上げるのは、二人居る副隊長のうちの一人、『剣士』の素養を持つダンである。
今やナージャの鬼のシゴキに耐えた彼は、熟練の王国兵士に伍するだけの実力を持つ戦士に成長している。
エレメントフルーツで武装した元砂賊達も、既に盗賊の数人程度であれば単体で生け捕りにできるくらいの実力を身につけていた。
「お、おいっ、お前らも同業だろ! た、助けてくれ、命だけはっ!!」
「クックック……なぁに安心しろ、殺しゃしねぇ。お前らもすぐ目覚めることになるさ、『風樹教』の素晴らしさにな……」
「ひいいいいいいっっ!! なんだこいつ、目が完全にガンギマってやがるっ!?」
こうして襲撃を計画しているうちに逆襲撃をかけられた盗賊達は、更生施設へと連れられていくことになる。
そしてナージャという鞭とシェクリィという飴を繰り返し受けながら聖域の浄化作用をその身に浴びることで、敬虔な兵士として生まれ変わることになる。
シムルグが盗賊達の居場所を特定してくれるおかげで、ナージャ率いる討伐隊は打ち漏らすことなく、盗賊達全員を捕縛することに成功。
ツリー村を襲おうとしていた盗賊達は改心し、そのまままるっと兵士達へ生まれ変わったわけだ。
こうしてツリー村は不安要素を取り除くのと同時に、有事の際の兵数を増やしていく。
村の規模と戦闘能力は、ウッディが思っている以上に急速に伸びていくのだった。
ただ、砂漠地帯に広がる噂は南部を越えて更に北へ北へと伝わっていく。
そしてツリー村の情報は、とある者達の耳に届くこととなる――。
砂漠地帯の中でも、ツリー村より更に北へ進んだところにある名もなき砂丘群。
長い年月をかけて堆積を続けたいくつもの砂丘は連なり、丘陵地帯を形成している。
そんな砂の中に、二つの影がある。
凍えるように寒い砂漠の夜の中で、二人は遠くを見つめていた。
左の女は、まるでその先にあるものの真贋を見極めようとするかのように、その瞳は鋭く、そして険しい。
「ふむ……ミリアちゃんはどう思う?」
「……あの話か。にわかには信じがたいな。砂漠の中に、水や果物が無限に湧き出してくる楽園があるなどと……まさかお前は信じているのか、ルル?」
「事実だったら面白いと思わない?」
右にいる女は、その先にある金銀財宝を夢見るトレジャーハンターのように、キラキラと目を輝かせている。
「面白い、か……」
「うん、私達の暮らしにはさ、夢も希望もないじゃない。そんな日々の生活の中で降って湧いてきたような今回の話……真偽を確かめるくらいのことはしてもいいんじゃない?」
ぶわっとつむじ風が吹く。
風に煽られて、二人の被っているフードが取れた。
現れたのは――褐色の肌と、ピンと張っている長い耳。
「たしかにな……ここ最近、魔力の流れは明らかにおかしくなっている。それが真実であるにせよ、そうでないにせよ、何かが起きているのはたしか。それなら……一度行ってみるか、その楽園へ」
「さっすがミリアちゃん、話がわかるぅ!」
「ちゃん付けはやめろ、私はもう今年で八十六だ」
「うちらの中じゃあまだまだピチピチだって!」
未だ二十代にしか見えぬ二人の褐色の美女は、笑いながら歩き出す。
彼らはダークエルフ――世界樹を守るエルフの里を追放された、黒のエルフ。
呪いをかけられ砂漠で生きることを余儀なくされた――日陰の住人である。
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