上戸
「というわけで今の手順で作り、半月寝かしたものがあちらにありますので、向かいましょう」
やりがいとか楽しみみたいなものを見出す前に終わってしまったワイン造り体験。
肩すかしを食らって落ち込んでいると、キープさんが歩き出す。
こちらの様子におかまいなしな感じが、ちょっと職人っぽい。
少しだけテンションが上がった僕は、気を取り直してついていくことにした。
そして並んでいる樽のうちの一つの前で立ち止まる。
読んでみるとたしかに、半月前の日にちが記されていた。
「こいつを少し飲んでみましょう」
そう言うとキープさんは樽を少しだけ開き、おたまのような何かで器用にワインを掬って見せる。
普通のブドウを使っているから、その色は僕が知っているワインそのものだ。
ただよく見ると、中に何か滓のようなものが入っている。
「では遠慮なく」
アイラがどこからともなく取り出した小さなコップの中にワインを入れてもらう。
最初はペロリと舐めるように飲んでみる。
「うん、苦い……でも僕が知ってるワインよりは甘めかな?」
「ですね、いわゆるデザートワイン的な飲み口です」
「――そう、その通りなのですッ!」
僕らの適当な味の品評会をしていると、キープさんが鼻息を荒くしている。
どうやらかなり興奮してるみたいだ。
「飲み口は色々とありますが、これほどまでに甘いワインには出会ったことがありません。そして度数の低い甘口ワインでろうと、通常ワインの醸造には、最低でも二年近い時間がかかります。だというのにこれは半月ほど待つだけで作れてしまうのです!」
「ふむふむ、つまり……かなり珍しいし、量産もできるってこと?」
「その通りです。珍しく、かつできるまでも他のワインの何倍も早いということですな」
「なんと、良いこと尽くめじゃないですか!」
きゃっきゃっと子供みたいに笑うアイラは既におかわりを頼んでいた。
顔がかなり赤くなっている。
アイラもそこまでお酒に強いわけではないからなんとも言えないけど……この様子を見ている感じ、どうやら度数もそこそこ高いみたいだ。
「ちなみにこの酵母を入れて急速で作ると半月で、何も入れずに作った場合は一ヶ月で作れます」
「そのコウボってやつは、量が確保できるものなのかな?」
「できますが、酵母菌を入れると度数が上がる代わりに味が落ちます。ちなみにこちらが一ヶ月、自然発酵させたワインです」
別の樽から、一ヶ月で造ったワインを出してもらう。
再度コップに入れて、ペロッと舐めてみる(ちなみに僕のさっきの余りは、既にアイラのお腹の中だ)。
「うん、美味しい……これなら僕でも飲めそうかも」
「あまみがつよいですね……ごくごく」
「ほどほどにしときなよ?」
「しいんでベロベロになるほどやわではありません……おかわりっ!」
ベロベロになっているアイラのこれ以上の飲酒にストップをかけながら、僕もワインをしっかりとテイスティングしてみる。
喉にするりと通って、あの度数の高いお酒特有の喉のあたりでカッとなる感覚もない。
若い子……というかワインの美味しさがわからない僕でも飲みやすいと感じる、かなり甘味の強いワインだ。
度数もそこまで高くない。
というか、さっきのコウボを使ってるやつよりも低いんじゃないかな。
甘いワインか度数が高いワイン、どっちも造れるみたいだ。
今はまだ赤だけだけど、そう遠くないうちに白ワインも造れると、キープさんが自分の胸を叩く。
「でもどうして普通よりも早くお酒ができるんだろう……?」
「さぁ……ただここまで醸成速度が早いなどという話は余所では聞いたことがありませんので、やはりブドウ自体に何かあるのだと思います」
「つまるところ、ウッディさまはすごいということなのです!!」
「はいはい」
「すごいということなのです!」
「大事なことでも、二回も言わなくて大丈夫だから」
僕が植えた樹で造ると、どうやら普通よりも早くお酒ができるみたい。
まだわかっていないだけで、他にも違いがあったりするのかな。
なんにせよ、通常の何倍もの速度でお酒が造れるっていうんならありがたい話だ。
どっちの方が売り物になるかとかをしっかりランさん達と話し合ってから、本格的な交易品にしていけたらと思う。
ただそんなことよりまずは……。
「ウッディさま……グスッ、アイラはじあわぜものでず~~!!」
ベロベロになって泣き出したアイラをなんとかして、家まで連れて行かなくちゃ。
というかアイラ、君って泣き上戸だったんだね……。
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