ワイン
「ウッディ様、ようこそおいでくださいました」
僕を出迎えてくれたのは今酒造に挑戦してもらっているキープさん。
御年六十歳になったけれど矍鑠としている、元気なおじいちゃんだ。
「ワイン造りの調子はどうですか?」
「はあ、それがどうもおかしな感じでして……一度見てもらった方が早いと思いましてな」
何やらもごもごと言い辛そうにするキープさん。
とりあえずついていって、見てみることにした。
蔵の中に案内されると、大きな樽がずらっと並んでいた。
すごい……これが全部ワインなのか。
中にあるものをなんかは取っ払って、なるべく広く空間を確保しているみたいだ。
「これが今のワイン樽の酒蔵です。イリアとホッブ……することもなかった鍛冶見習いと木工職人の徒弟を使って作らせております」
「へぇ、結構立派にできてるような気がしますが」
「板付が少し甘いね」
「はぁ、その通りです。あいつらもまだまだ……っと、今は愚痴をこぼしてる場合じゃありませんでしたな」
そもそも酒の造り方は知ってますかね、とキープさん。
もちろん僕とアイラは、二人揃って首を振った。
僕らが酒造りに関して知ってることなんて、その酒の原材料くらいなものだ。
つまりぶっちゃければ――何も知らないってことだね!
「では一度、簡単に作り方を教えましょう。あ、そうだ、もしよければウッディ様も体験されてみますか? それほど時間はかかりませんので」
そういってキープさんは指を立てる。
自分がしてきたことを他人に話せる機会だからか、かなりウキウキしているようだった。
うん、それなら……やらせてもらおうかな。
個人的に、気になってることもあるしね。
「まず最初にブドウを用意します」
「ふむふむ。あ、アイラはこれ使って」
「ありがとうございます、ウッディ様……ハッ!? これは――ウォーターマスカット!?」
「その通り」
僕が取り出したのは、ウィンドマスカットとウォーターマスカット。
今後のことを考えてエレメントマスカットでワインができないかなぁと考えていたので、今回試してみることにしよう。
そうそう、そう言えば収穫袋にはまだ隠された力があることがわかったんだよね。
収穫袋からエレメントフルーツを取り出す時に、とある表示が出たから気付けたんだけど。
僕は自分のウィンドマスカットを出して、そのメッセージを出してみる。
【ウィンドマスカットから魔力を抽出しますか? はい/いいえ】
そう、なんと――一度収穫袋の中に入れた果実を再度出す時に、フルーツから魔力が取り出せることが発覚したのだ!
これでエレメントフルーツが何日も外で保存しなくちゃいけないという問題が解決したのだ。
まあ持ち運びに難があるというところは変わらないんだけれども。
ちなみに取り出された魔力がどこに消えているのかは、まったくわからない。
きっと素養の機能の維持なんかに使われてるんだろう……多分。
「ふむ、マスカットですか……バリエーションも出るのでたしかに試す価値はありますな。ではまずは、ブドウを潰していきます。こちらに桶がありますので、ここで思いっきり潰してしまって下さい」
「え、皮むきしないんですか? 私もう剥いちゃってましたが、もぐもぐ……あ痛ぁっ!?」
ワイン造りだと言ってるのに既につまみ食いをしていたアイラの頭をポカリと叩く。
折角ワイン作るんだから、食べちゃダメでしょ!
「とりあえず、言われた通りにやってみようか」
桶の中に何房もブドウを入れて、潰していく。
言われた通りに皮ごと潰そうとしたんだけど、途中で手に固い異物が当たる。
「固っ……え、この茎もこのままなんですか?」
「はい、皮と茎がいわゆるワインの苦みの部分になりますので」
だったら皮も茎も取って甘いワインを作ればいいと思うんだけど、そうするとワインとしての深みがなくなるらしい。
深みが必要なのかなぁとは思わなくもないが、プロの言うことだから間違いはないんだろう。
言われた通り、ウィンドマスカットを茎ごと混ぜていく。
果皮と果実が混ざり合って、ドンドングロテスクな見た目になった。
更にその上からゴリゴリと茎も潰していく。
茎の緑色も交じり、最終的には果皮の色素も合わさって緑色の謎の液体と固体の混合物がが出来上がった。
見た目はかなりグロい。
見たことはないけど、ゴブリンの体液とか多分こんな感じだろうと思う。
けれど匂いだけはめちゃくちゃブドウだ。
「後はこれに、この粉を足していきますぞ」
「これは何?」
「お酒造りの素、みたいなものですな。酒を造るために必要な菌が入っております」
一つの果物をまるごと潰した果汁・果皮・茎100%の液体を、小さな容器に移し替えていく。
キープさんはその上に謎の酒造りに必須アイテムらしい粉をパッパッとふりかけ、軽くかき混ぜた。
そして……うんと大きく頷く。
……え?
これだけでいいの?
「あとはしばらく放置しておけば完成です」
「えぇ……」
「ちなみに、放置すればするほど度数が上がります」
「えぇ……」
こうして僕の初ワイン造りは楽しさを感じる間もなく、あっという間に終わったのだった……。
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