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 シェクリィさんとジンガさんが力を合わせてくれれば、なんとかやっていけるはずだ。

 そんな漠然とした僕の予想は見事に的中してくれた。


 どんな時も物腰柔らかで、最近は『あれ、この人って元から牧師だったっけ?』と錯覚してしまうシェクリィさん。


 そしてたとえ見知らぬ土地へやって来ても、杯を抱えて酒を酌み交わせば誰とでも仲良くなれてしまうジンガさん。


 どうやら元からの知り合いだったらしい二人が協力してことにあたることで、ジンガさんの村の人達もツリー村の人達にずいぶんと慣れてきた。


 村も八十人近い大所帯になってきたけれど、これくらいなら更に果樹園を増設しなくても、今ある果樹だけでも十分足りる。

 それなのにポイントは前より増えるようになったので、今では一日に100ポイント以上がコンスタントに溜まるようになっていた。


 エレメントフルーツの試作や検証も一通り終わったので、ナージャ達に支給する分は賄えるようになったし。


 というわけでようやく、僕の生活にもちょっとだけどゆとりができた。


 なので僕は同じく魔法使いへの指導が終わり暇になっているアイラと一緒に、村を回ることにしたのだった。




「るんるんっ」


「アイラ、ずいぶんとご機嫌だね」


「久しぶりにウッディ様と二人で出掛けられるのが嬉しいんです」


「どうしたのさ、そんなかわいいこと言って」


「――か、かわっ!?」


 アイラをからかったり、時に逆襲されてからかわれたりを繰り返しながら、村の様子を見回る。


 聖域の範囲内であれば砂が入ってくることもないため、既に村人の皆も外套を脱ぎ、普通の私服を着ている。

 麻の服を着ているその姿は、どこからどう見ても普通の村人だ。


「そういえばワイン造りのための蔵を作ったんだよね。エール作りは砂燕麦の安定供給ができないから不安定だけど、ワインならブドウを使っていくらでも試せるし」


「へぇ、ワインですか。数えるほどしか飲んだことないんですよねぇ……」


 ワインはブドウ生産がさほど盛んでなかった王国では、結構な高級品だ。

 もちろん父さんや母さんはわりと普通に飲んでいたけれど、僕は未成人だったから一度も飲んだことはない。


 以前誰かにその味を聞いた時、苦いブドウジュースだと言われたのを覚えている。

 苦いならブドウジュースを飲めばいいのに、と言うと苦笑いされた記憶がある。


 どうやらツリー村の中に以前酒造店で徒弟をしていた人がいるらしく、僕はその要請に応えて酒蔵兼酒造となる場所を彼に提供していた。


 ブドウがなくて作れないという本末転倒が起こらないよう、周囲にブドウの樹を何本か植えてあげたんだよね。

 そういえば進捗確認せず、放置したままだった。


 一応様子を見に行ってもいいかも。

 折角暇なんだし、今から行こうか。



 聞いてみたけど、アイラも構わないと言ってくれる。


「ジンガ村長がよく持ってるのを見かけるあれは、エールなんでしたっけ?」


「うん、砂燕麦を使ってるから、味は僕らが知ってるエールの何分の一かってことらしいよ。苦みとえぐみが強くて控えめに言ってクソマズって、ジンガさんが言ってたよ」


「よ、よくそんなものをガバガバ飲めますねあの人は……」


 僕は、実はあまりお酒を飲んだことがない。

 本来パーティーに出席してたら浴びるように飲んでたんだろうけど、『植樹』が発覚しちゃったせいでそんなものとは縁がなかったしね……。

 しっかりお酒を飲んだ回数は多分片手で数えられるくらい少ないと思う。


 それだってフルーツパーティーをした時にジンガさんからもらったお酒とか、生水だと腹を下すからと飲んだエール水もカウントしての話だし。


「ナージャは結構飲めるみたいだけどね」


「成人してから三年経ってますし、『剣聖』も持ってますから、社交界なんかに顔を出す機会も多かったんでしょうね」


 ジンガさんに薦められるがまま酒を飲んだナージャは、結構酔っ払っていた。

 言ったら怒られるから言わないけど、あの時のナージャは口から物凄い酔っ払いの匂いがした。


 僕は今のところあまりお酒が得意ではないけれど、お酒の力というものはよく理解しているつもりだ。


 父さんを見ていてもわかったけれど、ワインというのは貴族のような上流階級の人間にとって、非常に意味を持ってくる。


 そしてジンガさんを見ればわかるように、普通の人達の間でもコミュニケーションツールとしても使うことができる。


 アルコールというのは、人と人を繋ぐ潤滑油なのだ。

 そして同時に、ストレス発散をしてまた明日も頑張ろうと思うための燃料でもある。


 周囲を過酷な環境に囲まれ、余所との交流もさほど活発じゃないこの村では娯楽が少ない。 できればお酒が造れるようになって、皆がもっと楽しく毎日を過ごせるようになったらいいな。


 そんなことを考えながら、僕はアイラと手を繋いで酒蔵へと向かうのだった……。

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