新たな村
「なるほど……」
その村の規模は、僕が来るまでのツリー村より幾分か大きい。
周囲にぐるりと砂壁があるのも一緒。
中にいる人達の様子も、さほど変わらなかった。
違いと言えば比較的大きな井戸があって、水不足ではなさそうなところぐらいだろうか。
「おおランさん、ようこそいらっしゃいました!」
「お久しぶりです、ジンガ村長」
中に入ると、壮年の男性が案内をしてくれた。
どうやら彼がこの村の村長のようだ。
シェクリィさんより少し恰幅がいい感じで、頭頂部がキラリと光っている。
「何もないところですが、どうかおくつろぎください……おや? して、お連れの方々は……?」
「この村の救世主……になるかもしれない方、ですわ」
ランさんはそう言って、商売人特有の人好きのする笑みを見せる。
僕はなるべく不審に思われたりしないように気を付けながら、挨拶させてもらうことにした。
「どうも、はじめまして。僕の名前はウッディ、隣のツリー村の領主をさせてもらっています」
「――おおっ、ツリー村の! 私はこの村で村長をさせてもらっておりますジンガと申します。いやぁ、しかしあそこのドライフルーツは絶品ですなぁ! 一度食べてからというもの、家内も娘も完全に虜になってしまいまして。ランさんはまだか、ランさんはまだかと催促が止まず、ほとほと困っていたところです」
どうやらツリー村の名前を知っているみたいだ。
知名度が上がっているようで、自分のことをほめられたかのように嬉しい。
でも残念、今日はドライフルーツは持ってきていないのだ。
けど安心してほしい。
きっとそれよりも虜になると思うもぎたてフルーツを、いっぱい持ってきてるからさ。
ドサドサドサッ!
僕はとりあえず、収穫袋からリンゴに柿、桃にブドウとフルーツを出してみた。
ジンガ村長は完全に言葉を失い、固まっている。
彼に向けて笑いかけながら、
「もしよければ……お一つ、いかがですか?」
もちろんドライフルーツを食べたことのある村長がこの誘いを断れるはずもなく。
隣の村に、新たなフルーツ中毒者が生まれたのだった。
「――こっ、これを家内や娘達に食べさせてもよろしいでしょうか!?」
「もちろんです、フルーツはたくさん在りますから、どうぞ気兼ねなく」
「しょ、少々お待ちを!」
ジンガさんは一体身体のどこからそんな力が出るんだろうと思ってしまうほどの速度で脱兎の如く家に入ったかと思うと、妻と娘を呼んできた。
「ちょっとあなた、どうしたのよ」
「お父さん、急に何を……」
「――食べろっ! いいから食べるんだ! 食べればわかるっ!」
家庭内暴力ならぬ、家庭内フルーツハラスメントが繰り広げられている光景に思わず苦い笑みがこぼれる。
目がギンギンになっているジンガ村長は、家族を悪の道に誘おうとしているダメなパパのようだった。
「というかあれは、ダメな父親そのものなのでは……?」
「その通り、僕らはこれからジンガさん達を引きずり落とすのさ、フルーツの沼にね……」
くっくっくっと悪人面する僕を見たアイラが、白けた顔をしている。
その横でランさんは、ジンガ村長と僕に視線を行き来させながら、
「どうしてウッディ様は、あんな偽悪的な態度を取っているの……?」
「……さぁ? なんとなく悪人ぶりたいお年頃なんじゃないですか?」
今後のことを考えると、ジンガさん達にうちのフルーツを気に入ってもらうのは何より大切だからね。
彼らをフルーツ漬けにして、後戻りできなくさせてやるのさ。
このフルーツは完全に合法だから、何も問題はない。
クックックッ……。
「……疲れたから平常運転に戻そっと」
悪人フェイスと悪人メンタルを維持するのに疲れた僕は、とりあえず近くにある柿を手に取って食べることにした。
熟れた柿の皮はかなり柔らかくなっていて、皮ごと食べることができる。
僕は固い柿も好きだけど、剥かなくていい分こっちの方が手軽に食べられて楽だ。
僕らがふざけている間に、ジンガ一家もフルーツを手に取っていた。
そしてパクリと一口。
「「「おいしいいいいいいいいいいいいいっっっ!!」」」
と三重奏を奏で、ジンガ村長一家は完全に我がツリー村のフルーツの虜となるのだった――。
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