やりすぎ
「俺が時間を稼ぐ! お前らは手はず通りに!」
「「はいっ!」」
「こっちだ、豚野郎!」
カディンがドスドスと足音を鳴らしながら前に出る。
どうやらサンドボアーを挑発するつもりのようだ。
「ぶうううううっっ!」
サンドボアーは見事に釣られ、興奮状態でカディンの方へ駆けていく。
うわぁ、すごい速度だ。
真正面からぶつかったら一発で挽き肉になっちゃいそう。
「ミンチになっても頑張って愛しますから」
「それならまず、ミンチにならないように頑張ってみてほしいかな」
カディンはポケットに手を入れ、何かを出した。
あれは……ファイアマロン?
「爆発がコントロールできるようになったんでしょうか」
どうやらアイラの言っている通りらしい。
カディンは手に持ったファイアマロンを地面に投げる。
ちなみにいがは取ってあるので、実だけの状態だ。
投擲したのは自分とサンドボアーをつなぐ一直線上のルート。
真っ直ぐにやってきたサンドボアーは、ファイアマロンを思いっきり踏んだ。
ドオオオンッ!
爆発音がしたかと思うと、サンドボアーがひっくり返っていた。
カディンはそのまま、剣で目玉を突き刺した。
「プギイイイイッッ!」
サンドボアーの外皮は、剣では貫けないくらい硬いと聞いている。
どうやらカディン達も剣で倒そうとはしていないようだ。
前衛が倒れているサンドボアーに追い打ちをかけている間に、後ろにいる二人はリュックから何かを取り出し、準備を始めていた。
「あれは……ウィンドマスカットのつるでしょうか?」
「だね……でも魔法が出てないから、あれだとただの切れないロープになると思うけど……って、あれ?」
一つおかしなことに気付いた。
さっきカディン、ファイアマロンを普通に投げてたよね?
ってことはあれは時間をかけて魔法効果を抜いた実ってことだよね。
それなのにどうして爆発したんだろう?
「お頭、できました!」
「お頭はやめろって……言ってんだろうが!」
カディンはひらりと身を翻し、ファイアマスカットを投げる。
燃えるブドウがヒットし、サンドボアーの頭にたんこぶができる。
「ぶひいいいいっっ!」
どうやら完全に頭に血が上っているようだ。
サンドボアーは完全にカディンをターゲットに固定して、狂ったように進み始める。
「鬼さんこちら……っと!」
カディンが向かう先にあるのは、つるを使った簡易的な罠だ。
岩と岩の間にピンとつるが伸びている。
転ばせるつもりのようで、伸びているのはサンドボアーの足下のあたりになっていた。
カディンは駆け、跳躍。
ウィンドマスカットの蔓を飛び越えて兵士達の方へ。
「やれっ!」
「「はいっ!」」
かけ声と同時に、二人の兵士達が腰から何かを取り出した。
あれは……枝、だろうか?
二人がそれで蔓を軽く叩いた。
すると――先ほどまで何も出ていなかったつるから、風が出はじめた。
サンドボアーが突進してくる。
「ぷぎ……ぷぎいいいいいっっ!?」
そして見事なほど簡単に罠に引っかかり、サンドボアーが思いっきりスッ転んだ。
見れば足には風の刃で傷がついている。
三人はその隙を見逃さず、何かを取り出す。
あれは――ファイアムルベリー?
炎を帯びた桑の実を、三人がサンドボアーの顔面に叩き込む。
ドドドドドッ!
桑の実散弾がサンドボアーの顔をズタズタにした。
「ぷぎぃ……」
そして元気をなくしたサンドボアーに対して斬りかかり……三人は無事、無傷でサンドボアーを倒してしまった。
タタタタタッと、飼い主が投げたフリスビーを取ってきた犬のような顔でこちらに近付いてくるナージャ。
彼女は僕に誉めてほしそうな顔をしながら、笑った。
「どうだウッディ! 私、頑張ったぞ!」
「う、うん、そうだね、あはは……」
僕はそんな彼女に対して、乾いた笑いを返すことしかできなかった。
ナージャ……ちょっとやりすぎだよ……。
こんなのもう、特殊部隊じゃないか……。
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