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そんなことない


「でも三日火が点くくらいじゃ、あんまり使えないよねぇ……」


「そんなことない! 絶対にそんなことないぞ!」


 力説しながら、グッと拳を握るナージャ。


 そ、そうかな?

 僕としてはただ火がずっと点いてるだけだから、あんまり価値がないと思ってるんだけど……。


「ほら見ろ、昼間の今でも十分光がわかるくらいにこのファイアマスカットは明るい! こいつは夜になれば、十分光源として使えるんだ!」


「……うん、たしかに。今はライトツリーの枝を使ってるけど、この村の外に出て行けば灯りはすぐに消えちゃう。だとすると三日点きっぱなしっていうのはかなりありがたいかも」


 僕らの村には、昼に太陽光を浴びせておけば夜になれば光ってくれるライトツリーがあるから、灯りには困らない。


 けれどこれは魔力が満ちている聖域だからできることなのだと、シムルグさんは言っていた。

 説明を聞いてもよくわからなかったけど、ライトツリーは魔力とヨウリョクソを使った魔力コウゴウセーだかなんだかをしているから、この聖域内であれば光が点くって話だった。


 でもファイアマスカットは一度魔力を込めることができれば、三日くらいは点きっぱなしだ。

 これを入れる耐熱容器さえあれば、しばらくの間火種としても光源としても使える。


「冬場の行軍は地獄だ。冷たい火打ち石を、かじかんだ手で何度も打ち合わせるのもしんどいし、そこから火をおこすのもかなりの手間になる。だがこのファイアマスカットがあれば、そう言った手順をまるっと省略できる。これはすごいことだと思うぞ!」


 ナージャは僕より三つ年上の十八歳。

 トリスタン家もコンラート家に負けず劣らず戦ってばかりいる国だ。

 『剣聖』の素養を持つ彼女は、この三年間で幾度も戦場を駆けていたんだろう。

 その経験があるからこそ、このファイアマスカットの価値に気付いたらしい。


 たしかに僕は自分で言うのもなんだけど、そういうことを自分の手でやったことがあんまりない。

 火打ち石を使ったのも、さっきランさんに見せる時ぐらいな気がするし。


 貴族社会で育ってきたせいか、そういった普通のことをあまり知らないのである。

 でも、そうか。

 ナージャなら知ってることもずっと多いはず。


 一人で悩んだりせず、もっと早く彼女に頼るべきだったかも。

 誰にも見せないようにしなくちゃって意識が働きすぎて、いつも狩りに出ているナージャと話をするのがかなり遅れてしまった。


 そもそもナージャは僕の婚約者だし、アイラには見せてたんだから今更って話だよ。


 そうだよ、そうだ。

 何も全部を一人でやる必要なんかないんだ。

 そんな当たり前のことにも気付かないなんて……僕は大馬鹿者だ。


 ポカリと自分の頭を叩く。

 そしてジンジン痛む頭をさすりながら、右手を差し出した。


「ナージャ、もしよければ一緒にエレメントフルーツの使い方を考えてほしいな」


「ああ、任せておけっ!」

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