最近
「ふう……なんとかなってよかったぁ」
「お疲れ様です、ウッディ様……どうぞ」
「うん、ありがと」
僕はランさん達との交渉が終わってから、家でゆっくりとくつろいでいた。
アイラに入れてもらうのは、ここ最近よく飲むようになっているフルーツティーだ。
ドライフルーツを一つ入れ、それを紅茶に入れて待つ。
すると乾燥することで更に濃縮されたフルーツの強烈な甘みが紅茶の中に溶けていく。
まともに砂糖もないこのツリー村では、貴重な甘みなのだ。
僕は苦い紅茶はあまり得意ではないから、これを知った時には震えたね。
「交易品は事前に話をしていた通り、ドライフルーツになったんですか?」
「うんやっぱり当面はドライフルーツ……あと水だね。この二つを卸してもらいながら、販路を広げてもらうつもりだよ」
あの初顔合わせが終わってから、僕はランさんと余人を交えず二人で話し合いをした。
話は僕の素養にも関わってくる話だし、あんまり生々しい話を皆の前でしたくはないからね。
とりあえず今のツリー村に、余所で売れると断言できるはフルーツと豊富な水資源くらいしかないそうだ。
やっぱり今までは、かなり無理をしてランさんが損をするくらいのレートで取引をしていたんだって。
なので今回はその補填ではないけれど、かなり安い値段で品物を卸すことにした。
なるべく安い値段で売ってもらって、ツリー村の名前を余所に売るための宣伝も兼ねてね。
元手は驚きのゼロだから、別に安く売っても黒字にはなるし。
「ただ、水はあんまり遠くには運べないってさ」
「まあ、あんまり時間が経てば腐ってしまいますからね」
「そうそう。あくまでも腐らない範囲までにしか売れないから、近隣の七つの村で売るのが精一杯みたい。あんまり期待はしないでって言われちゃった」
「……近くに村がそんなにあるんですか? シェクリィさんの話では四つという話でしたが」
「うん、シェクリィさんが把握してない新しい村なんだって。どうやら王国を逃れてやってきた難民なんかが、新しく作ったみたい」
砂漠地帯を歩き回って商売をしているだけのことはあり、ランさんはかなりの情報通だった。
ずっと砂漠で暮らしてきたシェクリィさんなんかが知らないような情報をいくつも持っている。
もちろん僕に教えてくれたもので全部ではないだろうし……彼女が味方についてくれるとかなり心強そうだ。
どうやら王国……というか僕の父さんが収めるコンラート公爵家は相変わらず戦争を続けているようで、領民は重税に喘いで苦しんでいるという。
そのせいでまともに暮らせず、死ぬのも覚悟で公爵家を飛び出し領外の砂漠で暮らしているという人達が最近増えているんだって。
たしかに砂燕麦なんかや魔物の肉なんかがあれば暮らせるかもしれないけれど……そうか、必死の覚悟で出て行きたいと思うくらい、コンラート公爵領の統治はひどいのか。
「ウッディ様……」
気が付けば僕は、アイラに抱きしめられていた。
その柔らかい感触を全身で感じていると、なんていうんだろう、すごく安心する。
アイラのことを、キュッと軽く抱きしめ返す。
ひゃうんっとかわいい声を出すアイラに笑いかけ、立ち上がった。
「まずツリー村がある程度なんとかなったら、次は他の村もなんとかしていこう。こっちに来てもらうのか、援助するかはわからないけど……それが次の目標だね」
「そ……それでこそウッディ様です! このアイラ、一生ついていきます!」
恥ずかしさを誤魔化すためか、ものすごい大きな声を出すアイラ。
何かに没頭したいのか、紅茶のおかわりを入れ始めた。
……この砂漠で一番大切なのは助け合いだと、シェクリィさん達は言っていた。
だったら僕は、この素養を使って皆を助けよう。
そうしたらきっと、僕が本当に困った時……彼らも僕のことを助けてくれるんじゃないかな。
――さて、ランさん経由で物を売れることができるようになったから、次は売ることを考えてドライフルーツを本格的に作っていかなくちゃ。
ある程度商路ができたらランさんが砂糖を仕入れてくれるってことだったし……それが叶ったら煮詰めてジャムにしたり、フルーツを混ぜた焼き菓子なんかも作れるようになるな。
それらを食べて興奮した人達が、ツリー村に入村希望としてやってきたり……ふふっ、夢が広がるな。
まだまだやることはいっぱいで、休む暇なんか全然ない。
けれど、どうしてだろう。
ここ最近はなんだかすごく、毎日が充実してるんだ――。
これにて第三章が終了となります。
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