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何の変哲もない少年


「な、なるほどね……」


 ランはひとしきり説明を受け、半信半疑ながらも一応納得した。


 この木々は全部素養で生まれたものであり、その素養を使ってこの村の食糧事情は劇的に改善。

 砂賊達を改心させることにも成功し、今では彼らはダンやメグ達の手足のように働く兵士になってくれている……。


 盗賊……いや、かつて盗賊だった兵士達の姿を見る。

 ――姿は完全に賊そのものだが、たしかにその目は濁ってはいなかった。

 というよりむしろ、彼らの瞳は清らかに澄んでいた。


「お前達は……もう盗みとかをするつもりはないのかよ?」


「まさか! そんなことをするはずがありません! 俺達は生まれ変わり、そして世界の真理を知ったのです!」


「お、おう、そうか……」


 元盗賊の勢いに気圧され、頷くしかないヴァル。

 何やら事情があるようだが、どうやら改心したというのは本当らしい。


「それに、フルーツか……」


 ランを含めた四人が、手元を見つめる。

 そこにはダンがよければどうぞと言って手渡してきた桃とリンゴが握られていた。

 どうやらこれは、あの木々から採集したフルーツということらしい。


「おらの故郷にも桃は生っとっただ! おらがこの桃、品定めするだよ!」


 ガルダはそう言うと、手に持っている桃を食べ始めた。

 そして……。


「う……うんまああああああああああっっ! なんだべこれ、こんな桃今まで一度も食ったことねぇだ!」


 貪るように桃を食べ始めたガルダを見ると、流石に興味も湧いてくる。

 そして皆も一口かじり……。


「「「う……うんんまあああああああぁぁっっ!」」」


 その美味しさに魅了されるのだった――。





「――はっ!?」


 ダンや元盗賊達に手渡されるまま果物を食べているうちに、ランはようやく自分を取り戻した。

 この果物……美味しい、美味しすぎる。


 ランが一番気に入ったのは桃だった。


 そのみずみずしさ、中に詰まっている蜜、とろ~りとした食感。


 ガルダの言っている通り、今まで自分が食べてきたフルーツはなんだったんだと思うくらいに美味しい。

 ヤバい成分が入っているんじゃないかと思ってしまうほどにヤバい。


「これは……ヤバいわね」


 そのあまりの美味さに語彙力を失ったラン。

 『白銀の翼』の面々も、黙って彼女に首肯した。

 そしてまた、フルーツを食べ始めた。

 黙々ともぐもぐタイムが続く。


 目の前にあるフルーツに完全に熱中していたランは、かなり近付かれてからようやく、目の前に見知らぬ人物がいることに気付く。


「どうも、初めまして。ここの領主をやらせてもらっているウッディと申します」


 ウッディ、この村の領主になったという少年だ。

 ランは冷静に目の前の少年を観察することにした。

 ……果汁がじゅわりとあふれ出す果肉を噛み締めながら。


 一見すると何の変哲もない少年だ。

 だがその所作には、どことなく洗練された感じがある。

 以前ランが関わらざるを得なくなってしまった、貴族の持つ優雅さが感じられる。


(せっかく貴族と関わらずに済むからって砂漠まで来てるっていうのに……結局ここにも、魔手は侵食してくるのね)


 恐らくは王国の連中が、開拓に適した素養持ちでも選定し、砂漠地帯を征服してしまうつもりなのだろう。

 であれば深入りはせずにさっさと去るのが吉だ。

 権力の魔手が伸びていない場所は、何もここだけではないのだから。


 内心でそんなことを考えているとはおくびにも出さず、ランはにこやかな笑みを作る。


「どうも、私は商人のランと申します。以前はこの村に色々と品を卸しておりました……が、どうやら今後は必要なさそうですね。私達はおいとまさせていただこうと思います」


「ちょ、ちょっと待って下さい!」


 今にもこの村を去ろうとするランに慌てたのはウッディの方である。

 このままでは折角考えていた交易ができぬまま終わってしまう。


 彼は恐らく何か勘違いをしているのだろうランに対して、誠心誠意自分の思いの丈を伝えた。

 この果物やその関連製品を交易品の端緒として、なんとかこの村を発展させていきたいのだと。


 少なくともその言葉に嘘はないと、真摯なウッディの態度を見てランは信じることができた。

 ウッディの疑惑が完全に晴れたわけではないが、村人や砂漠で暮らす人々達を食い物にしようという悪意は感じない。


(商売は信義から始まるわ。それならまずは……私が彼を信じなくちゃね。それで裏切られたら……まあ、その時に改めて見切りをつければいいかな)


 ウッディとランは握手を交わす。


「僕はこのツリー村の皆と、それに関わる全ての方を幸せにするつもりです。ですので是非、今後とも末永くよろしくお願いします」


「ええ、こちらこそよろしくお願い致します。金品を手に取った皆が幸せになることが商人の本懐ですからね、ウッディ様と同じ道を歩んでいけたらと思いますよ」


 甘い、とその考えを一蹴することは簡単だ。

 けれどランは、そうはしなかった。


 他人の夢を笑う人間は最低だ。

 子供の頃から長いこと笑われながらも夢を唱え続けたランは、実際に夢を叶えた。

 ウッディの目標を大言壮語と笑うかつての自分の周りの人間のようには、なりたくなかったのだ。


 こうしてツリー村には、定期的に商人のランがやってくることになった。

 交易路が手に入ったことでようやく、ウッディはツリー村印のフルーツを卸すことができるようになったのである――。


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