あはは
「めるめる……」
「どうどう、落ちついてチャッピー」
呆けていたランは、自分の愛ラクダであるチャッピーが恐怖で足を竦ませていたのでまずは落ち着かせることにした。
人間自分より動揺しているものを見ると、逆に冷静になれるものだ。
チャッピーがいつものように眠そうな顔に戻った時には、ランの方は落ち着きを取り戻していた。
「穴を掘ってるうちにオアシスができた……ってことかしら? たしかに珍しいことじゃないけど……砂漠の中であそこまで緑が生い茂ってるのは物凄い違和感ね……」
この砂漠において、今まであった水源が涸れたり、何もなかったところから突如オアシスに変わること自体は、そこまでおかしなことではない。
ラン自身、何度かそういった光景を目にしたことがあるからだ。
(けれどこれは……異常という他ないわ)
だがオアシスというものは急激にできるものではない。
水がにじみ出て、徐々に砂が削がれていき、小さな水たまりが時間をかけて大きくなっていき、小さな芽が顔を出すようになる。
そしてある程度の年月をかけて成長していくのだ。
けれど今目の前に広がる村では、その至る所に既に人の体躯などよりずっと大きな樹が生えている。
それも一本や二本どころの話ではない。
数十、数百という木々が列をなして立ち並んでいる。
何十年という時間をかけなければおかしいほどに、立派な樹ばかりだった。
「あ、姉御ッ! どうしますか!?」
「びびってるんじゃないよ、あんたらそれでも冒険者か! とりあえず進むよ……何が起こってるのか、この目で確かめなくっちゃ」
ランはチャッピーを置いて、『白銀の翼』を引き連れて先へ進む。
彼女達は慎重に進んでいったが……特に何も怒らずに、村の入り口まで辿り着くことができてしまった。
「あれは……盗賊ッ!? もしかして村の皆をっ!?」
緑色の村を注視していたランは、そこから出てくるの者達を目敏く見つける。
そこにいたのは――どこからどう見ても盗賊にしか見えない、人相の悪い男達だ。
剣の刀身が、足場の不安定な砂漠地帯で相手を斬り付けることができるよう曲がっている……間違いなく砂賊がよく使う装備だ。
この異変と盗賊が関係している。
ランが突如として現れたその二つの要素を結びつけるのも、ある種当然のことだった。
「行くよお前らッ! まずはあの――砂賊を潰す!」
ランは思い出していた。
貧しくも清らかな、村人達の姿。
自分に感謝してくれる子供達の笑顔。
そんな慎ましくも素敵だった村を壊した盗賊どもになど――容赦はしない。
彼女はその剣を振り上げ……。
「あれ、ランさんじゃないですか!」
「はあああああ……って、え?」
その剣を、すんでのとこでぴたりと止めた。
その盗賊達の後ろに、自分の知っている顔があったからだ。
名前はたしか……メグだったか。
「メグちゃん……で合ってたかしら。久しぶりね、元気してた?」
「ええ、元気でやってますよ!」
どうやら脅されているという感じでもない。
というかむしろ、彼女が盗賊を従えていそうな雰囲気すらあった。
まさかただの村娘が突然盗賊の頭になったとは考えづらいが……。
「どうして村を出て行こうとしてたの?」
「え? ええ、それは……魔物を狩りに行こうかと思って」
「――魔物を狩りにっ!? そんな、下手に足音を立てたらサンドワームやサンドボアーに襲われるわよ!?」
「大丈夫です、俺達……鍛えてますから!」
そう言ってメグの代わりに前に出てきたのは、溌剌とした青年だった。
彼が耳打ちをすると、メグはこくりと頷き中へと入っていく。
「あ、ちなみに俺の名前も覚えてますか?」
「ええ、たしか……」
(ダンさんですよ、ダンさん)
「ダンね、覚えてるわよ、もちろん」
「あ、あはは……ありがとうございます」
後ろにいる冒険者から明らかに後ろからアドバイスをもらっていたランに苦笑いしてから、ダンはここに至るまでの状況を説明し始めた――。
【しんこからのお願い】
この小説を読んで
「面白い!」
「続きが気になる!」
「応援してるよ!」
と少しでも思ったら、↓の★★★★★を押して応援してくれると嬉しいです!
あなたの応援が、しんこの更新の原動力になります!
よろしくお願いします!