来客
この村の人達は、結構忙しく日々を過ごしていたりする。
今までやってきた畑の仕事や鍛冶仕事のような稼業に加えて、果物の収穫作業を定期的にしなくちゃいけなかったからね。
けれどそれも、僕が自動収穫を使えるようになったことでほとんど解決した。
おかげで今は彼らも以前のような生活が送れている。
僕は樹をいじったりフルーツをストックしたりしているだけなので、実はそれほど忙しくない。
むしろ忙しいのは彼女……ナージャの方だ。
「ウッディ、帰ったぞ」
「ナージャ、お帰り」
当たり前だけど、果物だけだと栄養が偏る。
人間というのは、ちゃんと穀物や肉なんかも、バランス良く食べたりしないとよくないのだ。
聖域ができたおかげで、穀物はなんとかなりそうだった。
となると次に問題になってくるのは、肉の確保である。
僕が樹を植えるだけではどうにもならないお肉の確保は、現在はナージャに任せてしまっている。
「今日はサンドボアーを狩ってきたぞ」
「うん……すごく大きいね、それ」
ドスンッ!
勢いよく置かれたのは、まるまると肥えている一匹のイノシシだ。
砂に擬態するためか、皮膚が薄い茶色になっている。
これが、サンドボアー……冒険者なんかに討伐を依頼する強力な魔物って話だけれど。
「獲物に困らないのは助かるな。どうやらこのあたりの魔物はまともに間引かれていないし」
幸い、僕らが肉に困ることはあまりない。
僕は樹結界で守られていたり聖域で遠ざけてもらったりしているせいでイマイチ実感しづらいのだが、どうやらこの砂漠には結構な数の魔物がいるらしく、ナージャがすぐにサーチ&デストロイしてくれるからだ。
「他の村の人達はどうやって生活をしてるんだろうね?」
「恐らくだが、足音を立てずに静かにひっそりと暮らしているんだろう」
「足音?」
「ああ、砂漠の魔物達は皆一様にかなり視力が悪く、その代わりに聴覚が発達している。一箇所に固まって暮らしている分にはバレにくいのだろう。そしてドンドンと足音を鳴らしてやれば、面白いほど簡単に獲物が釣れる」
そう言ってニヤリと笑うナージャ。
ここに来てからは世界樹の力でほとんど魔物と戦うこともなかったから、どうやら鬱憤が溜まっていたらしい。
彼女のストレスも発散できて、僕らも美味しい肉が食べられる。
誰も損をしない、両者win=winの素晴らしい取引だ。
「なるほどね。ちなみにダンとメグの様子はどう?」
「まあまあだな。ほら、ここの傷なんかはダンがつけた傷だぞ」
ナージャは剣技関連の素養では一二を争うほど有能な『剣聖』の素養持ちであり、ぶっちゃけた話ここらへんの周囲の魔物と戦う分には、相手が束になっても負けるようなことはない。
なのでナージャには現在『剣士』の素養を持つダンと、『海賊』の素養を持つメグと三人で行動をしてもらっている。
彼らを実戦の中で鍛えてもらっているのだ。
さすがにナージャがどれだけ強くても、一人じゃ手が足りないからね。
ゆくゆくは彼らにも、魔物狩りを単独でこなしてもらえたらと思っている。
それに今後は改心させた盗賊達を率いる役目も担う人員も必要だし。
リーダーとしての能力も高いんだけど、やっぱりナージャは剣を振るっている時が一番輝いてるからさ。
そんなことを考えながら、僕は水筒を開いて中に入っている紅茶を飲んだ。
今、隣にアイラはいない。
最近は僕と別行動を取ることも多い彼女には、『水魔法』と『火魔法』の素養を持っている二人を相手に教鞭を執ってもらっているからね。
シェクリィさんは今も元盗賊達に説法を聞かせているだろうし、村の中でも責任ある立場にある人達は結構忙しい。
ただ樹を植えているだけの僕が、実は一番暇なのかもしれない。
「ウッディ様ッ!」
そろそろシムルグさんにウィンドマスカットを運びに行ってあげないとなんて考えていたら、メグが大急ぎでこちらに駆けてきた。
切羽詰まった表情だ。
魔物を狩ってきたばかりで全身砂まみれの彼女が、村の出口のあたりを指さしながら叫ぶ。
「――商人です、商人のランさん達が来ました!」
「どうする、ウッディ?」
「……と、とりあえず会いにいってみよう」
僕はメグに難民達への言伝を頼み、その間に主要なメンバーを集めることにした。
アイラとシェクリィさんとシムルグさんを引き連れ、難民達のいる村の入り口へと向かっていく。
聖域の結界はあくまでも魔物よけのもの。
人間の侵入を防げるようなものじゃないので、何かが起こるより早く行かなくちゃいけない。
そういえば、以前シムルグさんとナージャが空から飛んできた時には、危険を知らせるために世界樹はピカピカと光ってたよね。
でも前の盗賊騒ぎも、今回商人が来た時にも世界樹はまったく変化なし。
そこらへんに何か理由はあるのかもしれない。
この一件が終わったら、ちょっと調べてみようかな。
ああ、どうしてやらなくちゃいけないことっていうのは、どんどん積み重なっていくんだろう。
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