牧師シェクリィ
元は滅びを待つだけだったはずの、小さな名もなき村。
けれど今その村は、やってきた者達の力によって確実に変わり始めた。
かつては名前もなく、ただ最南端の村などと呼ばれていた場所には、今では別の名がついている。
それをやってのけた領主の名前と力にあやかって、その村はこう呼ばれていた。
――ツリー村と。
周囲よりも高さのあるハウスツリーは、尖塔のような形になっている。
交配によってウッディが生み出したこの特製のハウスツリーには、多数の椅子が立ち並んでいる。
多数の人がやってくることを想定して作られているこの家には、なんと採光用の穴まで空いていた。
このハウスツリーの用途は……教会。
神を信じる者達の、祈りと憩いの場だ。
「皆様、ごきげんよう」
そういって教会の中にある教壇へ上っているのは、シェクリィである。
以前のような襤褸切れではなく、しっかりとした衣装に身を包んでいる彼は周囲の者達にぎこちないながらも語りかけていく。
その話を聞いているのは、皆強面の男達ばかりである。
かつては村の代表だったシェクリィの今の仕事は、村長兼牧師。
彼は『牧師』の素養を使い、彼ら盗賊達を更生させるよう命じられているのだ。
「けっ、誰が教会なんぞ」
「ちっ、あいつさえいなければ……」
「はあ~、めんどくせぇ」
魔法の檻に閉じ込められてまともに移動ができず、久しぶりに移動が許されたかと思えば、やってきたのは教会。
信心などというものと縁遠い彼らは、明らかにつまらなそうな顔をして座っていた。
今すぐにでも牙を剥きそうな彼らが、文句を言いながらもしぶしぶと言うことを聞いているのは、シェクリィの後ろにナージャが控えているからである。
下手なことをすれば彼女に殺されることがわかっているため、逃げたりはできない。
けれど牧師のつまらない話など聞きたくない……と盗賊達の態度は思わしくなかった。
(私になんとかできるでしょうか……でもまあ、やってみるしかありませんか。牧師としての初仕事がこれとは……ウッディ殿は本当に人使いが荒い)
シェクリィはくるりと振り返り、後ろに歩いていく。
その先には、布のかけられた謎の物体があった。
彼がひらりと布を取り払うと――そこにはシムルグそっくりの木彫りの像と、等身大スケールウッディのフィギュアがあった。
「皆様、神を信じましょう。信心さえあれば、あなた達の道は必ず開かれます」
最初はたどたどしかったシェクリィの説法からは、話す度によどみがなくなっていく。
これが素養の力か……と実感しながら、シェクリィは彼らに物事の道理を説いていく。
彼は王国で信じられている聖教を信仰もしていないが、自分達のことを助けてくれたウッディとシムルグのことは信じている。
聞きかじりの聖教の知識と自分の経験談を交えることで、シェクリィは独自の宗教を完成させたのである。
その信仰対象はもちろんウッディとシムルグ。
風が得意な神獣のシムルグととんでもない樹を植えるウッディから採り、『風樹教』と呼ぶことにした。
シェクリィの思いつきから生まれた『風樹教』は、こうして発展していくこととなる。
盗賊達もその豊穣を実際に見ることで信仰心が増していき、そこに聖域の浄化作用が加わることで、悪心は取り除かれていく。
そして気付けば彼らは立派な村人として生まれ変わり、ナージャに率いられて砂漠での狩猟部隊として活躍することになるのであった……。
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